縛られていない一方向を僕にください
どこも、何かしらの物体で埋まっている。
壁があったり、草木があったり。
無機物があったり、有機物があったり。
それは、現実。
形あるもの。
色あるもの。
それは、現実。
向き合っているだけで、息が詰まる。
帰り道。
道端に、お地蔵さんがいた。
何となく願っていた。
それは、形あるものなのに。
それは、硬質なのに。
「縛られていない一方向を、僕にください」
そう願っていた。
そんな願い、叶うはずないのに。
真っ白でも、透明でもない、本当に無の一方向。
そんなものは、不可能だ。
白目むいても、変顔垂れ流してもいい。
何の記録にも、記憶にも残らない一方向。
そんな場所があったら、この精神もすぐに、なめらかになるのに。
気付くと、前方が揺れていた。
大胆に。
壮大に。
形を変えながら、シンプルへと移行してゆく。
そして、縛られていない一方向らしきものが表れた。
まさに無だ。
その一方向に、悪い感情が吸い取られてゆく。
どんどん、吸い取られてゆく。
そんな感覚があった。
逃げ場があるって、いい。
何もないって、いい。