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アラサーの私、結婚したくて今日、祠を壊します! ~壊したら嫁にしてくれるなんてとても都合のいい話ですね?~  作者: あかね
いかれた人間と結婚するまでの七か月

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結婚とそのあと

 怒涛の数か月を超えて、酔い潰される結婚式が終了した。

 途中から僕の記憶があやふやだ。くっそ、調子に乗って飲ませやがってあの魑魅魍魎。そのくせ、帰り際にははっきり酔いが醒めている。誰かが解毒していったんだ。

 なにが、新婚さんにはお楽しみの時間だ。

 セクハラとパワハラだ。

 幸い、というより、陽葵には聞かせなかったようだった。そっちは保護者が怖いから。


 撤収作業を終え、近くのホテルに宿泊することになった。聞いたのは式が始まる直前。お祝いだからとアリアが手配したというが、罠か試練でしかない。

 ご機嫌にほろ酔いの陽葵は隙だらけで、僕の前で、半裸になってそのままベッドで寝ようとした。

 一個しかベッドないのに!

 色んなぐちゃっとした気持ちに折り合いをつけて、どうにかお風呂に追いやり、やれやれと落ち着こうとした。


「さっぱりした」


 そう言って出てきた陽葵はバスローブでちょとはだけていた。

 無言で直した。

 幼児とか介護だと思えばいい。無だ、無。


「早く寝なよ、酔っ払い」


「酔ってません」


「酔っ払いはいつもそういう」


 ひどいと言う声はいつもより子供っぽい。それでも言われた通りにベッドの上に横になって、ぽんぽんと隣を叩いた。

 横に来なよ! という意志を感じた。


「別室でやることあるから」


 そうして、朝まで別室のソファで過ごそうとすれば、一緒に寝ましょうよぉと面倒な酔っ払いをして、なぜか大きなベッドの上で正座して向かい合うことになった。


「触手ちゃんたちもがんばりました」


 今日一日大人しくしていたやつらがわさわさと動いている。ひとつ、二つ、そのうちに分離しないといけない気がする。ものすっごい勝手に動いているのがいるから。

 そう思っているうちに陽葵は末端をなでなでしている。なんだかとてもうれしそう。


「僕は撫でてくれないの?」


 ……大失言だった。

 ぽかんといった表情で陽葵に見られたのが痛い。あまりの沈黙にいたたまれなさが。


「では、僭越ながら」


 おずおずとした手が、手に触れた。


「なんでそこ」


「え、触手ちゃん、おてて、って感じしたから。

 ……頭の方だった?」


「忘れてっ!」


 笑いをこらえたようにかわいいと言われてもう羞恥が限界を超えそうだ。


「涼さんもがんばりました。今までありがとうございました」


 なんだろう。

 犬、みたいな気分になる撫で方された。髪の毛ぐしゃぐしゃなんだけど。やっぱり酔っ払いだから……。しかし、素面な陽葵に言う気もない。


「君もね、嘘とはいえ、よくここまでしたよ」


「二度とないと思ったらついうっかり。

 これから、また家を養う生活に……」


 ふわっとあくびしている。眠い眠いと言いながらごそごそ掛け布団に潜り込んでいる。なんかもう、いろいろはだけてるけど、指摘しないことにした。言ったところでバスローブははだける。そもそもあれは着て寝るものなのか。


「おやすみなさい」


「おやすみ」


 そう言っても陽葵は一向に目を閉じそうになかった。それどころか眉間に皺寄せている。


「初夜します?」


「寝ろ」


「横に来てくれたら寝ます……」


 そう言っているうちに爆睡された気持ちを考えて欲しい。

 もう少し、警戒するとか、ないのか。


「……寝よ」


 考えるのもばかばかしいような平和そうな寝顔見てたらどうでもよくなってきた。とにかく予定は消化した。

 あとのことはあとのこと。

 と思っていた。


 明け方近くに末端の一つに頭突きされた。


「なっ」


 寝ぼけたにしても強烈で慌てて起き上がろうとしたところで声が聞こえた。


「……きなの。可愛い君たちともお別れ、寂しい」


 意識を向けなくてもどこに誰がいるのかはわかった。自分が大変油断をした姿をしているということも。家でもないのに、本性のまま寝るとかありえない。どんだけ安心しているのかと。

 その末端の一つがつんつんされていた。


「一匹、おうちに来ないかなぁ。いや、本体ごと来てほしいっていうか。

 ……うちの子になりなよぉ」


 優しく触れる手にぞわっとする。今まで感じたことのない感覚というより自覚したくなかったものだ。

 ほんとうにこんなモノに優しくするから、つけ込まれるんだぞというところと絆されたのは僕かもしれないというのが半々。

 まあ、こういうものと暮らすのが嫌でないというのならば、口説いてもいいわけだ。


 契約だからでもなく、君といたいと。


「かわいいねぇ」


 それならば、今夜は耐えることになる。その場の雰囲気だと勘違いしそうなことは慎んだほうがいい。

 しかし、意識すればその手つきは拷問じみている。

 結局、それから寝ることはできなかった。



 結婚式から一週間。色々残っていたやるべきことも片付いた。

 契約満了につき、偽婚約者兼夫は終了した。

 周囲にはお互いの仕事があり、しばらく別居婚になると伝えているらしい。新婚旅行も後でと言っているそうだ。

 これから一年後くらいに離婚しましたと神妙に申告するつもりらしい。


 つまり、一年以内に頷かせるというタイムリミットがある。


 ……ただ、そんなに期間かけなくても、なんなら今すぐにでも陽葵は頷きそうに思えた。それくらい名残惜しんでた。

 僕の触手と。


 ……まあ、いい。僕のほうがオプションじゃないかなと思うところはもうあきらめよう。そういう趣味なんだし。


 契約が終了したからといってすぐに出るわけにもいかない。色々荷物が増えている。

 ひとまずは引っ越しをすることにした。とはいっても同じマンションの別室だ。売りに出ていたのを買った。単身者向けで格安で売られていたのだ。

 前の購入者も一年程度で売りに出している。明らかに訳アリな部屋だ。引っ越して荷物がもうないはずなのに一つの窓にカーテンがかかったままだ。

 その窓からは元々ここにあった社が見える。ちゃんとお伺いを立てて、正式な手順にのっとり移転している。以前より高い位置に祀られているせいか窓と高さがあってしまった。

 見られている気がすると前の住人は言っていたらしい。


 カーテンをめくると確かに何かを感じる。ただ、事前にここに住むことは伝えてあるので悪意はない。ただ、やっぱりみられるのは気になる。

 見守っていたつもり、らしいので悪意はないんだけどね……。人向きの物件ではない。

 僕は荷物置きにしか使うつもりがないからいいけど。


 こうして事前の予定通り、神棚は中身付きで陽葵の部屋に残し、帰郷することになった。

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