炎の洞窟
アルベルトに遅れる事、二日、リーファ達はアルベルト達、聖王冠がいるだろう炎の洞窟に辿り着いていた。
見渡す限りの荒野にポッカリと空いた暗い穴。その穴からは熱気が漏れ出し、穴の前にいるだけで汗がしたたり落ちる。
アルマリオスの情報では、火蜥蜴から始まり、炎狼や紅熊等、炎属性の魔物が多く生息しているらしい。
「その中でも番人として洞窟の中盤にいる炎の魔神が、道中じゃあ一番の強敵かな」
炎の魔神、炎が人の形を成した大型の魔物だ。
その体は近寄るだけで火傷負うほど高温で、倒すには基本、遠距離からの冷気魔法が有効とされる。
「……アルベルト様は大丈夫でしょうか?」
「あのパーティにはベルサがいるし、怪我をしてもニーダンスがいる。そう簡単にやられる事はないさ」
「そうですね。今はアルベルト達よりも、私たちが迷宮を踏破出来るか考えましょう」
「まぁ、女神の盾があるんだし、炎も何とか防げんだろ」
リーファ達はキュクロプスのロガイドに修復してもらった女神の盾を、それぞれが二枚ずつ装備していた。
普通に左手に持つのではなく、シールドは聖者の衣から伸びた触手の先に装着され、意思に反応し敵の攻撃を防ぐ形で使う事にしていた。
クライブとレナは持ち前の器用さと身体能力で、聖者の衣をかなり使いこなせるようになっていた。
また、リーファも二人ほどではないが、ある程度、自在に衣を操作できるようになっていたからだ。
道中、多数の敵に対処する為には左手を盾で塞がれているより、遥かに自由に戦える筈だ。
「では潜りましょう」
「おう」
「はいですッ!」
「それじゃあ、道案内するね。っとその前に、リーファ、手を翳してくれる?」
「魔法ですね」
リーファの言葉にアルマリオスは頷き、彼女が手を上げたのを確認すると詠唱を始めた。
「アルマリオスの魔力を以って、リーファ、クライブ、レナに火避けの衣を、火耐性アルマリオスの魔力を以って、リーファ、クライブ、レナに毒気を払う風の衣を、浄化の風」
アルマリオスは耐火とガスに対処する為の魔法をリーファ達に掛けた。
毒に高い耐性を持つリーファにガスへの対処はいらないかもだが、パフォーマンスを保てるなら意味があると踏んだのだろう。
「あ、なんだか涼しくなりました」
「こりゃ、ありがてぇ」
「もう一つは何なんです? 浄化って?」
「炎の洞窟は火山性のガスが至る所に澱んでるからね。空気を浄化する魔法を掛けたのさ」
「……潜るだけでも危険か……こいつは難易度が高そうだぜ」
「実際、ここはランクの高い冒険者しか踏み入れないダンジョンだよ。耐火と浄化、最低この二つの魔法か魔道具を持ってないと入れないから」
ランクの高いダンジョンと聞いてリーファとレナの喉がゴクリと鳴る。
リーファはランク自体はEランクのままだったし、レナにいたっては冒険者ですらない。
そんな二人の様子にクライブは苦笑を浮かべる。
「お前ら、今までどう考えてもランク以上の奴らと戦って勝ってきたじゃねぇか」
「それはそうなんですけど……」
「アルマリオスちゃんがランクの高い冒険者とか言うから……」
「えー、僕の所為なのかい」
アルマリオスはレナの言葉に肩を竦めている。
「ともかく、今まで以上に気を引き締めていきましょう」
「だな」
「はいですッ!!」
「んじゃ、攻略かいしーッ!」
軽く気の抜けるアルマリオスの声を合図に、リーファ達は溶岩と炎に支配された灼熱の迷宮へと足を踏み入れた。
■◇■◇■◇■
ギィイイインッ!! 炎の毛皮を纏った魔物の牙がそんな音を響かせ盾を齧る。
その魔物は次の瞬間には、黒髪の男の纏った鎧から伸びた無数の触手に貫かれ、体をバラバラにされた。
その横では獣の耳を頭に生やした少女が、触手を蜘蛛の足様に使い縦横無尽に駆け巡り、襲い来る魔物に矢を放っている。
そして、その二人の中心では栗色の髪から二本の角を伸ばした少女が、触手から伸びた盾で燃える大熊を押さえつけ、手にした剣で両断していた。
「ふぅ……」
「……おかしいな。この洞窟の攻略は魔法主体になるはずだったんだけど」
「しょうがねぇだろ。魔法はリーファつーか、アルマリオスしか使えねぇんだからよぉ」
「武器が効くなら、私でも倒せます」
「まぁ、賢者の衣を使う練習には丁度いいんじゃないでしょうか」
リーファ達はそんな訳で、魔法主体ではなく近接及びミドルレンジからの攻撃によって、襲い来る炎の魔物達を蹴散らして行った。
これはやはり賢者の衣を使いこなしていたアルベルトを見た事が大きい。
お手本を見れば一から使い方を考えるより上達も早いというものだ。
その事もあり、リーファ達は危なげなくダンジョンの中間地点、番人の間へと辿り着いた。
溶岩に浮かぶ小島の上、炎を纏った巨大な魔神がこちらに瞳だろう、暗く沈んだ二つの闇をこちらに向けている。
「あれが炎の魔神……」
「うん、さすがにあいつは魔法じゃないと対処が難しいかな。何せ体が火柱で出来てるから」
「……なぁ、リーファ。あいつ、俺一人に任せてくれねぇか?」
その体が火柱で出来た魔神を見つめていたクライブがポツリと呟く。
「なッ、何言ってるんですかッ!? そんなの駄目に決まってるじゃないですかッ!!」
「……俺は最後までお前に付き合いたいと思ってる。試したいんだ、それが出来るかどうか、あいつと戦う事で……」
「止めてよクライブ兄ちゃん……あんなの近寄っただけで……」
「……実は隠してた事がある」
クライブはそう言うと右腕を掲げてみせた。
彼の意思に従い、賢者の衣は小手に変化していた微小ゴーレムの連結を解いた。
あらわになったクライブの右腕には黒く固い毛がびっしりと生えていた。
「それは魔族化ッ!?」
「なんでクライブ兄ちゃんッ!?」
「お前に付いて行くには、ずっと力が足りねぇと思ってた。体が魔族になるだけなら……そう思って衣の呪いを一つだけ解かなかったんだ」
「今すぐそれを脱いで下さい。私が息吹で」
リーファが伸ばした手をクライブはするりと躱し、後ろに飛んだ。
「おっと、そういう訳にはいかねぇな。実際、魔族化が進む程に力が増してるのを感じるんだ」
「でも、いくら心が人間のままでもその姿じゃ……」
黒い毛に覆われた魔物の体。心に変化が無くても多くの人は彼を人間だとは認めないだろう。
「全部終わったら、お前が治してくれ。それまではこの力を使って、せいぜい邪神の鼻を明かしてやろうぜ」
「……絶対ですよ。それと私が危ないと一瞬でも思ったら、衣は無理やりにでも引き剥がしますからね」
「分かった分かった。んじゃ、ちゃっちゃと魔神を倒してくるぜ」
クライブはそう二人と一匹に告げると、小島に続く道を一瞬で駆け抜けた。
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