盗賊は少女を守りたい
「ぜぇ、ぜぇ……くふぅ……」
荒い息を吐くクライブにレナが水筒を差し出している。
「大丈夫、クライブ兄ちゃん」
「あ……、ああ、大丈夫だ。ングング……プハーッ!」
中間地点である大広間を抜けた後、リーファ達はラムザスが言ったように女型の自動人形の襲撃を数度に渡って受けていた。
その襲撃の全てをクライブは一人で引き受けていた。
ラムザスに言われたからでは無く、それはクライブ自身が望んだ事だった。
彼は徐々に強くなる人形達を実戦訓練の道具と考えたのだ。
「アルマリオスの魔力を以て、盗賊クライブの傷を癒せ、治癒」
リーファは手を翳し傷ついたクライブの体を癒し、キュッと眉を寄せた。
「クライブさん、まだ私との力の差とか考えてます?」
「……」
「えっとですねぇ、そんな事、考えなくても適材適所、クライブさんが無理して強くならなくても……」
「強い事は邪魔にはならねぇ。力がありゃ選べる道も増えるだろうが」
「それはそうかもしれませんけど……」
無茶をしても強くなれる訳ではないでしょうに……。
「ラムザス、お前達の大将のルザムはお前らよりも強いんだろ?」
「うむ。魔王になってからも、ルザムは邪神の指示で魔族と戦い、その血を浴び続けているからな」
「だったら、俺が強くなることは無意味じゃねぇ」
「クライブさん……」
リーファの肩の上、クライブの言葉を聞いて顎に手をやったアルマリオスが口を開く。
「……クライブ、この迷宮を攻略し終えたら、アルベルトがいたデュード人の地下迷宮に潜ってみるのはどうかな?」
デュード人の迷宮、地下百階層に渡る大迷宮でアルベルトがいたのは地下三十階。
さらにあの下に七十階層、迷宮は続いていたはずだ。
魔族化したアルベルトは下階層には、それまでよりもさらに強い魔物がいると言っていた。
「あの地下迷宮か……この命の指輪の力で強くなるにも、あそこは確かに都合がいいかもな」
クラブが装備した命の指輪は、邪神の呪いを解いておらず、浴びた魔物の血でその魔物の能力を取り込む事が出来る。
無論、普通の人間では能力を取り込んでも力の行使は出来ない。
人族と呼ばれる者たちは大半が炎を吹いたり、体内で毒を生成したりは出来ないからだ。
だが、体が魔族化しつつあるクライブなら、その取り込んだ力を使うことが出来るだろう。
「クライブさん、行くなら私も一緒に行きますからね」
「そんな暇はねぇだろ? お前がアルベルト達と氷の大地に行ってる間に俺は一人で潜ってくるわ」
「一人って、そんなの駄目に決まってるでしょっ!!」
「クライブ兄ちゃん、レナも一人はダメだと思うよ」
「なら拙者たちが付き合ってやろう」
話を聞いていたカイエンがラムザスの肩を掴みグイっと押し出した。
「吾輩もかね……」
「上手くすればテレサもこちらに加わる。バランスはいい筈だ」
「ふぅ……取らぬ狸の皮算用という言葉を知っているかね」
「もちろん知っている。その言葉をお主に教えたのは拙者だからな」
カイエンの頭の中では、テレサを人に戻しクライブと共に迷宮に潜るつもり満々のようだ。
そんなカイエンに首を振りつつ、ラムザスは言葉を紡ぐ。
「ともかく、テレサを何とかしてからの話だ」
「当然だ」
元々は勇者パーティーだったとはいえ、元魔王軍の幹部が自分たちのリーダーを倒すために協力してくれる。
そんなおかしな状況に苦笑しつつも、リーファは書庫の奥へと足を踏み出した。
■◇■◇■◇■
あの後、数度、クライブは自動人形と戦っていた。
そのたび、人形は強くなり、カイエンの指導やラムザスの助言によりクライブの動きも洗練されていった。
ただ、その事でクライブはかなりの消耗を強いられていたが……。
「ここでしばらく休憩しましょう」
迷宮の最奥、大きな金属の扉の前でリーファは一行にそう告げた。
「必要ねぇ。このまま突っ込もう」
「駄目です」
アルマリオスさん、クライブさんに眠りの魔法を。
心の中でそう言ってリーファはクライブに手を翳す。
「おい、何を……」
「アルマリオスの魔力を以って、盗賊クライブに安らかなる眠りを、睡眠」
「な、リーファ、お前ぇ……」
崩れ落ちたクライブの体をリーファは受け止め、書庫の床に彼を横たえるとその頭を膝に乗せた。
眠り、緊張が解けたクライブの無意識を反映してか、聖者の衣は柔らかな布の服へと形を変えていた。
その服から除く胸元や両手には、いつかのアルベルトのように黒くかたい毛が生えている。
「まったく、人には無茶するなって言うくせに、自分が一番無茶してるじゃないですか……」
リーファはそう言ってクライブの頭を撫でた。
レナはそんなリーファの横に座り、クライブの顔を覗き込む。
「……クライブ兄ちゃんはお姉ちゃんを守りたいんだよ」
「フフッ、女を守りたいというのは、男にとっては習性のようなものだからな」
「ふむ……リーファよ。そもそもクライブとはどこで知り合ったのだ?」
カイエンとラムザスも、横たわったクライブの周囲に腰を落ち着け胡坐を掻く。
「えっと、それは……」
リーファはクライブと知り合った経緯をレナ達に話して聞かせた。
ガラの悪い冒険者たちに絡まれた事、その冒険者を投げ飛ばした事で興味を持たれ、その後、アルベルトの剣を挿げ替える事に協力してもらった事。
「本当にクライブさんには凄く助けてもらいました」
「二人はなんというか、相棒って感じだったね」
「相棒……よい響きだ」
「リーファはゆくゆくはクライブと添い遂げたいと考えているのか?」
「そそそ、添い遂げるッ!? そそ、そんな事は微塵もッ!!」
ラムザスの問いかけにリーファは顔を真っ赤に染めてブンブンと首を横に振った。
「なんだ違うのか?」
「えー、レナはクライブ兄ちゃんはお姉ちゃんの事、好きだと思うけど……」
「レナさんまで何をッ!?」
「……俺とリーファはそんなんじゃねぇよ」
いつの間にか目を覚ましていたらしいクライブは、そうつぶやくと身を起こしリーファの頭を黒い毛に覆われた手でポンポンと撫でた。
「こいつ、危なっかしくて放っとけねぇからよ」
「むっ、危なかっしいのは最近のクライブさんじゃないですか」
「毎回、ボロボロになってたお前には言われたくねぇな」
言い合いをするリーファとクライブを見て、レナはオロオロとしていたが、カイエンとラムザスは優しい微笑みを浮かべていた。
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