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アラサーの私、結婚したくて今日、祠を壊します! ~壊したら嫁にしてくれるなんてとても都合のいい話ですね?~  作者: あかね
その後……

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それって大変

 この世には結婚の挨拶をする相手が膨大に発生することがある。

 それが今だ。


 私の結婚相手、会社社長だけでなく、温泉地を持つ地主、さらに山の管理をする怪異。

 挨拶する相手が被らず三倍どん! という勢いだ。


 涼さんはすまなさそうだけど、これは仕方ない。

 すぐにではないが、会社を辞めてこちらに引っ越し予定がある以上、挨拶なしはありえない。

 できる限り好印象をと思っていたんだけど……。


 挨拶のために温泉宿、ホテル、飲食店など巡ったあとに疑念を覚えた。

 おお、これがあのお嫁さん、という雰囲気がずっとしていたのだ。珍獣みたいな。都会から来たいけ好かない女と言われるよりはましだと思うけど。

 次は会社の人紹介するよということで移動中。逃げ場はない。話を振るには良い頃合いだ。


「なんか、事前に話してました?」


「最愛の人です、くらいかな」


「さ、」


 なんだそれは、一度も言われたことない。


「何でも叶えてあげたくってとかも言った気がする。

 そうでもないと苗字も変えるの不審だし、即同居ともならないのも変ではあるだろ」


 合理的な理由を言われた。


「変えたくなかったりした? 私のほうが変えても良かったんだけど」


 偽装結婚の都合上の話で、苗字を変えるのが嫌という話ではなかった。


「新しい名前は気に入っているよ。

 まあ、書類書き換え面倒で今もしてるけど」


「今も?」


「土地の名義や会社関連での届け出やらなにやら僕の名前が入っているもの全部だからね」


 思ったより大仕事だった。


「離婚して再婚する?」


「もう手続きも半分以上は終わったし、そこまでじゃないよ。

 色んな人に事前に言えとか言われたけど、言ったら阻止されそうだったし」


「手続きとか考えれば当たり前だと思うよ」


「僕としては借り物じゃない本当の名前になった気がしたから、いいんだよ。その分手当増やす方向で話している」


「そう」


 事前に聞いていて良かった。事務関連の方にはお手数をおかけいたしましたとちゃんといえる。

 そのあたりもあるんじゃないかと事前に気がつけばよかったんだけど。

 いつもがいつもで、社長さんという感じが全然しない。

 今日は流石に社会人って感じがする。


「最初の市谷って人は、もともとこの地の人じゃなくて、土地を買った人だったんだ。その頃はこのあたりはなんにもなくて、二束三文って感じだったらしいよ。

 山に人を捧げるなんてと言って止めて、刺されて」


 なんか重い話が軽い口調で語られている。

 ぎょっとしたような私にちょっとだけ苦笑いした。


「刺されたやつを食べた。で、その姿や知識を頂戴したのが僕の前の前の前くらい。そこからは人の擬態やってる。

 だから、借り物ではない自分であるような気がして新しい名前は気に入っているよ」


 おそらく、気にすんなと言いたいところなんだろう。重い。すっごく、重い。

 というかさらっとここが因習村であった過去が語られたんだけど。


「気に入っているなら、いいけど」


 他にどう言うべきだったかというのはわからなかった。


 それからほどなく、会社の駐車場に着く。

 広大な駐車場に本社はちまっとあった。なんでも地方あるあるだそうだ。どこに行くにも車で、駐車場がなければ話にならない。さらに仕事で使う車も仕事終わりには戻ってくるからより大きいらしい。


 車とは無縁の私。これから教習所通いが決定している。免許はとったけど、ペーパーからいきなり運転というのは大変恐ろしいらしい。


 会社の中は人が少なかった。


「みんなは?」


「奥様がいらっしゃると聞いて作業場片付けなきゃ、だそうですよ」


「休憩室片付けておけって言ってたのに……」


 作業場本体ではなく、おそらく隣接している休憩室の方が問題であったらしい。

 事務の村井さんを紹介してもらい、挨拶と共に手土産を2つ渡す。一つは会社用。もう一つは彼女のお家に持って帰ってもらう用。

 賄賂に村井さんはふむと頷き、握手を求めてきた。


「今後とも宜しくお願いします。奥様」


「ええ、よろしく」


 なんかちょっとわかり合えたような気がしないでもない。

 それから作業場のほうにも移動し、他の社員も紹介してもらった。


 なんか変なの二人混じってた。


 狐耳ついてると言うわけにもいかず、神妙な顔をしていたが、あれはなに!?

 もう一人は頭に皿が載ってた。頭髪が薄いだけじゃなかった!


 なお、他の人には見えてないようだった。あるいは慣れすぎて反応しないか。ソッチのほうが怖い。


 後で聞いたところによると一人は山にいたお稲荷さんで祠を壊され色々あって人間社会で生活しているらしい。もちろん擬態しているので尻尾も耳も見えないようになっている。

 もう一人は、先代が連れてきたそうで川で悪さをしていたところを懲らしめた結果らしい。そろそろ定年退職と聞くと妖怪にも定年が……と微妙な気持ちに。

 親戚と偽ってもう一回来るかは検討中らしい。


 この世に紛れている怪異けっこういるのかもしれない。


 そんなドタバタな一日を過ぎ、涼さんの自宅に帰ってきた。

 明日は明日で他にも行く先があるらしい。


「お邪魔します」


「そこはただいまで良くない? ここも君の家」


「で、では、ただいま」


「おかえりなさい」


 ものすごく、照れた。なにこのごろごろと転がりたいような衝動。


「まあ、上がって。

 掃除が行き届いてないところは目をつぶってほしい」


 そう言いつつ、涼さんは家に入っていった。私が照れまくっていることはスルー。

 謎の敗北感を胸に私は家に入った。

 事前に荷物を送って身軽にしてきたので、ここに到着してすぐにあいさつ回りしてきたのだ。

 だから、今初めてこの家に入る。


 おばあちゃんち、みたいな、古い日本家屋だった。廊下はちょっとぎしぎしいう板張り。壁はなんだかキラキラする土っぽいなんか。引き戸は半分が障子で半分がガラス。

 案内された部屋も和室。

 こたつを出すような季節ではないのに、こたつ常設だった。


「なにめくってんの?」


「猫いたりしないかなぁって」


 ここまで田舎の家ならばいてもいいのに、こたつは猫を装備していなかった。

 呆れたような涼さんはそれでも何も言わず、お茶を用意する。


 お疲れ様でしたとお互いを労い、なんとなくつけたテレビをぼんやりと見る。

 なにか話したいけど、今日はちょっと疲れた。


「今日はありがとう」


「どういたしまして。

 ほんと、ちゃんと社長してるからびっくりしちゃった。家では溶けてたのに」


「そりゃあ、家、だからね。

 誰といても本当がバレないか気が抜けない」


 そのわりにうちでは早いうちに気を抜いて触手ちゃんが自由を謳歌していたような。

 ベッド届いた初日に本性で爆睡してたし。寝なくて平気といってたわりに眠かったんだなとカワイイなと思った。

 その日から数日くらいこっちを伺うような様子もあったけど、そのうちに平気で本性でいるようになっていた。


「うちは居心地良かった?」


「君のそばは、居心地良かったよ」


「それは、よか」


 ん? んん!? なんか、今、私がいるからと言われたのかい? そういうデレなのかい!?


「さて、お風呂入って明日に備えたほうがいいな。

 山登りだ」


「そ、そうだね」


「祠はもう壊さないように」


「しません。もう旦那さんがいるので」


「どうだか」


 疑いの眼差しが痛い。最初が最初だけに疑われても仕方ないような。

 色々準備してお風呂に入り、早くに休むつもりだった。

 客間に用意された布団が2つ。


「ええと涼さんも一緒にお休みで?」


「別のつもりだったけど、なんか心配になったから。それに匂いもつけとかないと僕のだってわからないかなぁって」


「匂いつけって」


「貸したげる」


 触手ちゃんが僭越ながらと言いたげに揺れていた。

 お、おう。抱き枕代わりね。健全ではない妄想は存在しないと言わんばかりに触手ちゃんたちは品行方正で。


 ……汚れたあれこれはないのかそうかないのかと薄汚い大人の何かを抱えつつ、休むことになった。


 しかし、翌日抱えていたのは触手ちゃんではなく、本体の涼さんだった。


「寝相悪いってよ。潰されるかと思ったって」


 眠そうな涼さんの証言に撃沈した。

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