女型の自動人形
庭師の役割を与えられた自動人形を横目に、丁寧に整えられた前庭を抜けたリーファ達は重厚な玄関扉を開け書庫の玄関ホールへと足を踏み入れた。
『いらっしゃいませ。私はこの書庫の執事を仰せつかっておりますリチャードと申します。お客様のお名前とご用件をお願いできますでしょうか』
「しゃ、喋ったッ!?」
「なんだか不気味です……」
玄関ホールの正面には庭で働いていた自動人形と同様、銀色の金属の顔と体を持つ人形がリーファ達に一礼しその青く輝くの目を向けていた。
リーファは庭師と違い言葉を発した人形に驚き、レナは人に似て人ならざるモノに恐怖を感じていた。
「ふむ、以前来た時は問答無用で押し通ったが……」
ラムザスはそう言うとポーチから水晶の杖を取り出し、その杖を人形に翳した。
杖の先に光が収束し人形を淡い光が包み込む。
「ラムザスさん、一体何を……?」
「少し待て……ふむ……情報の共有……なるほど、知識の共有と蓄積により成長するのか……ではここを書き換えれば……」
そう言うと大魔導士は浄化と再生の炎で取り戻した右手を複雑に動かし、印を描いた。
『ガガッ!? ……お帰りなさいませ、ラムザス様』
「うむ、この者たちは吾輩の客である。他の召使い達にもその様に通達せよ」
『かしこまりました……情報共有……』
執事人形の瞳が一瞬明滅し、すぐに元通りの青い光へと変わる。
「よぉ、ラムザス、一体なにが起きたんだよ?」
「吾輩を主の一人と誤認させた。お前たちは吾輩の客という事になっている。術式を見たが自動人形は個体が得た情報を共有、蓄積しより人らしい対応をするように設計されていた。先ほど吾輩たちの情報を他の個体と共有するように命じたので、攻撃される事は無いはずだ」
「うー、所々、理解できないトコがありましたけど、私たちは彼らからお客として認識されたってことですね?」
「そういう事だ……別系統で動いているモノを除けば襲われることは無いはずだ」
別系統で動いているモノ……それってつまり特別ってことですよね……なんだか強敵な感じが……。
「あの、ラムザスさん。その別系統で動いているモノって……?」
「以前、我々が武具を求め訪れた時にそういうモノがいたのだ。明らかに他の人形と違う動きをするモノがな」
「うむ、彼奴らだけは飛び抜けて動きが良かった。おそらく突然変異では……」
「いや、当時は吾輩も呪術にそれほど傾倒していなかったから、気付かなかったが、多分あれは実験体ではないかと思う」
「実験体……そういえば魔導鏡でここを調べていた時、やたらと動きがいいのがいたなぁ」
アルマリオスにも覚えがあるようで、リーファの肩の上で頷いてた。
「えっと、ラムザスさんたちはその実験体を倒したんですよね?」
「ああ、ルザムが一刀両断した」
「なら私たちも大丈夫ですよねっ」
「さて、それはわからん。実験体も同種同士で知識と経験の共有と蓄積をしているなら、吾輩達が戦った時より強くなっているはずだ……まぁ、お前たちなら問題は無いだろう。吾輩とカイエンもいる事だしな」
そう言うとラムザスはフハハと笑い、執事人形を下がらせた。
そんなラムザスの様子とは違い、リーファはなんとも言いようのない不安を感じていた。
取り越し苦労ならいいんですが……。
そんな不安を抱いたまま、一行はアルマリオスの案内で複雑に入り組んだ書庫の最奥、邪神の武具とアルマリオスの魂がいるだろう扉を目指し、歩みを進めた。
■◇■◇■◇■
リーファ達は、ほぼ戦闘する事なく歩みを進めていた。
時折、襲い掛かってくるモノはいたが、体の形は最初に彼らを出迎えた執事と同じであり、ラムザスが言うには術式の不具合、つまりは壊れているのだろうという事だった。
それとは別に廊下にはそこかしこに、壊れた人形の残骸が横たわっていた。
おそらくテレサの仕業だろう。
そんなこんなでたどり着いた大広間、おそらくこれまでの事を考えれば番人の間で、リーファ達はそれと遭遇する事となった。
それは今までに出会った自動人形とは明らかに違っていた。
これまでの人形は男性の体つきをしていたが、そこにいたのは女性型だった。
銀色に輝く金属の体は女性特有の滑らかな曲線を描き、右手には曲刀、左手には短剣を装備していた。
その両手の得物は淡く青い輝きを放っている。
『侵入者の存在を感知、対魔法防御発動』
そんな呟きの後、人形の体の周囲に障壁だろう淡い光の膜が浮かび上がる。
「なんか滅茶苦茶強そうなんですけど……ラムザスさん、あの人にも私たちがお客だって言ってくださいよ」
「ふむ……」
リーファの言葉を受けてラムザスは右手をかざし印を描くが、女型の人形に変化は起きなかった。
「……やはり魔法防御で弾かれるか……おそらくテレサが派手に暴れた所為で強化されたのだろう」
「しょうがねぇ。リーファ、レナ、いつも通り仕掛けるぞ」
「わかりました」
「了解です」
「カイエンは俺と一緒に近距離で牽制、ラムザスは魔法で援護してくれ」
「心得た」
「……万能なる魔力よ、戦士たちに更なる力を、五体強化」
ラムザスの詠唱が戦いの合図となり、クライブは転移で間合いを詰め、その後をカイエンが追う。
レナも弓に矢をつがえ駆け出し、リーファはラムザスを守る形で聖剣を構えた。
「オラッ!!」
初撃はクライブの放った斬撃だった。
人形はその聖剣の一撃を左手の短剣で受け流し、曲刀でクライブの腹を薙ぐ。
それを転移して躱し、次の瞬間には人形の背後を取った。
いただきだ。クライブはそう確信しながら振り上げた聖剣を振り下ろす。
「何っ!?」
人間なら防ぐことは難しかっただろう、その斬撃を女型の人形は上半身を反転させ短剣を翳し受け止めた。
「フッ!!」
続けて放たれたカイエンの胴断ちも、人の可動領域を超えた右腕の曲刀が弾く。さらにレナが放った矢も人形は右腕を回転させ打ち払った。
「そ、そんな……」
これまで戦ってきた魔物中にも、昆虫や植物といった人とは違う動きをする者はいた。
しかし、そういった者たちは体自体が人と違っており、クライブにも対処は出来た。
だが、今、対峙している人形は人の骨格と戦闘スタイルを模しながら、人とは違う、人を超えた動きをする。
「くそっ、やりにくいったらないぜ!!」
「……拙者達が戦った時より、スピードと動きの幅が広がっておる……クライブ、こやつの動きの予想を止めろ」
「そんなこと言ったって、人間の形してるしよぉ……」
人と同じ形であれば、攻撃のスピードや技の冴え等はさておいて、動きはどうしても人間のものを想定してしまう。
人と戦った経験が多いほど、その予測や予想を元に体は動く、勘と呼ばれるそれがクライブのリズムを崩していた。
「クライブさん……」
苦戦するクライブの姿にリーファは思わず呟く。
「ふむ、自動人形はこの迷宮以外ではあまり出会わん相手だからな」
「……このままじゃ、埒が明きません。ここは私が」
「待て、君にはテレサと戦うまで力を温存しておいて貰いたい」
「でもこのままじゃあ……」
「ここはクライブに頑張ってもらおう……万能なる魔力よ、彼の者にひと時の俊敏さを、加速」
突然の肉体の加速にクライブはバランスを崩し、慌てて人形から転移を使い間合いを取った。
クライブの転移の直後、それまで彼がいた場所を曲刀の刃が通り抜ける。
「急に魔法を掛けるなっ!!」
若干早口になりながらクライブはラムザスに苦情を訴えた。
そんなクライブの苦情には答えず、ラムザスは言葉を続ける。
「クライブ、体の動きは見るな。刃と足運びにのみ集中しろ」
「なんで魔法使いのあんたに、戦い方を指南されねぇといけねぇんだよッ!!」
「これはカイエンの受け売りだ」
「カイエンの……ならカイエンが言ってくれよ」
「……拙者は言葉で人を導くのは苦手なのだ……」
渋面を浮かべた髭面の侍にクライブはため息を吐き、言われた様に人形の刃と足運びに意識を集中させた。
加速された肉体を操り、踏み込むと人形は曲刀を振り下ろす。
過敏に反応する肉体を亀竜の浜辺での経験を思い出しつつ、動かす。
優しく繊細に、振り下ろされる刃を左手で握った聖剣で滑らせ、突き出される短剣を右拳で弾く。
開いた体に聖剣を振り下ろすが、人形は上半身を捻りギリギリで斬撃を躱した。
いつかのリーファとカイエンの戦いと同様、目まぐるしく入れ替わり剣を交えるクライブと人形にリーファ達は手を出すことが出来ない。
そんな打ち合いを続ける内、徐々にクライブの攻撃が人形の体を捉え始める。
「へへ、段々と分かって来たぜ。確かに人よりも関節の可動域は広いが、力を乗せるにゃ両足は踏ん張らねぇとなんねぇみたいだな」
クライブは斬撃と足運びに集中する事で、女型の人形の攻撃が重いか軽いかを見極めていた。
軽ければ触手に持たせた女神の盾で弾き、重ければ聖剣で受け流す。
そうするうち、どうしても人形側に隙が生まれる。
流れた胴体の中心、球体で作られた腹にクライブは聖剣を叩きこんだ。
蒼黒石で強化された刃は人形が展開した障壁を破壊、合金製のボディを両断した。
「ふぅ……面倒な奴だったぜ……」
「ご苦労クライブ、今後の対処も頼むぞ」
「なんだよ今後って!?」
「吾輩たちの経験では、こやつらは迷宮の後半で数度出現した。そのたび、吾輩達の戦術を解析し強くなっていった」
「強くって……嘘だろ……?」
「なに問題ない。君がそれよりも強くなればいいだけだ」
顔をひくつかせるクライブにそう言うと、ラムザスは満面の笑みを浮かべ彼の肩を叩いた。
「あの人、ちょっとアルマリオスさんに似てますね」
「え? どこが?」
「楽観的というか、当たって砕けろ的な発想が……」
「はぁ……リーファ、これでも僕はこれまでの経験と知識から合理的な推察をだねぇ……」
「合理的……」
氷の大地にある結界に壊れるまで技を試すというのは、果たして合理的なんだろうか?
そんなリーファの心を読み取ったアルマリオスはアハ、アハハッと渇いた笑いを書庫に響かせた。
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