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勇者のプライド

「やっと追いつきましたッ!!」


 その声にアルベルトの他、ゴダックにベルサ、気絶したサフィの下に駆け付けたニーダンスが振り返る。


 先行したアルベルト率いる聖王冠が魔物を倒しておいてくれたおかげで、炎の魔神以降の後半戦は潜るほどに魔物の姿は少なくなった。

 その事で予想よりも早くリーファ達は最深部まで到達する事が出来たのだ。


「リーファ・ブラッド……」

「嬢ちゃん、もう盾を直したのか?」


 振り返ったゴダックの問い掛けにリーファは満面の笑みを浮かべる。


「はい、直っただけでなく、蒼黒石(そうこくせき)っていう素材を使って、武具の強化も出来ましたッ!!」

『なッ!? 蒼黒石を手に入れたのかッ!? 一体どこでッ!?』


 魔王軍の幹部、大魔導士ラムザスは自身が求めて止まなかった蒼黒石の名が出た事で、思わず声を上げた。

 その声でリーファはラムザスの存在に気付き、アルベルトの前にしゃがみ込んでいる彼に駆け寄る。


「あなたはラムザスさんですね?」

『そうだ。吾輩は折れた刃の魔法使い、大魔導士ラムザス……それより蒼黒石をどこで手に入れた?』

「えっと、亀竜グラボロスさんからもらいました」

『亀竜……?』

「湖の守り神だよ。あいつは殆ど動かないから、人族は存在自体忘れてるみたいだね」

『湖の守り神……地上に残った神が蒼黒石を……』


 ラムザスはずっと古代の人々が綴った古い文献を調べ、蒼黒石の出どころを調べていた。

 だが、巨人と神々の戦いは余りに古すぎ、文献自体が失われるか、そもそも存在していなかった。

 巨人族とも接触を試みたが、邪神の手下である魔族はそもそも話すら聞いてもらえず、送り出した部下も返り討ちにされる始末。


『武具を強化したと言ったな?』

「はい、聖剣と聖者の衣、女神の盾(アイギスシールド)を蒼黒石を使って鍛え直してもらいました」

『クフフ……お前は竜王と融合した娘だな?』

「そうです」

『クハハハッ……すでに吾輩が求めた物を手に入れていたとは、さすが邪神が消せと命じる訳だ……勇者よ、先に進むならこの娘に助力を請え』


 そう言ってラムザスは暗い眼窩をアルベルトに向ける。

 アルベルトにもそれが一番の近道だとは感じていた。

 しかし、自分が生贄に捧げた少女に助けを求めるのは、力以外は駆け出しのリーファを頼るのは彼のプライドが邪魔をしていた。

 そんな歪んだアルベルトの顔を見てリーファは口を開く。


「アルベルト、あなたが願うならすぐにでも蒼黒石を扱える鍛冶屋の下に導きますよ」

「……しかし……」

「あなたはあの時、最速で先に進む為に私を生贄に捧げましたね?」

「……ああ」

「他者の命は平気で捧げられても、自分のプライドは捨てられませんか?」

「グッ……」


 アルベルトの顔はリーファの言葉でさらに歪む。

 彼自身、くだらないこだわりだと分かっていた。


「よぉ、嬢ちゃん、あんまりうちの大将をいじめてくれるなよ」

「ゴダックさん……」

「そうよ。アルベルトをいじめると私が許さないわよ」

「リーファ、勇者様もそんな調子じゃ素直に頼れねぇぜ」

「お姉ちゃん、アルベルト様を許してあげて……」


 ベルサ、クライブ、レナに声を掛けられ、リーファは一つ溜息をついてアルベルトに視線を戻した。

 己の矜持の為、自分に助けを求められないアルベルト。そんな彼に少し憤りを感じていたようだ。

 最近分かって来た自分の中の芯の部分。

 人からどう思われるかではなく、自分が成したい事は何なのか、その為に何に重きを置くのか、それがアルベルトとリーファでは違っているようだ。


 リーファは余り人々が自分をどう思うかに頓着していない。

 まぁ、アルマリオスの魂を体の中に受け入れた事で急激に強くはなったが、彼女はギルドの仕事をしていない為、世間的にはほぼ無名だ。

 名が売れ注目と期待を集めるアルベルトとは感覚が違うのだろう。


「はぁ……分かりましたよ。アルベルト、蒼黒石を扱えるキュプロクスの鍛冶屋、ロガイドさんはリデノ山脈の西、ドワーフ達が住む岩山の麓にいます。ここでの事を終えたら早速飛びましょう」

「……分かった……頼む」

「さて、あとは……」


 リーファは両腕を絶たれ、床に座るラムザスに視線を向けた。


「ラムザスさん。あなたもカイエンさんの様に協力してくれませんか?」

『協力か……そうしたい所ではあるが、より大きな魔力を求め身をリッチへと変えた吾輩は人には戻れん。ゆえに邪神の呪いからも逃れられんだろう』

「……人に戻れる方法なら心当たりがあるぜ」

「リッチを人に戻す方法なんてあるの?」


 リッチは高位の魔法使いが自らの魂を魔石に封じ込める事でアンデッド化し、不老不死を得たモンスターだ。

 体自体は死んでおり復活は難しいはずだが……。

 そう考えたベルサの言葉にクライブは言葉を続ける。


「魔法医のエラリオンなら、肉体を復活させられるはずだぜ」


 魔法医エラリオン。ベルサ自身、彼と会い話をした事は記憶に新しい。

 浄化と再生、エラリオンは一回死んで生まれ変わる、いわば転生だと言っていた。

 しかし……。


「エラリオン……でも魂が残るかどうかは……そうか、魔石に魂が固定されているなら抜け落ちる事はない?」

「そういう事だ……ラムザス、お前もローザ達と一緒で邪神には言いたい事があるんだろう?」

『それはそうだ。奴に騙され、命令に逆らえず良いように使われていたのだ。死んだローザの分も含めてここ数十年の鬱憤をぶつけたいとは思っている』

「なら、俺たちに付き合えよ。とりあえず文句ぐらいは言える様にしてやるからよぉ」


 クライブはそう言うとニヤリと唇の端を上げ笑った。

お読み頂きありがとうございます。

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