神の結界
巨人が神々と戦うため作ったというオリハルコンの剣。
リーファとアルマリオス、そしてアルベルト達、聖王冠の面々は、それが本当にはるか南の氷の大地にあるのか占ってもらうため、牛の女神ラフィネリスの下を訪れていた。
リーファはラフィネリスに会う前に、生贄となって亡くなった少女、コロネの墓の前に膝を突き祈りを捧げる。
「……誰の墓だい?」
「扉を開ける為に犠牲になった女の子、コロネちゃんのお墓です」
「扉の……」
リーファの言葉を聞いたアルベルトは顔を歪め、墓の前に膝を突いた。
「……どうか安らかな眠りを」
アルベルトは両手を組んで瞳を閉じ、見知らぬ少女の冥福を願った。
ゴダック達もアルベルトに倣い、目を閉じ黙祷を捧げる。
しばらく誰も何も言わず、風の音だけが周囲に流れた。
墓の前には野に咲く色とりどりの花が添えられている。
「またなんや探し物かいな?」
声に目をやれば、青い花を手にした角の生えた女がリーファ達を見つめていた。
「ラフィネリスさんが花を?」
「うちが出来る事いうたら、このぐらいしかあらへんからなぁ」
ラフィネリスはそう言って、少し悲し気に微笑むと手にした花を少女の墓の前にそっと手向けた。
「もう少しして、種が取れたらお墓の周りに植えようか思てるんよ。それまではこれで我慢してな……ほんで今日はなんやの?」
立ち上がり首を傾げたラフィネリスに、リーファの肩に乗ったアルマリオスが口を開く。
「かつて巨人族が作った神殺しの剣、聞いた話からの憶測だけど、僕は剣が南の氷の大地にあるんじゃないかと思ってる。その剣が氷の大地にあるかどうか占って欲しい」
「神殺しって、物騒な名前やねぇ」
「頼むぜ女神様、俺たちゃどうも邪神とやりあわねぇといけないみたいなんだ」
「お願いします、ラフィネリスさん」
「……頼みます。女神様」
ゴダック、リーファが頭を下げると、アルベルトもラフィネリスに首を垂れた。サフィ達もアルベルトに続いて頭を下げる。
「ふぅ……分かった分かった。占のうてあげるから、みんな頭を上げて……それで、その神殺しの剣ちゅうのはどんな形してるのん?」
「え、形ですか……誰か知ってます?」
リーファはアルベルト達に目を向けるが全員首を横に振っている。
剣を作った巨人族の同胞、キュプロクスの鍛冶屋、ロガイドも実際に見たわけではないのだ。
人族のアルベルト達が知るはずも無い。
「形はわからんかぁ……ほな、何で出来てるかだけでも……」
「それなら分かります。材質はオリハルコン。多分それに蒼黒石を混ぜ込んだ物だと」
「オリハルコンと蒼黒石やな」
「蒼黒石なら私は実物を見たので説明できます。名前の通り青黒い石で宝石みたいにピカピカしてました」
「蒼黒くて宝石みたい、やね……南、氷の大陸……えー、当たるも八卦、当たらぬも八卦、蒼黒石の混じったオリハルコンの剣はどこかいな」
以前、見た時と同様、ラフィネリスは角を擦り始めた。
以前と違うのはその角をこする右手の中指に、青い石の指輪がはまっている事だろうか。
「うっ……はぁ……もっ、もう少し……くぅ……あッ、み、見えそう……んんっ……こっ、こおり……あふうッ……」
ラフィネリスが角を擦るたび、指輪の石が光を強め、周囲には何と言うか、艶めかしい空気が流れる。
「な、なぁ、ゴダック、こ、これは占いなのか?」
「この牛の女神様は角を擦ると、探し物が見えるらしい。ただ角は敏感だからこうなっちまうんだとよ……女神様はお前を見つけてくれた。占いの方は信用していいぜ」
「僕を……そうか……しかしこれは……」
頬を上気させ喘ぎ声を上げるラフィネリスに、アルベルトは思わず視線をそらせた。
「あッ、あッ、あああああッ……わわっ!?」
全員が気まずさを感じる中、ラフィネリスは突然驚いた様に声を上げた。
これまでと違う彼女の反応にリーファ達は困惑気味に牛の女神を見つめる。
「ど、どうしたんですか、ラフィネリスさん?」
「……弾かれてもうた……」
「弾かれた? どういう事だい?」
「今回は南の氷の大陸やて、目標が決まってたから、意識を南に向けたんよ……ほんで剣と蒼黒石のイメージで手繰り寄せようとしたんやけど……もうちょっというとこで、こうバシッと弾き飛ばされた感じになってもうてなぁ……」
「……剣の話を聞いた神は封じたって言ってた。剣を封印したなら、結界を張ってあるのかもしれない」
結界……神様が結界を張った? その結界が占いで意識を伸ばしたラフィネリスを弾いた?
「アルマリオスさん、氷の大地にオリハルコンの剣があるとして、手に入れられるんでしょうか?」
「……確かに、神の張った結界があるなら普通にやっても近づく事は出来そうにないね」
「そんな、じゃあ一体どうすれば……」
アルベルトの顔が困惑で歪む。
「リーファ、予定通り、僕たちは付術師の書庫を目指そう。僕の魂が全部集まれば、神の結界を打ち破れるかもしれない」
「竜の力か……」
ゴダックのつぶやきはこれまでリーファが見せた力、巨大なサンドワームを両断し、巨大なキメラを斬り捨て、アルベルトを人の姿に戻した場面をサフィ達に思い起こさせた。
「確かにあの力なら……」
「そうですね。それに我々も魔法を重ねれば……」
ベルサとニーダンスはラムザスの魔法を相殺した事で、自信を持ったらしく前向きな様子を見せた。
一方でリーファは眉根を寄せていた。
「アルマリオスさん、いくら竜の王様でも神様が張った結界ですよ。ほんとに壊せるんですか?」
「舐めないでほしいね。竜王は伊達じゃない」
確かにアルマリオスの力は強力だ。
だが、王様、つまり国を巻き込んで氷の大陸まで行くのだ。出来ませんでしたでは収まりがつかないだろう。
「大丈夫、大丈夫。壊れるまでやればいいだけさ」
いつも通り軽く言ったアルマリオスに、リーファは心の中で深いため息を吐いたのだった。
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