クライブは男の子
「アルマリオスの魔力を以って、盗賊クライブの武具に凍える冷気を、氷の刃」
たった一人、炎の魔神に挑んだクライブにリーファを介してアルマリオスが付与魔法を唱えた。
それによってクライブが装備していた聖剣や聖者の衣、女神の盾に冷気属性が宿る。
その冷気属性を纏った聖者の衣が変化した触手が、炎の魔神を切り刻み散らせていく。
全身の火炎を集中凝縮させた炎の爆発を強化された女神の盾で防ぎ、クライブは聖剣片手に生きた火柱と互角以上に切り結んでいた。
「クライブ兄ちゃんも凄いですけど、アルマリオスちゃんの魔法も凄いです」
「流石に体が魔族化していても、何の支援も無いのは厳しいだろうからね」
目を見開くレナにパタパタと翼を羽ばたかせたアルマリオスが微笑む。
「……アルマリオスさん、クライブさんの体の事、知っていたんですか?」
そう問いかけたリーファの声は珍しく、固く冷たかった。
「お姉ちゃん……」
眉根を寄せたレナの横でアルマリオスは静かに頷く。
「……うん、知ってた。毎日、魔力の量が増えてたからね」
「だったらなんで言ってくれなかったんですかッ!?」
「クライブが選択した事だ。前に言ったかもだけど、彼の命は彼の物だ。どう使おうと彼の自由だ」
確かにアルマリオスはレナを攫った時にも同じような事を言っていた。
確かにクライブの命は彼の物で、どんな選択をするかはクライブ自身の自由だ。
でも、それでも相談ぐらいしてくれても良かったじゃないですか……。
「相談したら君は止めたろう?」
「当たり前じゃないですか!」
「だからさ……これは僕の推測だけど、多分クライブはドンドン強くなる君の足手まといになりたくなかったのさ」
「足手まといだなんて……」
言い淀んだリーファにアルマリオスは言葉を紡ぐ。
「二人の事はずっと見てきたけど、クライブは君の強さに焦りを感じていたんだと思う。先輩でBランクの冒険者、経験も豊富。なのに戦闘じゃ段々と役に立てなくなる」
「役に立つ立たないなんてどうだっていいです。クライブさんはずっと私を助けてくれた。いまさらパーティを解散するなんてないのに……」
「彼も男の子だからね。君の前じゃあ、弱音は言えなかったんだよ、きっと」
「……弱音が言えない……レナ、分かるような気がします。集落でも気の弱い男の子がいて、でもその子はレナの前では強がっていました」
レナの言ったような思い出はリーファにも覚えがあった。
村の男の子たちは、確かに女の子の前では恰好つけていた
「……馬鹿ですねぇ……男の人って……」
「どりゃああっ!!」
リーファが呟いた時、そんな雄たけびが聞こえた。
目をやればクライブが炎の魔神を唐竹割にしていた。
巨人を倒したクライブは「うおおおおっ!!!!」再度叫び声を上げ、リーファ達の下へ駆け戻ってくる。
「はぁはぁはぁ、どうだやってやったぜっ!! ちゃんと見てたかっ!?」
「……すみません。ちょっと話に夢中になってて……ちゃんとは見てませんでした」
「話に夢中って、なんでだよッ!? レナは見てたよなッ!?」
リーファの答えにぶんぶんと両手を振ったクライブは、今度はレナに視線を向ける。
「ごめん、クライブ兄ちゃん。レナもお姉ちゃんとアルマリオスちゃんのお話が気になって……」
「ググッ……アルマリオスッ、なんの話をしてたんだよッ!?」
「いや、男の習性というか、そういった事を……」
「はぁ、男の習性……人が必死で戦ってたってのに、お前らは……」
そう言って肩を落としたクライブの姿に、リーファ達は声を上げて笑った。
■◇■◇■◇■
クライブが一人で番人を倒し雄たけびを上げていた頃、先行していたアルベルト達は最下層の扉の前まで辿り着いていた。
ニーダンスがリーファから手渡された小瓶を取り出し、生贄の祭壇に中の血を一滴祭壇に落とすと、ゴゴゴゴゴッと音を立て金属製の大扉が開く。
その扉の先には焼け焦げた守護竜の死体の前、真っ赤なローブを着た骸骨がこちらを見つめていた。
「大魔導士ラムザスだな?」
『いかにも、吾輩は放浪騎士ルザムの一党、折れた刃が一人、大魔導士ラムザスである』
折れた刃。ルザム達がまだ駆け出しの頃、ゴブリンの群れに襲われた事があった。
群れと戦ううち、ルザムの持っていた剣は激しい戦いの中、絶ち折れた。
しかしルザムは諦める事無くその折れた剣で戦い続けた。
抗う事を止めず戦い続けるその姿に、仲間であったローザ、カイエン、ラムザス、テレサも感化され奮闘した。
結果、彼らはゴブリンの群れを壊滅させ生き残る事に成功した。
それから名前の無かった彼らの一党は折れた刃と呼ばれるようになった。
「魔族になってもその名を名乗るのか?」
『確かにこの身も心も邪神に呪われている。だが今この時は英雄ルザムの一党の一人よ……新たな勇者よ、吾輩を倒し魔王となった我らが頭目を倒す力があるか証明してみせろ』
アルベルトの問い掛けに淡々と答えたラムザスは、静かに左手に持った水晶で出来た杖を翳した。
「カイエンから聞いてるぜ。あんたは三つの魔法を同時に操るってな」
『ほう、邪神の言葉通り、カイエンはそちらに下ったか』
「下ったって言うか、お節介なお嬢ちゃんが連れて来たのよ」
『クフフ、邪神の計画をかき回している娘だな……愉快だ。実に愉快だ』
サフィの言葉を聞いたラムザスは楽しそうに肩を揺らし笑った。
やがて笑いを止め、手にした杖をアルベルト達に向け翳す。
『さて、そろそろおしゃべりは終わりにしよう……万能なる魔力よ、吾輩の前に立ちふさがる敵を荒れ狂う炎で焼き払え、火炎嵐!!』
「クッ、偉大なる至高神ゼファルよ、我が祈りに応え万難を弾く守りの盾をッ」
「ウォオオオッ!!」
ラムザスが放った炎の竜巻にニーダンスは神に祈りを捧げ炎から身を守る障壁を、ゴダックは雄たけびを上げてオーラの盾を展開した。
障壁にぶつかり足を止めた炎の竜巻は、ゴダックのシールドバッシュによって爆散し火の粉を散らして消えてゆく。
それと同時にサフィは転移の兜を使いラムザスの後ろに飛び、首目掛けてダガーを振るった。
「……グッ!?」
だが、彼女の刃がラムザスに届く前に骨と皮だけの右手が印を刻み、衝撃がサフィを吹き飛ばした。
吹き飛ばされたサフィは勢いのまま壁に激突、背中を打ち付け、そのまま床に倒れる。
「サフィッ!?」
『まずは一つ……』
アルベルトに邪神の装備を渡し、防御力が低下していたサフィは一撃で気を失ってしまった。
その意識を失った様子のサフィにちらりと目をやり、ラムザスは今度は杖を高く掲げた。
水晶の塊のようなその杖の中、まばゆい光が凝縮していく。
「あれはまさかッ……滅びの光……?」
「滅びの光……ベルサ、あなたと私であれを相殺しますよッ!!」
「わ、分かったわ。魔女ベルサが願う、全ての生命の根源である精霊王アトラよ、その力の一端を我に貸し与えたまえ……」
「偉大なる至高神ゼファルよ、我が祈りに応え我らの敵に神の槍を……」
ベルサとニーダンスが滅びの光を相殺しようと詠唱をしている横で、アルベルトはゴダックに囁き掛ける。
「ゴダック、二人の魔法がラムザスの魔法とぶつかったら、僕を前に弾き飛ばしてくれ」
「ああ!? 一人で突っ込むつもりかッ!?」
「カイエンの話通り、ラムザスは詠唱と右手の印、そして杖によって魔法を操るようだ。同時に使われる前にどれか一つでも潰しておきたい」
「……分かったよ。しくじるなよ」
そんな会話の後、ラムザスが放った閃光とベルサの放った原初の炎、そして至高神の怒りである極太の雷がさく裂し、迷宮は真っ白に染まった。
お読み頂きありがとうございます。
面白かったらでいいので、ブクマ、評価等いただけると嬉しいです。




