寝坊助と召喚魔法
「クライブ達に掛けた加速は大体、1.2~1.5倍ぐらいの速度強化だ。でもそれじゃあグラボロスには弱すぎる」
「じゃあもっと魔力を込めて速くするんですね?」
「ああ、まずは10倍ぐらいで試してみよう……アルマリオスの魔力を以って、亀竜グラボロスにひと時の俊敏さを、加速」
アルマリオスの魂の持つ魔力がリーファの体から抜け出て、手を翳した先、水面から突き出た岩を淡い光となって包む。
すると先ほどまで微動だにしなかった岩がにわかに震え始めた。
岩に堆積していた土が払い落され、繁茂していた草木が水面に落ち波紋を広げる。
やがて岩は水面から浮上を始め巨大な顔が水上に現れた。
どうやら岩だと思っていたものは巨大な亀竜の鼻先だったようだ。
亀竜というだけあって、その顔はどことなくアルマリオスに似ていた。
顔を持ち上げた亀竜グラボロスは長い首をうねらせ、甲羅に乗っているリーファ達に顔を寄せた。
「ホントに竜でした」
「でかいな……」
「ふむ、こんな生き物もこの世にはいるのだな」
加速の効果で早口でしゃべりながら、クライブ達は感想を口にした。
グラボロスはそんなクライブ達の前、自分を見上げるリーファ達を見下ろす。
『うーん……ふぅ……せっかく……きもちよく……ねてたのに……』
「久しぶりだね、グラボロス」
リーファの頭の上、アルマリオスがまだ眠そうなグラボロスに声を掛ける。
『……もしかして……アルマリ…………ぐぅ……』
「ホントに話の途中で寝たッ!?」
「だからそういう奴なんだって……しょうがない、リーファ手を」
アルマリオスの指示を受け、リーファは再び両手を翳す。
「アルマリオスの魔力を以って、亀竜グラボロスに雷神の戦槌を、降雷」
「ちょッ、アルマリオスさんッ!?」
躊躇なく攻撃魔法を使ったアルマリオスにリーファは思わず声を上げる。
だが、詠唱を終えた事で魔力の放出は止まることはなく、上空、グラボロスの頭上に暗雲が立ち込める。
「はわわわ……大丈夫なんですかッ!? アレって中級魔法ですよねッ!?」
「大丈夫、大丈夫。逆にこれぐらいしないと、目を覚まさないから」
そんな話をしている間に黒雲から閃光が弾け、一筋の雷光がグラボロスの頭部を直撃した。
『ふがッ!? ……ふぁあああああ……なんか……ピリッとした……アルマリオス、なんかした?』
「何もしてないよ。それより君が昔ガーネットに渡した蒼黒石が欲しいんだけど」
『蒼黒石……いいよ、あげるよ……多分、甲羅の……真ん中あたりに…………ぐぅ……』
「中級じゃ効果は薄いか……リーファ、手」
「またですかぁ? ほんとに大丈夫かなぁ……」
先程の魔法でグラボロスが頑丈だという事はリーファにも分かったが、協力してくれそうな神様を魔法で叩き起こしていいのだろうか。
そう考えつつ、手を持ち上げる。
「竜王アルマリオスが命じる、我が眷属、火竜ブルネイオンよ。呼び掛けに応え馳せ参じよ」
えっ、なにその呪文、いつもの感じと違うんですけどッ!?
「うぉ、なんだこりゃ!?」
クライブの声に振り返ると、砂浜の上、真っ黒い穴が宙に浮かんでいる。
そこから真っ赤な鱗の竜が顔を覗かせた。
「りゅ、竜ッ!?」
「召喚魔法であるな」
クライブとレナは身構え、召喚魔法について知っているらしいマッソーは、腕組みをして黒い穴から出てきた竜を見上げていた。
『お呼びか我らが王よ……ぬっ……しばらく見ぬ間に随分と縮まれましたな』
「まぁ、色々あってね」
『あなたの事だ。どこかで生きているとは思っておりましたが……』
「なんとかね。それより仕事なんだけど、グラボロスと話したいから、彼が寝たら息吹で起こしてくれる?」
『はぁ……久方ぶりに呼ばれたかと思えば、寝坊助のお守りとは……』
竜はため息交じりに首を振り、ぐうぐうといびきを掻いているグラボロスに視線を向け、おもむろにその口を開いた。
『起きろッ、寝坊助ッ!!』
叫びは火炎の奔流となってグラボロスの顔を焼いた。
『……暑い……寝苦しいなぁ……あれ、ブルネイオンだ……久しぶり……』
『グラボロス、起きて我が王とちゃんと話せ』
『ふああああ……にゃむ……話……なんの話だっけ?』
「君がガーネットにあげた蒼黒石だよ。あの石が必要なんだ」
『蒼黒石なら……あれ、いつの間に……』
グラボロスは自分の背中が森になっているのにその時、ようやく気付いたらしくほんの少し驚いた様子をみせた。
『……うーん、多分、甲羅の真ん中あたりに……ふぁあああ……出来てると……ぐぅ……』
しかし、瞳はすぐにトロンと垂れ下がる。
『寝るなっ!!』
グラボロスが寝に入った瞬間、火竜の息吹が彼を眠りから引き戻した。
『……うぅ……まだ眠いのに……蒼黒石なら……僕の甲羅の……真ん中に……あるから…………』
『おき』
『勝手に……持って行って……いい……よ……スピー……スピー……』
それだけ言うとグラボロスはかま首をもたげたまま、眠りについてしまった。
『起こしますか?』
「いや、聞きたい事は聞けた。わざわざ呼び出して悪かったね。傷つけない程度の魔法じゃすぐ寝ちゃうし、かと言って上級魔法や今のリーファのブレスだとケガさせちゃうかもだったから……」
『いえ、王が相変わらずの様で安心しました。ではこれにて……』
「もう帰るのかい?」
自分を見上げたアルマリオスにブルネイオンは少し口ごもっていたが、やがて言葉を紡いだ。
『……実は、家族サービスの途中で抜け出してきたもので、早く帰らないと上さんが……』
「えっ、君、結婚したのッ!? 相手はあの子ッ!?」
『はぁ、まぁ……そういう訳ですので、失礼いたします』
「そう、じゃあまた今度時間のある時に……リーファ手を」
「は、はい」
リーファが手を翳すと、アルマリオスは送還の呪文を唱えた。
魔力が流れ砂浜の上に先程同様、真っ黒な穴が開いた。
ブルネイオンは背中の翼を広げ、その真っ黒な穴へ向かって飛び込んだ。
穴の向こうにはブルネイオンと同じ赤い鱗の竜がこちらを見つめている。
一頭はブルネイオンより少し小さく、もう一頭はその三分の一程の大きさだった。
おそらく彼の奥さんと子供だろう。
最後はなんだかアットホームな感じになり微妙な空気が流れる事となったが、ともかくとして、蒼黒石は無事に手に入りそうだ。
「竜って家族サービスとかするんだな」
「レッドドラゴンって、魔物の王様ってイメージだったのでビックリです」
クライブとレナがそんなことを早口で話している。
「竜も生物、つがい子供を産むのだろうが、それが表に出る事はほとんど無いからな」
それに対しマッソーが同じく早口で答えていた。
「えっと、それじゃあ許可もいただけましたし、甲羅の中央に向かいましょうか。っとその前に、蒼黒石、ありがとうございますッ!! 起こしちゃってごめんなさい!!」
リーファはグラボロスの首に向かってそう言うと、ペコリと頭を下げた。
『スピー、スピー……』
「……グラボロス、寝てるのに……君って律儀だね」
「気持ちの問題です」
リーファの言葉を聞いたレナもお辞儀をし、クライブは片手を上げた。マッソーはサイドトライセップスのポーズを決めた。
えぇ……それってお礼なんでしょうか?
リーファのマッソーのポーズに対する疑問を挟みつつ、一行は亀竜の甲羅の中心、繁茂する森へと足を踏み入れたのだった。
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