マッソーの話は全部筋肉
転移した巨人鍛冶屋の作業場。リーファ達が入手した一抱え程もある蒼黒石を見て、キュプロクスの鍛冶屋、ロガイドは顔の真ん中にある目を大きく見開いた。
「儂が聞いたり本で読んだりした物は、人族の拳ほどじゃと聞いていたが……」
「えっと、これで女神の盾を直して頂けるでしょうか?」
「おう、練習がてら、その石も混ぜ込んでやるわい」
「混ぜ込む? こいつだけで武具を作る訳じゃねぇのか?」
「そもそも、蒼黒石は合金化して物質を変化させる力が重要なんじゃ。人族は賢者の石とか呼んどるんじゃなかったかの?」
賢者の石、その名前はリーファ達も聞き覚えがある。
鉛のような非金属を黄金に変える力を持ち、不老不死の材料にもなるとか、ならないとか。
「マジで伝説級の石だったのか……」
「ぬぅ……ロガイド殿、我のコテカもその石を混ぜ込んで……」
「お前のそれ、ミスリル製なんだろ。これ以上強くしてどうする気だよ?」
「男なら頂上を目指すものであろう?」
マッソーのコテカが更に強く……。
リーファの脳裏にコテカで、魔界の住人であるアークデーモンの鋼鉄より硬い皮膚を貫くマッソーの姿が浮かぶ。
うぅ……マッソーさんならそのぐらい出来そうだから困ります……。
「頂上か……なぁ、ロガイドさんよぉ。盾だけじゃなくて俺たちの着こんでる聖者の衣や、聖剣ロクニオスも強く出来るかい?」
どうやらクライブは戦力増強のために、蒼黒石を使って武具の強化を考えたようだ。
「聖剣ロクニオスに聖者の衣か……どちらも人族の勇者の武具じゃな……おそらく出来るじゃろうが……」
「んじゃ、頼むぜ。その代わり仕事の手伝いはするからよ」
「クライブさん、別の仕事なんて頼んだら、もっと時間が掛かっちゃいますよ」
「そうですよ、アルベルト様達と早く合流しないと」
先を急ぎたいリーファとレナは難色を示したが、クライブはあくまで戦力強化にこだわった。
「いや、俺とマッソーの二人がかりでもカイエンには届かなかった。奴らの仲間、ラムザスとテレサも相当手ごわいと見て間違いないだろう。その先、魔王のルザムや邪神とやり合うなら、武具の性能を上げておいた方がいい」
「……クライブの言う事はもっともだね……リーファ、レナ。ニーダンスは無理はしないと言ってたし、ここはクライブの意見に従おう」
「…………分かりました」
「……アルベルト様……」
その様子をじっと見守っていた巨人の鍛冶屋ロガイドが、リーファ達の話がまとまった所で口を開く。
「結論は出たようじゃな? ではとにかく、直してほしいその女神の盾をよこすんじゃ」
「分かった」
クライブは世界樹の迷宮で回収した女神の盾の残骸を取り出し、差し出されたロガイドの手に乗せる。
「ふむ……材料はアダマンタイトかの……呪術が掛かっておったようじゃが、術式は消えておるな……」
「あの、直せそうですか?」
「フンッ、そういう時はいつまでに直りますかと聞け」
「じゃあ……」
「こんな大粒の蒼黒石を持ってきてくれたんじゃ。お前たちの武具も込みで三日……いや、二日で仕上げてみせるわい。その代わり雑用をしてもらうぞ」
キュクロプスの鍛冶屋はそう言うとガハハと豪快に笑った。
■◇■◇■◇■
女神の盾が直るまでの二日、リーファ達はキュクロプスの鍛冶屋、ロガイドの仕事を手伝った。
マッソーの話では作業場のある岩山は牛の女神、ラフィネリスの住むリデノ山脈の西に位置し、岩山には鉱石を掘っているドワーフの他、グリフォンやワイバーンも生息しているらしい。
リーファ達は武具の修理と強化が終わるまでの間、ロガイドがドワーフ用に作ったという剣と防具を借り受け、ドワーフからの鉱石の受け取りの傍ら魔物を狩り過ごす事となった。
「ふぅ……私たちは転移の兜とマジックポーチがあるからかなり楽が出来ますけど、徒歩で移動すると考えると大変ですね」
「だな。マッソー、お前は最初、歩きで来たんだろ?」
「うむ。太腿四頭筋や下腿三頭筋のトレーニングに丁度良かったぞ」
「マッソーおじさんの話は全部筋肉です……そんなんじゃ女神様に嫌われちゃうんじゃないかな……」
巨人の作業場の一角を間借りして食事を取っていたリーファ達は、ロガイドの為に狩って来たワイバーンの肉のおこぼれを食べながら、そんな事を話し合う。
「ふむ……確かに過去にも、筋肉馬鹿とは付き合っていられないと振られた事があったな」
「まぁ、あの女神様はお前の体に惚れたようだし、度を越さなきゃ大丈夫じゃねぇか?」
「そもそもなんだけど、マッソーはなんでそこまで筋肉にこだわるんだい?」
「筋肉にこだわる理由か……あれはまだ、我が吸血鬼になったばかりのころ……」
その頃のマッソーは貴族の庶子として母と二人ひっそりと暮らしていた所を、侯爵夫人であり吸血鬼だった女に見初められ、吸血鬼にされた。
だが、女は痩せっぽちだったマッソーに早々に飽き、どことなりへ行ってしまえと放り出される事になった。
彼女はマッソーの顔に惚れ、貧しい生活でガリガリだった体に幻滅したのだ。
その時から彼は逞しい肉体に嫉妬と同時に、強い憧れを持つようになった。
「そこで我は体全体を鍛える事の出来る器具を商人から購入し、トレーニングを始めたのだ。もう貧弱な坊やとは呼ばせない。その商品のキャッチフレーズを胸に鍛錬を続け、この肉体を手に入れたのだ」
「なんか聞いた事あるな、それ……確かダチが買ってたような」
「そんなに効果があるんですか?」
「いや、ダチはすぐに飽きて投げ出したみたいだったが……」
「フフッ、日々のたゆまぬ鍛錬が筋肉を育てるのだ」
「うぅ……結局、筋肉の話に……レナはもういいです」
マッソーの話が結局筋肉とトレーニングの話だった事にレナは悲しそうに首を振ったのだった。
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