別れのキス
巨人の鍛冶屋、ロガイド。彼の求める蒼黒石を探してリーファ達は巨人に石を渡したという泉の女神、ガーネットの下を訪れる。
ガーネットがマッソーに一目惚れしたり、告白したりと色々あったが、蒼黒石は北の湖に住む亀竜、グラボロスの甲羅の分泌物と魔力が融合した物だと聞き出す事に成功した。
一行は、早速、グラボロスが住むという北のユス湖へと向かうことにしたのだが……。
「マッソー、ホントに行っちまうのかい?」
「一応、ロガイド殿が盾を修復するまでは付き合おうと思う」
「律儀だねぇ……」
「フフ、我は受けた恩は恩で返す事にしているのだ……そんな顔をせずとも、すぐに仕事を終えて戻ってくる」
そういうとマッソーは寂しそうなガーネットの頭を優しく撫でてやった。
ガーネットが積極的だからだろうか、マッソーとの仲が急激に進展している様に感じる。
今もイチャイチャしているし、一部だけ切り取れば非常に絵になる二人ではあるのだが、彼らの服装が絵面をおかしな物にしていた。
片方はさらしに特攻服、もう一方は裸マントにコテカ……なんで二人とも普通の服を着ないのか。
飛竜に身を変じたリーファが別れを惜しむ二人を眺めながら、そんな事を考えていると痺れを切らしたクライブが声を上げた。
「二人ともいつまでやってんだッ!! そういうのは一仕事終えてから、二人っきりの時にやってくれッ!!」
「ふむ……ガーネット、しばしの別れだ」
「あっ!?」
二人を眺めていたリーファは思わず声を上げた。
「キッ、キスッ!! は、初めて見ましたッ!!」
驚き声を上げたレナの言葉が示すように、マッソーはガーネットの頬に両手を当て、彼女の唇に自分の唇を寄せていた。
あまりに自然な流れで行われた為、ガーネットも反応出来なかった様で、されてから気付き耳まで真っ赤にしている。
「……嫌だったか?」
「い、嫌じゃないけど、いきなりでビッ、ビックリしたよ!」
「そうか、すまん。恋人との別れの挨拶は口づけと決めているのでな」
どうやらこれも彼のこだわりの一つだった様だ。
なんですかね。マッソーさん、私に初めて会った時は変態チックというか、フルに変態モードで迫った癖に、最近の行動は完全にモテ男じゃないですか……いや、恰好は変態ですけれども。
「うーん、番人を止めて自由になったからかなぁ」
心を読んだアルマリオスの言葉に、リーファは小首を傾げる。
「あれがマッソーさんの素って事ですか?」
「かもね。ダンジョンの魔物は、侵入者を怖がらせて戦意を削ぐのを常套手段としてるから……」
怖がらせて戦意を削ぐ……最初のアレはそういう事だった? いや、完全に喜んでやっていたような……。
ジトっとしたリーファの視線の先、マッソーがガーネットに手を振りながら歩いてくる。
「待たせたな。久方ぶりに恋人という存在が出来たので、名残惜しくなってしまった」
「別にお前はこのまま、女神様とイチャついてていいんだぜ」
「そういう訳にはいかん。恩は恩で返す、それが我の流儀だ」
「へいへい、んじゃさっさと乗ってくれ」
「うむ」
マッソーは地面を蹴りリーファの背に飛び乗ると、聖者の衣が形を変えた鞍にドカッと腰を下ろした。
「それじゃあ、ガーネットさん。また」
「ああ、気を付けて。マッソー、早く帰って来てねぇ!!」
「うむ!! リーファ、出発だッ!!」
「うッ……遅れたのはマッソーさんの所為なのに……」
リーファは小声でぼやきつつ、翼を広げ北へと飛び立った。
■◇■◇■◇■
女神の泉から北へ二百キロ程、三千メートル程の山並みが連なる山脈のふもとにその湖は存在していた。
山から流れ出た雪解け水が流れこんでいる為か、湖の水は澄み陽光を反射してキラキラと輝いていた。
「ここにグラボロスさんが……」
「その筈だけど……いた」
「いたって、どこですか?」
リーファは湖の上を飛びながらキョロキョロと視線を巡らせるが、湖には島が一つあるだけで生き物の姿は確認出来ない。
「どこだアルマリオス? 水の中か?」
「レナには見えません」
「うむ、我にも見えぬな」
「何言ってるんだ。目の前にいるじゃないか」
目の前……もしかしてあの島が……? でも藻じゃなくて普通に木が生い茂ってますけど……。
「ぐうたらだって言ったろう。多分、何千年もほとんど動いていないから、背中の甲羅に土がたまって森になったんだ」
「森になった……あの島がそうなのか?」
「うん。ほら、よく見てみると、亀の形をしてるだろう?」
「言われてみれば確かに……」
「ふむ……あんな大きな亀がいるとは……」
確かに島はよくよく見れば亀の形をしていた。
しかし微動だにしておらず、言われなければただ湖に浮かぶ島にしか見えない。
「ど、どうしましょうか?」
「とりあえず、グラボロスの甲羅に降りよう」
「わかりました。じゃあ砂浜っぽくなっている所に降りますね」
リーファはアルマリオスにそう声を掛け、大亀の甲羅の上で旋回し高度を落とし、砂の堆積した波打ち際へと着陸した。
クライブたちを背中から下ろしその身を人へと変えると、アルマリオスが声を掛けて来た。
「リーファ、あの岩が見えるかい?」
アルマリオスが指さす先、湖面に岩が突き出ている。
その岩にも土が堆積し水から上の部分は緑で覆われていた。
「見えますけど……」
「じゃあ、あの岩に向けて手を翳してくれる?」
「魔法を使うんですか?」
「うん。ガーネットが言ってた方法を試す」
それを聞いたクライブがアルマリオスに声を掛けた。
「加速の魔法って奴か……なぁ、その魔法、俺にも掛けてくれよ」
「いいけど……加速は扱いがかなり難しいよ」
「へっ、俺は素早さが売りの盗賊だぜ。そのくらい乗りこなしてみせらぁ」
「あの、レナもどんなのか気になりますッ!」
「では我も」
「君たちねぇ……リーファ、とりあえず先にクライブたちに掛けようか」
「わかりました」
リーファはクライブたちに手を翳す。
「アルマリオスの魔力を以って、クライブ、レナ、マッソーの三人にひと時の俊敏さを、加速」
リーファの翳した手から魔力が流れ出し、クライブ達の体を淡い光となって包む。
「掛けたよ。ただ動く時は慎重に」
「分かってるよぉ、んじゃ早速……うぉッ、なんじゃこりゃあ!?」
言葉も早口になったクライブは足を踏み出すが、足は彼の予想を超えたスピードで前に出て、一歩目で足を取られかけた。
「なんだか体が自分の物じゃないみたいです」
「ふむ……肉体の反応が過敏すぎる感じであるな。気持ち抑え気味で動かせば……」
レナもマッソーも加速の影響で通常の1.5倍ほど早口になっていた。
そんな二人の会話によれば、常にトレーニングで体を動かしている為か、マッソーは加速した肉体の扱いのコツをつかんだようだ。
クライブとレナにもコツを伝えている。
「なるほどな、反射が早くなった分、動かす時も繊細にか」
「感覚になれるまで、少しかかりそうです」
そんな事を言っていたレナだったが獣人の身体能力の高さからか、すぐに砂浜を猛スピードで駆け始めた。
クライブもレナに遅れる事、しばし、同様に砂浜を駆け始める。
マッソーだけは、その場で様々なポーズを物凄い速さで繰り出していた。
うぅ、動き回るコテカが光を乱反射させて、目がチカチカします。
「ふぅ……勘のいい連中だ……さぁ、リーファ。本番と行こう」
「了解です」
光の乱反射で焼け付いた目をギュッと瞑り、首を振ったリーファは振り返り水面から突き出た岩に両手を翳した。
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