冒険者たち
元魔王軍の幹部、ラムザスが魔法大学の教授ロレーヌと大学へ向かってから二日後。
少しやつれた様子のラムザスがホテルへと戻って来た。
宿に残っているのはリーファ、クライブ、レナ、エリナ、カイエン、そしてアルマリオスの五人と一匹。
エリナは大学に向かい、カイエンは精神修養の為、部屋で瞑想を行っていた。
アルベルト達、聖王冠はアラネア王国に向かい、冒険者ギルドを介してグリフ王とコンタクトを取っている。
「あ、ラムザスさん、お帰りなさい」
「おつかれ」
「大丈夫ですか? 顔色が悪いですよ」
リビングで体を休めていたリーファ、クライブ、レナの何人がそれぞれラムザスに声を掛ける。
ラムザスはそんなリーファ達、特にクライブに向けて座った目を向けると、右手を突き出しニヤッと笑った。
右手の上には都合、五つの赤い宝石の指輪が乗っていた。
「見たまえ、これこそが完璧な命の指輪だ。肉体を活性化させて再生能力を高める他、即死魔法を受けた際は活性化を劇的に高め死から逃れる事が出来る。注文通り、一つは呪いを残したままだ」
ラムザスは今度は左手を広げクライブに赤い宝石の指輪を示してみせた。
どれも同じに見えるが、左手の指輪が邪神の呪いが残ったものだろう。
修復された指輪を見たクライブは満足気な笑みを浮かべる。
「流石、大魔導士。仕事が早いぜ」
「フンッ、当然だ……ただその指輪にも問題はある。肉体の活性化を高めるという事は当然その分、体に蓄えたエネルギーを消費する。おそらく死に耐えられるのは最大でも二度が限界だろう」
どうやら命の指輪も第四形態と同様、かなり体力を消耗するようだ。
死の力に抗うのだ。当然と言えば当然かもしれないが……。
武具を蒼黒石で強化したほか、クライブが体を魔族化して戦力は上がっているとはいえ、テレサをどうにかするにはやはり自分が息吹の力を使うのが最善策だろう。
その為には出来る限り体力は温存したいが……。
リーファがそんな事を考えていると、ラムザスがリーファに視線を向けていた。
「なんでしょうか?」
「……リーファよ。付術師の書庫には出来るなら吾輩も同行したい」
「えっ!? ラムザスさんも一緒に来てくれるんですか?」
「うむ、ローザは自ら肉を捨てたスケルトンとなった為、もはや救う術はなかったが、出来るならテレサはカイエンの様に人へと戻してやりたい……そうすれば彼女も邪神の呪縛から逃れられるかもしれん」
リーファ自身、同様の事を考えていたので彼女はラムザスに「はい」と頷きを返した。
「大魔導士が味方になってくれるのは心強いな」
「ですです」
「フフフ、クライブ、ようやく君も吾輩の実力を認めたか」
「まあな。せいぜいテレサの魔法を防いでくれ」
「……結局、君の物言いは変わらんな」
「すまねぇな。こういう性分なもんで」
フンッと鼻を鳴らしたがラムザスは苛立っている様子はなかった。
それよりはクライブとのやり取りを楽しんでいるようだった。
研究者気質のラムザスではあったが、彼もやはり根っこの部分は冒険者だ。
クライブとの会話はかつてルザム達と過ごした冒険の日々を思い起こさせていた。
「あのあの、二人ともケンカしないで……」
おろおろと言い合う二人に交互に視線を送り、レナがアタフタした様子で両手を動かす。
「大丈夫ですよ、レナさん。あれはじゃれ合ったるだけですから」
「おいリーファ、俺がいつおっさんとじゃれ合ったんだよッ!?」
「おっさんとは聞き捨てならんな。肉体的には吾輩はまだ三十前半だ」
「十分、おっさんじゃねぇか」
「フッ、分かっていないな。真の男の魅力は三十代から芽吹くのだよ。そう思わないかねリーファ、レナ?」
ローブを翻しラムザスは金髪をかき上げてリーファ達に向き直る。
だがそんな事を言われても、レナはもちろん、まだ恋人のいないリーファも三十代の男の魅力は測りかねた。
そんなわけで、レナとリーファは同時に首をかしげる。
「はぁ……君たちにはまだ早かったようだな……」
「まだも何も、お主は一部の変わり者の女にしかモテてはいなかったではないか」
黒い、着物という異国の服を身に着けたカイエンが、いつの間にかリビングの入り口に立っていた。
「グッ、カイエン……」
「そんな事より、テレサの所に行くのなら拙者もお供いたす」
「カイエンさんもですかッ!? ……あの言いにくいんですけど、大丈夫なんですか?」
リーファは邪神ヴェルードの支配から完全に逃れられてはいないカイエンに不安を覚えた。
「瞑想にて、奴の声は振り払った。もはや耳を貸す事はない」
「信用していいんだろうな?」
「声に支配されそうになれば、自ら命を絶つゆえ心配はいらぬ」
「自ら命を絶つって、そんなの駄目に決まってるじゃないですかッ!! そんな事言うならカイエンさんはお留守番ですッ!!」
「グヌッ、お、お留守番とな!? わ、分かった。自刃はせぬゆえどうか拙者も連れて行ってくれ」
「本当ですね? 約束ですよ」
眉を寄せジトっとした目でカイエンをにらむリーファに、彼はカクカクと首を縦に振ったのだった。
■◇■◇■◇■
そんな訳ですがるカイエンを置いて準備を整えたリーファ達は、一旦、ユーゲント砂漠の大墳墓に飛び、そこから東、付術師の書庫に向かって飛んだ。
アルマリオスの魂を五つ取り戻したリーファがその身を変じた第三形態である飛竜は、その体をさらに大きくしていた。
広げた翼がはためくたび、飛竜は速度を増し景色はぐんぐんと後方に流れていく。
「東か……懐かしいな……国を出たのはいつの事だったか……」
「そういえば、初めて会った時は君はボロ雑巾みたいだったな」
「色々あったのだ」
そう言ってカイエンは遠い目をしていた。
「あの、カイエンさんは東国の出身なんですか?」
背に乗せたカイエンにリーファが問えば、彼は静かに頷き口を開いた。
「大陸から海を渡ってさらに東、日出国が我が故郷だ」
「日出国、聞いた事あるぜ。なんでもすげぇ沢山、金が掘れるんだろ?」
「金山はあるが、そこまで多くは取れん」
「そうなのか? 話じゃ金で出来た家や、金ピカの部屋があるって……」
クライブの言葉にレナは金ピカと目を丸くしていた。
「あれは領主共の見栄の産物に過ぎぬ。まぁそのおかげで異国の冒険者であるお主にも知られているのだろうが……」
「……日出国、いつか見てみたいですね」
「だな……邪神を倒したら一緒に見に行こうぜ」
「レナも金のお家を見てみたいですッ!」
未来を語る三人をカイエンとラムザスは、羨むような、懐かしい様な目で眺めていた。
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