勇者、呪縛から解かれる
ロレーヌの腕を締め上げたベッドの上のアルベルトに、二つの人影が襲い掛かる。
一つは銀髪で黒タイツの怪人、もう一つは黒髪で髭面の男だった。
黒タイツの怪人はアルベルトがロレーヌの腕を掴んだ右手を捻り外させ、髭面の男カイエンはベッドに飛び乗りアルベルトの目の前で「喝ッ!!」と覇気の籠った叫びを放った。
カイエンの覇気を受けたアルベルトはパチパチと瞼を瞬かせ、きょとんとした表情で目の前の男の顔を眺めている。
「ぼ、僕は一体……」
その顔は力を求めて歪んでいた時とはまるで違っていた。
「も、もしかして呪いが解けたの?」
アルベルトの変化に気付いたサフィがベッドに歩み寄り呟く。
サフィに続いてリーファ達もベッドに近づき、アルベルトの様子を眺める。
「いや、今は気合を浴びせて一時、呪いの影響を惑わせたにすぎん」
「呪い……そういえば……ググッ……ち、力を……」
「……相当に浸食されておるな。これでは話も出来ん」
「あの、このサークレットを……」
両手で頭を押さえ再び苦悶の表情を浮かべたアルベルトを見て、ロレーヌがサークレットをサフィに差し出す。
サフィはサークレットを受け取り、一時、ロレーヌの顔に視線を向けたが、不安そうなその顔を見て信用出来ると踏んだのか受け取ったサークレットをアルベルトの頭に近づけた。
「止めろッ!!」
だがアルベルトは近づいたサフィの手を払いのける。
「ふむ……邪神の呪いとは厄介なものであるな」
「マッソー、カイエン、そいつを押さえ付けてくれ」
「あい、分かった」
「承知」
クライブの指示でマッソーはアルベルトの両腕を掴み、カイエンはそのまま馬乗りになり立ち上がろうとするアルベルトを押さえ込んだ。
「グッ、放せッ!!」
「アルベルト、暴れないでッ! ベルサ、もう一度眠りの魔法をッ!!」
「分かったわ。 魔女ベルサが命じる、眠りの精霊よ、勇者アルベルトに眠りの砂を、永久の眠り」
ベルサの魔法が完成するとアルベルトの体からガクリと力が抜けた。
垂れ下がった頭を見てサフィがふぅとため息を吐く。
「早く、サークレットを。そのサークレットには心を開放する為の術式だけを定着してあります」
「最初からそれを出しなさいよね……」
「す、すみません……」
口を尖らせロレーヌの苦情を言うと、サフィは意識を失い項垂れたアルベルトの頭にサークレットを嵌めた。
額の中央、サークレットに付けられた白い魔石が輝きを放ち、やがて光は静かに消える。
光を放った魔石は力を使い切ったのか、黒く濁り砕けてアルベルトが寝ていたベッドに散らばった。
「ロレーヌ、これでアルベルトは呪いから解放されたのよね?」
「……その筈です」
「じゃあ、起こすわね」
ベルサが睡眠解呪の魔法を唱えている後ろ、リーファは眠らされたり起こされたり、アルベルトも大変だと暢気に苦笑を浮かべていた。
「なに笑ってるんだよ?」
「いえ、アルベルトも大変だなぁと思って」
「……確かにな」
リーファとクライブがそんな事を囁き合っている間に、ベルサは詠唱を終え、アルベルトが目を覚ました。
「うぅ……何なんだ……頭がクラクラする……」
「アルベルト、大丈夫か?」
「ゴダック……なんだかここ何日か、夢の中にいたみたいだ……所でこの連中は?」
アルベルトは自分の上に跨っているカイエン、それに両腕を固定しているマッソーを仰ぎ見、ゴダックに尋ねた。
「はぁ……これから説明してやるよぉ」
どうやら力への渇望から逃れた様子のアルベルトを見て、ゴダックは安堵のため息を吐くと、やれやれと笑みを浮かべた。
■◇■◇■◇■
ゴダック達が記憶が曖昧なアルベルトに事の経緯を説明している間、リーファ達はニーダンスに今後の予定について説明する事にした。
「私達は手に入れた武具、女神の盾の修復に向かおうと思っています」
「女神の盾……魔法も神の奇跡も弾く勇者の装備の一つですね……修復と言いましたが?」
「俺達が連れて来たカイエン。あいつが邪神の命令で盾を壊しちまってな。元吸血鬼のマッソーが知ってるっていう、巨人の鍛冶屋に直して貰いに行くんだ」
「巨人の鍛冶屋……そんな者が……」
至高神の司祭、ニーダンスも初耳らしく細い目を開き驚いた様子を見せた。
「あんたも知らねぇのか?」
「はい、初耳です……ただ、太古の昔、巨人族が神と対立していたというのは聞いた事があります。ただのおとぎ話かと思っていましたが……」
「我の聞いた話では巨人は神になれなかった者の末裔らしい。神の眷属でありながら力が足りずに認められなかった者。その末が巨人という種族なのだそうだ」
マッソーの説明を聞いたリーファは巨人にほんの少し親近感を覚えた。
少し前の自分も誰からも認められてはいなかった。
だからアルベルトに自分が必要だと言われた時はうれしかった。
ただ、色んな人々、人以外、出会った神も含めて、最近は認められる事よりも何を為すかが重要ではないかと思い始めていた。
認められる事。アルベルトを見ていれば分かるが、彼は周囲から勇者と認められ期待されている。
だが認知されるかどうかよりも、自分の力をどう使うか、そしてそれによって、何かを少しでも変えられるかに意味がある様に思う。
そんな事を考えていたリーファをクライブの声が引き戻す。
「そういえば、なんでお前はこの中の誰も知らない巨人の鍛冶屋と知り合いなんだよ?」
「巨人族を探したからに決まっているだろう」
「探した? 吸血鬼のお前がなんで? 接点ないだろ?」
首を傾げるクライブにマッソーのは不敵な笑みを浮かべた。
「フッ、巨人と言えば我ら肉体を極めようとする者の頂点、憧れであり目標なのだ」
「目標って……そもそも種族が違うじゃねぇか」
「マッソーおじさん、いくら頑張っても巨人にはなれないとレナは思うよ」
「レナ、最初から諦めていては叶うものも叶わぬ。願い挑戦し続ける事、それさえ止めなければ、いつか手が届く日が来るかもしれぬ」
「いつか手が……」
レナは開いた自分の手を見つめ、その手をギュッと握り締めた。
その後、顔を上げマッソーを見上げる。
「そうだね……ありがとうマッソーおじさん! レナ頑張ってみるよ」
マッソーの言葉を聞いて何かを決断した様子のレナは、握りしめた拳をギュッと握ってみせた。
一体レナは何を決断したのだろうか。ていうか、マッソーさん、いい事言ってるけどやっぱり私は巨人になるのは流石に無理だと……うぅ……巨大なアレが……。
リーファが巨人化したマッソーと、それに伴い巨大化したアレを想像している横で、今後についての話合いは続いていったのだった。
お読み頂きありがとうございます。
面白かったらでいいので、ブクマ、評価等いただけると嬉しいです。




