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一人の冒険者の死

『本当に特攻服も単車(バイク)も要らないのかい? 魔導式だからアルマリオスの魔力があればずっと走れるのに……』


 口をへの字にして眉を寄せるガーネットに、リーファは「目立ちすぎるので」と申し出を丁重に断った。

 特攻服はともかく、リーファとしてもバイクの機動力には魅力を感じていた。

 しかし、見た事の無い鉄の馬が爆音を響かせ高速で走っていたら、早晩噂になる事は想像に難くない。


"僕らはこれから勇者に近づいて、コッソリ、ロクニオスを聖剣の方に変える予定だから、あんまり派手なのはちょっと……"

「えっ、そんな事するんですか?」

"うん。あのまま勇者が魔剣を使い続けるとまずいから……言ってなかったっけ?"

「聞いて無いです」

"あっ、そうか。心の声は意識しないと伝わらないから……まぁ、とにかくそういう訳なんで、一旦街に戻ろう"

「はぁ……分かりました。じゃあ、ガーネットさん、お元気で」


 いい加減なアルマリオスにため息を吐いて、呪いの解かれた聖剣を雑納に縛り付けたリーファはガーネットに手を振った。


『ああ、あんたも元気で……たまには顔を見せな、また一緒に走ろう』

「は、はぁ……」


 ぎこちない笑みを浮かべたリーファに、ガーネットも苦笑を浮かべる。


『あんたは気持ちが顔に筒抜けだねぇ』

「……すいません」

『まぁ、外面でニコニコして、心の中で舌出してる様な奴よりは全然ましさ。じゃあまたね』

「はいッ! ありがとうございましたッ!」


 笑みを浮かべ手を振った泉の女神ガーネットにペコリとお辞儀を返し、リーファは泉の森を後にした。



■◇■◇■◇■



 リーファが女神の泉でゴミを(さら)っている頃、街に戻ったアルベルト達、聖王冠(ホーリークラウン)の面々は、冒険者ギルドに見込み有と声を掛けた新人冒険者リーファが、自分達にいい所を見せようと張り切り突出し、魔物に攫われた事を報告していた。


「そうですか……」

「あいつ、アルベルトに声を掛けられた事が嬉しかったのか、調子に乗っててさぁ」


 青髪の盗賊、サフィが皮肉げに言う。


「我々は止めたのですが、その制止も虚しく魔物に……」

「まぁ若者は総じて自分が特別だと思う物ですからね……それでその新人は?」


 金髪糸目の至高神司祭ニーダンスが首を振ると、ギルド職員も神妙な面持ちで頷きを返し、視線をメンバーに向け問い掛ける。


「最下層で死んでいたわ。祭壇に捧げられていたから、魔物に邪神の生贄にされたんでしょうね」

「邪神の……」


 魔女のベルサの言葉にギルド職員は悔し気に顔を歪めた。


「おう、その生贄の儀式の所為か最下層の扉が開いていてよ。ボスと戦う事が出来たんだ」

「……聖剣が手に入ったのは彼女のおかげだ……その死を無駄にしない為にも、僕は今後一層、魔王討伐に向けて邁進するよ」


 そう言ってアルベルトは辛そうに顔を顰め、拳を握り締めた。

 机の上にはリーファのギルド証が置かれている。職員はそのギルド証に目を落しお願いしますとアルベルトに頭を下げた。

 ここ数百年、魔王が討伐されたという報告は為されていない。

 数十年に一度、冒険者の中から勇者と思われる者は出るものの、その誰もが魔王の城から帰っては来なかった。


 遠い昔には勇者が魔王を倒し、数百年間、魔族からの侵攻が治まった時代もあったらしいが、今現在はずっと人間側と魔族側の争いは続いている。

 それはアルマリオスがリーファに語った邪神の企みによる物なのだが、アルベルト達は勿論、ギルド職員を含めた人間側で気付いている者はいなかった。


「……それでは確かに報告は承りました。お疲れ様でした」


 そう言って職員はアルベルト達を労うと、リーファのギルド証を手に取った。

 こうして一人の新人冒険者は、死者としてギルドの名簿から登録を抹消された。



■◇■◇■◇■



 アルベルト達がギルドにリーファの死を報告した翌日、街に辿り着いたリーファ達は取り敢えずの路銀を確保する為、武器屋を訪れていた。


「どうです? これはかなりな業物ですよッ!」


挿絵(By みてみん)


 ニコニコと愛想よく笑うリーファを店主は胡散臭げに眺める。

 竜人間(ドラゴニュート)は一応、人間側の種族ではあるが、余り数は多く無く、さらにその身体能力もあってかプライドの高い者が多い。

 そんな竜人間(ドラゴニュート)が愛想よく笑っている時点で妖し過ぎる。


「買い取る前に身分証を見せて貰っていいかね? 疑う訳じゃないが、盗品だった場合、しかるべき筋に報告しないといけないんでね」

「身分証ですね? 了解です……って、アレッ!? ギルド証が無いッ!?」


 ギルド証を入れている腰のポーチに手を突っ込んだリーファは、ようやくギルド証が無い事に気が付いた。

 そんなリーファを見て、店主の表情はどんどん曇って行く。


「いや、私はホントにギルドの冒険者でですねぇ……そうだッ! あの時きっと……」

「悪いが身分が証明出来ないなら買い取りは無しだ」

「そ、そんなぁ、ほらこの刀身見て下さいよッ、まるで自ら光を放っているみたいでしょうッ!」


 リーファは食い下がったが店主は首を振り、犬でも追い払う様にシッシッと手を振った。

 結局、店主が折れる事は無く、リーファは売れない剣を抱えたまま武器屋を後にした。


「とほほ……換金して装備を新調しようと思ってたのに……」

"あー、リーファ。多分だが以前の身分証は使えないと思うよ"

「え、なんでですか?」

"だって君、見た目が人族じゃないだろう?"

「あ……」


 冒険者ギルド証には所属や名前の他、死亡した際の身元確認の為、種族、容姿の特徴、生年月日等、パーソナル情報が書き込まれている。

 角が生え、歯はギザギザ、瞳は瞳孔が細長い。そんな容姿では人族で登録されたギルド証は使えないだろうし、そんな物を提示すれば犯罪者として疑われる事は必至だ。


「うぅ……仕方ないです。こうなったら再度、別人として冒険者ギルドに登録するしかありません」

"別人として……あんまり人間社会の事は知らないけど、そんな事出来るの?"

「はい、ギルドは一応試験がありますが、入るのは簡単なんです」


 冒険者志望の若者は意外と多い。農村等では土地は有限だし、商家や貴族も大金持ちばかりではない。

 土地を貰えない次男や三男、家業を引き継げない同じく次男や三男、スペアとして取り敢えず儲けられたこれまた次男や三男が一攫千金を夢見て冒険者の道を選ぶ。

 そしてその大半が夢に破れ、別の仕事に就くか、夢半ばで死ぬ。


 リーファの場合は英雄譚に憧れて、そんな英雄達とお近づきになりたいという、割とミーハーな理由で冒険者を志した。


 だからSランク冒険者のアルベルトに声を掛けられた時は、かなり舞い上がっていたのだが……。

 クッ……アルベルトの事を思い出したら、なんだか腹が立ってきました……。


「ふぅ……ともかく、今は腕力や素早さも上がってますし、余裕で受かる筈です」

"ふーん……まッ、なんでも良いけど、君がリーファ・ブラッドだって事、勇者達には知られない様にしてね"

「むッ……となると偽名が必要ですねぇ……なんか、こう、強そうでカッコいいのがいいですよね」


 何がいいですかねぇ……そんな事を呟き、リーファはどんな名前にするか頭を捻りつつ、ギルドへの道を歩いた。

お読み頂きありがとうございます。

面白かったらでいいので、ブクマ、評価等いただけると嬉しいです。

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