彼女は偶像に恋をした
リーファ達が受けた説明では術式を解析したと言って尋ねてきた魔法大学の教授、呪術研究者のロレーヌ・カルバインはアルベルトに呪術を込めたサークレットを装備させた。
その後、ベルサに魔法を解かれ目を覚ましたアルベルトは、ベッドの側にいたロレーヌを抱きしめ愛を語り始めたのだという。
当然、ベルサは二人を引き離そうとし、ゴダック達もそれに加勢しロレーヌを問い詰めた。
それによればサークレットにはアルベルトの中で渦巻く力への渇望を、ロレーヌへの恋心へ変える術式の他、外せない様に爆発の術式も組み込まれていた。
魔女ベルサは仕方なくアルベルトを魔法によって眠らせた。
そして現在、一行はその元凶であるロレーヌを取り囲み、彼女を説得していた。
「なぁ、先生。アルベルトに被せたサークレットを外しちゃ貰えねぇか?」
「そうよ。アルベルトはあたし等のリーダーで、今後も平和の為に戦わないといけないんだよ」
「サフィの言う通りです。冒険者ギルドからSランクの称号を受けているからには、我々はその義務を果たす必要があるのです」
「ねぇ、同じ女として聞くけど、魔法で気持ちを歪めて彼を手に入れて満足出来るの?」
ゴダック、サフィ、ニーダンス、ベルサがリビングの椅子に縛られたロレーヌに問い掛ける。
「……ずっと……彼が冒険者として活躍して、それが英雄譚になってこの街でも知られ始めた頃から、私はずっと推していた。本、肖像画、舞台のパンフレットまで、彼に関係する物は全部持ってる。そんな彼の心を自分に向けさせる事が出来るなら……いえ、これは運命なのよ。あなた達が私の下に魔剣を持ち込んだ事も、私がその魔剣に刻まれた呪術を読み解ける研究者だった事も……全ては必然なのよッ!!」
ロレーヌは眼鏡の奥の瞳を見開き叫び声を上げた。
その様子は何処か狂気じみており、ゴダック達は完全に引いていた。
「彼女はどうやら民が生み出した、勇者アルベルトという偶像を愛してしまっている様ですね……」
「はぁ……人気が出るのも考えものだな」
そう言って首を振るゴダックの後ろからリーファは歩み出て、縛られた彼女の瞳を正面から覗き込んだ。
「聞いて下さい。このままあなたがアルベルトを開放しないなら、彼は死んでしまうかもしれません」
「死ぬッ!? どういう事よッ!?」
「先程、ゴダックさん達が言った様に、アルベルトは人間側の魔王に対抗する為の貴重な仲間の一人です。このままにしておく訳にはいきません……ですから……」
そう言ってリーファはゴダックを振り返る。
その視線の意味を理解したゴダックは今後、取るべき方法をロレーヌに説明した。
「あんたがサークレットをどうしても外さねぇなら、俺たちゃ魔法医に頼るしかなくなる」
「魔法医? 医者に何が出来るっていうのよッ!?」
「その魔法医は特殊な炎の魔法に長けているわ。炎を使った浄化と再生。アルベルトは一度死んで転生する事で呪いから逃れられる可能性があるの」
ロレーヌの問いにベルサが淡々と答えた。
「だが、その転生に耐えられるかは、アルベルトの魂しだいだ。最悪、魂の抜け落ちた抜け殻になっちまうかもしれねぇ」
ベルサの言葉を引き継ぎ、クライブが転生を行えばどうなるかを告げた。
ここにいる誰もそんな一か八かは望んではいない。要はブラフだ。
「……私達には正気に戻ったアルベルトがどうしても必要なのです」
リーファは再度、エメラルドの瞳でロレーヌの目を覗き込む。
縦長の瞳孔は小動もせずロレーヌの目を射抜いた。
「う、嘘よッ! そんな魔法、大学でも聞いた事ないッ!!」
「大学で教えている事は魔法という大海の中の一滴に過ぎないわ。現に私は大学で学んではいないけれど、大学出身の魔法使いに負けた事はないもの」
ベルサはそう言うと小さく囁き、右手の人差し指の先に青白い炎を灯してみせた。
師匠である魔女に教わった独自の魔法、効率化や合理性を重視した大学では決して教えない、研究もされない古代語魔法と精霊魔法を融合させた魔力の光。その指先で揺れる青い炎を見てロレーヌは瞳を揺らす。
「本当に……本当にあなた達はアルベルトを転生させるつもりなのッ!?」
「あんたが意地を張ればそうなるだろうね」
「私にもっと力があれば、至高神への祈りで呪いを解く事も出来るのでしょうが……」
サフィが口をへの字に曲げて言えば、ニーダンスが首を振りながら己の力不足を嘆く。
「……分かったわよ。彼が消えるぐらいなら……」
ロレーヌは首を項垂れ囁くように静かに答えた。
■◇■◇■◇■
あの後、ロレーヌはアルベルトが寝かされた寝室に異動すると、名残惜しそうに彼の頬に触れた。
寝室には二人の他に聖王冠の面々とリーファ達も壁際でその様子を見守っていた。
サフィとベルサがその様子を見て顔を顰めるが、ここで何か言って彼女の気持ちが変わったら元の木阿弥だ。
二人は言いたい言葉をグッと飲み込み、ロレーヌの行動を見つめていた。
そんなサフィ達を横目に、ロレーヌはアルベルトの額、サークレットに唇を寄せ小さく何か囁く。
その直後、サークレットの石は砂になって砕けて消えた。
「あの、アルベルト様はッ!?」
レナが思わず声を上げるとロレーヌは疲れ切った顔で振り向いた。
「これで彼の私への思いは消えたわ……後はこれを……」
そう言ってロレーヌが新たに取り出したサークレットをアルベルトの額に嵌めようとした時、突然アルベルトの目がカッと見開かれた。
「力だッ!! 僕にはもっと力がッ!!」
「嘘ッ、魔法の眠りを自力で!?」
驚くベルサの視線の先、跳ね起きたアルベルトはロレーヌのか細い腕を締め上げ、部屋に並んだ者達を睨みつけた。
「キャッ!? ア、アルベルト様!?」
「止めろアルベルトッ!!」
「力が……力が必要なんだ……」
「い、痛いッ!! は、放してッ!!」
ロレーヌの悲鳴が周囲に響いた時、人影が二つアルベルトに飛びかかった。
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