慈愛の女神から死神へ
結局、ラフィネリスの占いでも氷の大地にオリハルコンの剣があるかは分からなかった。
だが神であるラフィネリスの意識を弾いたのだ。何かが隠され封じられている事は確実なはずだ。
それが何かは分からない。方法は実際に行って結界をこじ開け、調べるほか方法は無い。
リーファ達はそう結論付け、クライブ達と待ち合わせをしたルードネルの街へと一旦、帰還する事にした。
「ごめんなぁ。上手い事占えへんで……」
「いえ、何かあると分かっただけでも収穫はありました」
「そうだ女神様、こいつは前回と今回の分の礼だ」
ゴダックはそう言うと、ラフィネリスの右手を取り薬指に白い宝石のついた銀の指輪を嵌めた。
「これは……?」
「擬態の指輪だ。もしまたあんたをキメラだって討伐しようとする冒険者が来たら、そいつを使って人に化けな」
「……おおきに、ゴダックはん」
「へへ、あんたにゃアルベルトの居場所も教えてもらったしな」
照れ笑いを浮かべ頭を掻くゴダックの後ろ、聖王冠のメンバーとリーファ達はぼそぼそと囁きあう。
「もしかしかして、ゴダックの奴、女神様の事を……」
「彼は胸の大きな女性が好みのようですからねぇ」
「えっ、そうなのか? 僕たちはこれまでそういう事は話して来なかったと思うけど……」
「お嬢ちゃん達と行動してるからか、なんだか気が緩んじゃってねぇ」
「ベルサさん、私達の所為にしないで下さいよ。ゴダックさんがおっぱい星人なのは、あの人の趣味じゃないですか」
彼らの囁きを聞きつけたゴダックは、微笑みを浮かべたまま、ピクピクと頬を痙攣させていた。
「気にする事ないよ、ゴダックはん。人族の男の子が胸の大きい女が好きなんはようある事やから」
「いや、その指輪はそういう意味で渡したんじゃなくて、純粋に感謝の気持ちで……」
「分かってるて、うち、これでも女神やから、ゴダックはんが何を思てるかお見通しや」
そう言ってラフィネリスはクスクスと笑い、ゴダックを見上げる。
すべてを見透かされた様に感じたゴダックは、決まりが悪そうに顔を赤らめ、再度、頭を掻いた。
そんなやり取りの後、リーファ達は改めてラフィネリスに礼を述べ、転移の兜を使いルードネルの街へと飛んだ。
■◇■◇■◇■
ルードネルのホテル、ニュービッグバリーのスイートルーム。
留守番をしていたカイエンと人に戻ったラムザスが顔を見合わせていた。
「……その顔を見るのも久しいな」
「君も体は人に戻ったようだな」
「うむ。だがいまだ邪神は時折、拙者に語り掛けてきおる。まったく諦めの悪い奴だ」
「今のところ、邪神の手札で一番強力なのは我々だったからな……残るはルザムとテレサだが……」
ラムザスはリビングの椅子に腰かけたカイエンの向かいに座りながら、太ももに両肘を乗せ手を組んだ。
クライブはそんなラムザスに指輪の残骸を差し出した。
「テレサについては俺たちに任せろ。ラムザス、あんたは壊れた指輪の修復に入ってくれ」
「まったく、人使いの荒い奴だ」
ラムザスは文句を言いつつもクライブから指輪を受け取り、別室へと姿を消した。
「カイエン、あんたはもう一度、テレサについて話してくれ」
部屋を出ていったラムザスに変わり、カイエンの向かいに座ったクライブはレナを手招きし横へと座らせた。
「……同じ話しか出来んぞ」
「それでもいい。レナ、お前も一緒に聞いて気付いた事があれば言ってくれ」
「分かりました」
クライブとレナ、二つの瞳に見つめられながらカイエンはおもむろに口を開く。
「テレサはもとは大地母神の司祭だった。慈悲深く、敵である魔族と戦う時も彼らが傷つき命を落とす事に悲しむような女だった」
だがルザムが魔に堕ち、彼の影響がパーティーメンバーに伝播するうち、テレサも徐々に変わっていった。
魔族の死に喜びを覚える様になり、いつしか彼女は大地母神オージェではなく、死の神リストを信仰するようになっていた。
「リストの起こす奇跡は何度も我らを救った。命を慈しむ大地母神とは違い、リストの起こす奇跡は他者の命を奪うものだったからな」
「慈愛の女神から死神か……ほんと極端だよな」
「魔に染まり、我らは少なからず変わったが、一番変わったのはテレサだろう……どんな命も等しく大切に扱っていた彼女が、死は救いだと言い始めたのだから……」
「死は救い……」
レナはカイエンの言葉に顔を歪めていた。
「……どんな生き物のいずれは死を迎える。それは長命種であるエルフやアンデッドでもな」
「エルフは分かりますけど、アンデッドは不死じゃないんですか?」
「これはテレサの受け売りだか、心が死ぬそうだ……長い時を生き続けるというのは、終わりのない苦痛を受け続ける事と同義。近しい者の死、愛したモノは自分を置いて去っていく……おそらく神もその意味ではいつか死ぬのだろう。彼女はそう言っていた」
長い時を生きる……もし自分がそんな存在だったら……。
レナはクライブやリーファ、アルベルトがこの世を去ってもずっと一人残り続ける事を考えた。
嫌だ。置いて行かないで……レナも一緒に連れて行って欲しい。
そんな思いが獣人の少女の中に沸き上がり、気付かないうちにレナはクライブの服の裾を握りしめていた。
「どうしたレナ?」
「……みんないなくなって、レナだけ残っちゃったらって思ったら……」
「大丈夫だ。俺たちが死ぬ頃にぁ、レナの周りにはたくさん家族がいるはずさ」
「家族……」
「おう、お前はきっと美人になる。そうすりゃお前と添い遂げたいって奴も出てくるはずだぜ。いい男を捕まえて子供をたくさんつくりゃあいい」
クライブはそう言って、レナの頭を優しく撫でた。
「……しかし死の奇跡か……盾で弾けりゃいいんだが……」
クライブがテレサが使うだろう奇跡について頭を悩ませていると、魔法大学に行っていたエリナと教授のカルバインがリビングに顔を覗かせた。
「あ、エリナちゃん、お帰り」
「ただいまレナ……どうしたの、目が赤いよ?」
「あ、これは……次の迷宮のお話をしててそれで……」
「次の迷宮……死の神、リストの司祭、テレサの事だね……先生、あの話を」
「エリナさんが話してた、呪術についてね?」
「うん」
どうやら死の奇跡について対策を考えてくれていたらしいエレナとカルバインに、クライブは話を促す様に視線を向けた。
「エリナさんから話を聞いて、私達も何か出来ないか色々考えたの」
「それで?」
「あなた達、勇者の装備を集めているんでしょう?」
「まあな」
「その勇者の装備の中に命の指輪っていう、再生能力を高める指輪があった筈。それを解析すれば死を願う神の奇跡も一度ぐらいなら弾けるかもしれない」
カルバインの言葉にクライブとレナが瞳を輝かせた時、ドヤ顔のラムザスがリビングへと現れた。
「見たまえ、クライブ。吾輩の手にかかれば指輪の修復等、軽いものだ」
鼻高々なラムザスの手には、赤い宝石の指輪が一つ、リビングに差し込む陽光を受けてキラキラと輝いていた。
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