女神の好み
巨人の鍛冶屋、ロガイドの頼みを引き受けたリーファ達は、巨人に礼だと言って金を渡したマッソーと共に、転移の兜の力で今度は女神の泉へと飛んだ。
泉は立て札の効果か、リーファが掃除した時と変わりなく澄んだ水を湛えていた。
「ガーネットさーんッ!! リーファですッ!!」
リーファが呼びかけると、程なく澄んだ水の底から金髪で紫の特攻服の女が上がって来た。
「泉の女神様……本当にいるんだ……でもお話で聞いたのと少し違うような……」
レナは想像していた優し気な女神像とは違うガーネットに、戸惑いを見せた。
「久しぶりだね。リーファ、アルマリオス。んで、その連中は?」
「えっと、こちらは盗賊のクライブさん、獣人の女の子はレナさん、裸マントはマッソーさんです。クライブさんとレナさんは私の仲間、マッソーさんは……協力者です」
リーファはマッソーの事をなんと紹介したものか悩んだが、とりあえず協力者という事にしておいた。
なんだろうか。彼を仲間と呼ぶのは抵抗があったからだ。
「クライブだ」
「レナです」
「マッソーである」
「泉の女神、ガーネットだよ……」
名乗りを上げたガーネットはクライブたちを眺め、マッソーで視線を止めた。
その目は見開かれ、頬には朱が差している。
彼女はその後、チョイチョイとリーファに向かって手を振った。
どうやら呼んでいるらしい。
「なんですか?」
リーファが問い掛けながらガーネットに近づくと、彼女はリーファの首に左腕を回し耳に口を近づけた。
「リーファ、あのイケてるメンズはフリーなのかい?」
「えっ、イケてるメンズってマッソーさんの事ですかッ!?」
「大きな声出すんじゃないよッ。でもそうだよ」
「……ガーネットさん、あんな裸マントの人がいいんですか?」
「馬鹿だねぇ。男は逞しい方がいいに決まってんだろッ」
……確かに一瞬、私もゴリマッチョがいいとか思った事はあったけど……でも、マッソーさんは……。
言ってる事はまともだし、頼りになるのは確かなんですけど……。
「多分、地下墳墓で番人してましたから、フリーなんじゃないかとは思いますけど……」
「多分ってあんた、行動を共にしてるのにそういう話はしないのかい」
……別にしたくない訳じゃないんですけど、マッソーさんとはあんまりしたくないかなぁ……。
「なんでなんだいッ、あんな魅力的な男がそばにいるのにッ」
あっ、そういえばガーネットさんも心が読めるんだった……。
「なんでって、タイプじゃないですし、色々とトラウマがあって……」
「ふぅ……頼りにならないねぇ……しょうがない。女は度胸、ここは一発正面からぶつかるとするかねぇ」
「えッ、正面からってガーネットさんッ!?」
ガーネットはリーファから離れるとスタスタとマッソーに歩み寄った。
眉根を寄せてマッソーを見上げながら、ガーネットは口を開く。
「単刀直入に聞くよ。あんた今、恋人はいるのかいッ!?」
なんだかドスが効いていて、とても恋愛関係の話をしているようには聞こえない。
「むっ、恋人? 昔はいた時もあったが今はそのような存在はいない」
それを聞いたガーネットは右手の拳を掲げギュッと握りしめた。
その後、再びマッソーを見上げたガーネットは、しばしためらっている様子を見せたが、やがて覚悟を決めたらしく口を開いた。
「あんたに一目ぼれしたッ!! たのむ、あたしと付き合っておくれッ!!」
ガーネットは勢いよく頭を下げ、開いた右手をマッソーの前に突き出した。
その告白にどちらかというと引かれる事の多いマッソーの方が、少し引いた様子をみせた。
「あー、女神殿。我と女神殿は知り合ったばかり、こういう事はもっと段階を踏んで……」
「段階を踏んでる間にあんたが別の女とくっつく事を考えたら、あたしゃもう……」
そう言って上げたガーネットの顔は真っ赤にそまり、目には涙が浮かんでいた。
えー、そんなにー? だってさっき会ったばかりですよ?
「うるさいねッ!! 色恋はインスピレーションなんだッ!! ビビッと来ちまったら、こうする他ないんだよッ!!」
リーファの心を読んだガーネットは牙を剥き吠える。
そんなガーネットの突然の行動にクライブとレナはおろか、彼女をよく知るアルマリオスも呆然としていた。
「さぁ、どうなんだいッ!? イエスかノーかッ!!」
ガーネットはマッソーに向き直り、鼻息荒く詰め寄った。
マッソーはそんなガーネットをまぁまぁと宥め、腕を組み思案を始めた。
「ふむ……女神殿と恋仲に…………一つ聞きたい、女神殿は我のどこに魅かれたのだ?」
「そりゃあんた、その逞しい肉体に決まってるじゃないか」
「ほう、我が肉体に……では問おう。我の筋肉でどこの部位が一番好みであるか?」
マッソーはバッとマントを脱ぎ棄て、ダブルバイセップスのポーズを取った。
「それは……大胸筋……いや、上腕二頭筋も捨てがたい……あ、でもシックスパックも魅力的だし……駄目だ……あたしにゃあ決められないよ……」
「フッ……流石だ、女神殿」
マッソーは微笑みを浮かべガーネットを見つめた。
「え、どういう事だい?」
「筋肉にランク付けなど、意味をなさぬ。すべてを分け隔て無く鍛え上げることこそが、至高なのだ」
「じゃ、じゃあ……」
「人となった我はおそらく女神殿と過ごせる時間はわずかだろうが、それでも良いのなら」
「あ、ありがとうッ!!」
ガーネットはマッソーの胸に飛び込み、その鍛え上げられた大胸筋に顔をうずめた。
マッソーは微笑みを浮かべ、ガーネットの金髪の頭を撫でてやった。
「なぁ、リーファ、俺たちは何を見せられているんだ?」
「……なんなんでしょうね」
「世の中には裸でコテカの人でもいいって人もいるんですねぇ」
「彼女、昔から体の大きな男が好みだったけど……」
恋愛話って普段ならもっとテンションが上がるんだけど、なんだかこの二人だと……いや、マッソーさんだとなんというか、上手く言えないけど……なんか違う感が……。
リーファはそんな事を思っていたが、嬉しそうに微笑むガーネットを見ていると本人がいいなら、いいのかと苦笑を浮かべた。
■◇■◇■◇■
「蒼黒石?」
マッソーに告白し恋人となったガーネットが落ち着いたところで、リーファ達は本来の目的であった蒼黒石について尋ねた。
マッソーの左腕に抱き着いたガーネットは首を傾げながら、その長い記憶を辿っている。
「えーと、昔、巨人さんに渡したって聞いたんですけど……なんでも凄い武具の材料だとか」
「僕は異界のゴーレムがどうとかって聞いたんだけど……」
「異界……? 昔、引きこもってた時、異界を覗いてて、色んな物に変形する青いゴーレムは見た事あるけど……」
アルマリオスの言葉で別の記憶が引き出されたのか、ガーネットは眉根を寄せる。
「ガーネット、我からも頼む。この者達にはこのコテカ入手の恩があるのだ。何とか思い出してくれ」
「うーん……蒼黒石……巨人……武具……あッ、もしかしてあの時のッ!?」
「思い出したのか、女神様ッ!?」
「ああ、情けない記憶だから忘れる様に努めてたんだ……あれかぁ……」
そう言ったガーネットは困り顔を浮かべていた。
「なにか問題があるんですか?」
レナがガーネットと同じく困り顔で尋ねる。
「問題というか、あれはもらい物でねぇ。アルマリオスも知ってるだろ? こっから北のユス湖に住んでる亀竜のグラボロス」
「グラボロス……あのぐうたらがなんなのさ?」
「同じ水の神の繋がりで、一回、あいつの甲羅を磨いてやった事があったのさ。ほらあいつ、ほとんど動かないから甲羅に藻がびっしり生えてさ」
「だろうね。大体、日向ぼっこしてるか、水の中で寝てるかだもん」
アルマリオスの言葉にうんうんと頷きながら、ガーネットは言葉を続ける。
「で、その藻を取ってやった礼だってくれたのが、あの石だったんだ。グラボロスが武器とか作るのに良いって言ってたからさ、巨人達に襲われた時に見逃してもらう代わりにくれてやったんだよ」
「はぁ……グラボロスかぁ……」
「アルマリオスさん、そのグラボロスさんはそんなにぐうたらなんですか?」
酷くいやそうにため息を吐いたアルマリオスにリーファが尋ねると、彼は肩をすくめながらそれに答えた。
「まあね。ぐうたらというか、すごく鈍いんだよあいつ。喋ってる途中に寝たりするし、とにかくコミュニケーションが取りづらくて……」
「ハハッ、確かにね……そうだ。試しに加速の魔法でもかけてみちゃあどうだい?」
「加速ねぇ……それもありかな」
「ともかくだ。その亀の神様の甲羅を掃除すりゃあ、蒼黒石が手に入るんだな?」
「ああ、あの石はグラボロスの魔力と甲羅の分泌物が結晶化した物だそうだよ。あたしが掃除してからずいぶん経つから、きっと大きいのが出来てるはずさ」
ガーネットはそう言ってマッソーの腕を抱きしめ、満面の笑みを浮かべた。
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