初対面から同居まで
たいくつ。
もう何年も同じことの繰り返しのように思えていた。実際、日常に変化らしい変化もない。温泉地ではあるものの目立つ観光地でもなく徐々に寂れていく。山は管理していたものの木材も輸入物に押されて売れなくなっているのはもう何十年も前からだ。
時折刺激を求めて都会に行くものの、本拠地を離れて長くいるには力が足りない。
一度出かけると半年は住処を離れるのは難しくなる。
刺激がなくて退屈。
この先もずっとそうだろう。
そう思っていたのが間違いだった。
ある日突然、祠が壊された。うっかりというレベルではない。完全に壊す気で、殺る気満々だった。
「君なんなの!? 突然家破壊するなんて!」
そんなの思わず叫ぶじゃない。
お昼寝してたのに、屋根引っ剥がされたら! この山では断トツに大人しいどころか、世を忍ぶ仮の姿で真面目に働いてんのにっ!
「祠を壊したら祟られて、嫁にされると聞いて」
頭おかしいのかな?
そもそも、である。僕はそいつをまじまじと見た。
「は? なにその山林に入る業者の人みたいな恰好で、見初められると思ってんの?」
壊した人は顔くらいしか露出、いや目元くらいしか見えない。山林作業員でももうちょっと軽装だというような恰好をしている。
もちろん、性別はわかりにくい。
声で女性かなぁくらいの判別できたくらい。
しかも、地面においたリュックからヤバそうな神気が漂ってきている。本人も腕に数珠みたいなのをつけていた。あれもなんだか薄ら寒い雰囲気をしている。
滅しに来た、というほうが納得がいく。
というのにやっぱり話を聞くと嫁にしてくれという。誰が、こんな危険そうなイキモノと結婚できるというのだ。
本人が言うには婚活が失敗しすぎて自信喪失、人間が見る目がねぇんだよと怪異に目を付けた、らしい。
途中まではともかく、結論がおかしい。よっぽど追い詰められているということだけがわかる。
関わり合いたくない。
なのに、結局、契約することになった。
断ったら祠を壊すというんだから。その筋では有名な退魔師の家紋がはいったバール振りかぶられてはたまらない。祠の外装だけでなく、中の空間にも被害が出る。拠点作り直すには時間と労力と力が必要なのだ。
それくらいならちょっとの不自由のほうがましである。
本当なら、全部忘れさせて追い返すのが一番マシである。それが簡単にできなさそうなくらいに、加護が特盛。装備もやばい。
こんなに圧がある女なら、普通に結婚できないというのもわかる気はした。
ちょっと手出ししにくい雰囲気がする。結婚詐欺はその雰囲気がわからないやつが手出しして、痛い目を見たというところじゃないかと思えた。
その結果、僕に火の粉がかかってきたのは冗談じゃないというところだけど、仕方ない。
別拠点が設営できれば、都会でも過ごしやすい。この機会に観光とちょっとお仕事をしてくるついでにちょっとだけ付き合えばいい。
そのうちに疲れたといってやめると言い出すかもしれないし。
最後に腹いせに憑いた。移動が楽になるし、人の生気を吸ってちょっと元気になる。ただし、憑かれた本人は疲労が増える。
「ん?」
抵抗なく憑けた。負荷すら感じてなさそうである。稀にそういう体質がいるが、そいういう体質なのか、装備品の都合なのかはわからなった。
まあ、困らないかと言わないことにした。
翌日、東京行きの電車で隣の席に普通に座ってきた。席が向かい合うような電車なのにもかかわらず。こういうときははす向かいにすわるものではないのだろうか。
「一度荷物置くために帰宅するね。うちはここなんだけど、あ、都内の電車つかえる? どこか行きたいときには一緒に行ったほうがいいのかな?」
彼女は身を寄せてスマホを見せてくる。なんだか距離が近いどころじゃない。無防備を通り超えて意識してない。
「陽葵さん」
「はい?」
きょとんとして見上げてくる。
「近い」
「すみません、ちょっと浮かれてて」
微妙な距離はこぶし一つ分くらい。
「その、疑似でも恋人がいるのが初めてなので」
「……はじめて」
うかつにもきゅんとした。
恥ずかしそうに頬を染めるのが可愛いじゃないかと思いかけて却下した。昨日、この女は僕の住処を破壊して脅したのである。
かわいくはない。
「なので、この機会に出来るイベントは全部消化するつもり」
「……それ、イベントで、消化という単語で終わらせるものなのかな」
そういうとこがモテないんではないか、ということは言わないことにした。
ショックを受けたように固まってしまったところに追い打ちをかけると何が起こるかわからない。
「できる範囲は応じるけど、嫌な時は断るよ」
「それでよろしくお願いします」
神妙な顔でお願いされてしまった。
僕なんかでいいのかと思うところではあるけどね。
彼女の家に帰るまでの道中は今後の仮の予定と家でのルールなどを決めることになった。
家はローンが膨大に残っているので、きれいに使ってくれと念押しされる。いざというとき売る資産であるらしい。
彼女の家はわりと良い立地のマンションの一室だった。
「こっち使ってね」
がらんとした一部屋を提供された。そのまま家具やら日用品を買いに出かけることになった。そこまでは順調に進んでいたと思う。
ついでに神棚でも、と見に行ったのが悪かった。
品ぞろえの豊富さに迷いに迷い、数時間使ってしまったのだ。僕としたことが……。
さすがにちょっと呆れられた。サイズとか材質とか色々あるんだよと言い訳がましくいってしまった。
家に帰って食事を作るという感じでもなくなり、外食後、帰宅。
彼女は明日仕事なんでと早々に眠ってしまった。
「アイス食べよ」
途中まで見ていたドラマの配信を見ながらの夜更かし。人の家に来て初日にやることじゃないが、ベッドもないんだから仕方ない。配送は三日後。ソファで寝るというと気にしそうだし、一緒に寝ようと言い出しかねない。寝ている間にうっかり本性表して潰しかねないのだから。
2,3日寝ないくらいどうってことはないんだ。いない間に仮眠すればいいし。ちょっと疲れるかもしれないけど。
と思っていたんだけど。
不思議なくらい疲れなかった。むしろ、過充電。お留守番のほうも充電されている。
憑いているけど、それでもっていける量を超えている。疲れないだけでも珍しいというのに。
なんかありそうだな、コレ。と思うが、無自覚そうで聞ける相手というのをさがすしかなさそうだった。
そんなとき、ちょうど彼女の友人から会いたいという話がきた。
彼女を祠に送り込んだ原因であるらしい。
もちろん、断らなかった。聞きたいことは色々ある。




