アルベルト、愛に目覚める
生贄の少女、コロネをリデノ山脈にある牛の女神、ラフィネリスの社の近くに埋葬したリーファ達は、ラフィネリスに別れを告げ、今度はルードネルの街へと飛んだ。
目的は魔王軍の侍大将、カイエンをアルベルトと引き合わせる事。
聖王冠は魔法大学へ魔剣の解析を依頼しているから、カイエンの話は無駄になるかもしれない。
だが、もしその解析によってアルベルトの心が解放されるなら、カイエンも同様に出来るかもしれない。
そう思ったリーファは、ホテルに向かう道中、思い付いた事をカイエンに尋ねる。
「カイエンさん、ローザはアルベルトに持たせた魔剣に、心を開放させる術式を仕込んだと言ってました」
「そう聞いている」
「あの、その術式を使えばカイエンさんや他の幹部の人、魔王自身も邪神から解放出来ませんか?」
「……それは難しいだろう。拙者らは限界まで武具を使い込んだルザムの影響を受け魔族化した。ラムザスの術式はその一歩手前で発動すると聞いている。完全に浸食された拙者たちでは恐らく……グッ……」
カイエンは突然、顔を顰めると自らの右腕を押さえ込み、ふぅを深く息を吐いた。
「カイエン?」
「……また命令が来た。お前達を殺せと」
「えっ!? でもでも、それって抑えられるんですよね!?」
リーファの言葉にカイエンは顔を顰めつつ笑う。
「何とかな……だが声から感じる強制力が強まっている様に思う。奴も焦っているのかもしれん」
「焦っているか……まぁ、ローザが倒れて、次はあんただもんな。手駒が次々と敗れれば焦りもするか」
そんな話をしているリーファ達の後ろ、全身タイツにマント姿のマッソーと歩いていたレナは、人々の注目を集めているマッソーの仲間と思われる事に羞恥心を覚えていた。
何せマッソーは誰かの視線を感じるたび、様々なポーズでそれに応えながら歩いていたからだ。
「クフフ、確かにこの服はいいかもしれん。筋肉の形はハッキリと分かるし、街中で追われる事もないしな」
「マッソーおじさん、あんまり派手にやっていると、衛兵さんに目を付けられるかもですよ」
「レナよ。いつの世も時代の最先端を行くものは目立つものだ」
「……最先端なんでしょうか……それ」
後ろから聞こえてくる会話に苦笑しつつ、リーファは辿り着いたホテルニュービッグバリーの玄関を潜った。
受付を抜け、そのまま最上階のスイートルームへと足を運ぶ。
ドアをノックすると何だか疲れた様子のニーダンスが一行を迎えた。
「ああ、あなた達でしたか」
「ニーダンスさん、なんだか疲れてませんか?」
「ええ、少々、問題が起きたもので」
「問題ですか?」
「なんだよ、アルベルトがまた暴れたのか?」
「いえ、そういう訳では……いえ、そういう事になるのでしょうか……とにかく中に」
ニーダンスに招き入れられたリーファ達は、先導するニーダンスに続いて廊下を歩く。
「所で、その二人は?」
カイエンとマッソーにチラリと目を向け、ニーダンスはリーファ達に尋ねた。
「この人は魔王軍の侍大将、カイエンさんです。あとこちらは」
「なっ!? 何を考えているんですッ、敵を連れて来るなんてッ!?」
ニーダンスは足を止め勢いよく振り向くと、細い目を見開き珍しく声を荒げた。
「あ、敵だけど敵じゃ無かった的な人なんです。ほらローザが言ってたでしょ。自分達は邪神の命令に逆らえないって」
「聞きました。だったらその男も邪神の言いなりという事でしょう」
自らを落ち着ける様に、声を抑えて至高神の司祭は言葉を紡いだ。
その言葉にリーファとクライブに挟まれた無精髭の侍が口を開く。
「確かに拙者はヴェル―ドの言いなりであった。だがこの娘に身を魔から解放してもらった。今は邪神の命にも何とか背ける」
「……それで、魔王軍の幹部が一体何の用なのです?」
ニーダンスの声には多分に敵意が含められていたが、カイエンは特に気にした様子もなく疑問に答える。
「お前達の頭目、今代の勇者がローザの策で力への渇望に囚われているのは知っている」
「でしょうね。計画を立てたのはあなた方、魔王軍なのですから」
「拙者はその力への渇望を抑える術を会得している。それを勇者に伝えたい」
「……どうして敵であるあなたが?」
「こいつ自身、ローザと同じで邪神の言う事聞くのは嫌だったらしいぜ。まぁ、元は魔王を倒そうとしていた勇者パーティーなんだし、当然かもだが」
クライブの言葉を聞いたニーダンスは「はぁ……」と深いため息を吐いた。
「……心を抑える術と言いましたね」
「うむ」
「では早速教えて頂きましょうか……あとそのマントの御仁は?」
「こいつはマッソー。ほら、牛の女神様の所に来た元吸血鬼だ」
「マッソー・ペラトリクスである。此度はクライブ達に恩を返す為に同道した。よろしく頼む」
マッソーはそう言うと、ダブルバイセップスのポーズを取り、白い歯を見せ笑った。
モリッと筋肉が盛り上がり、引き延ばされた黒いタイツがテラテラと光る。
そんなマッソーを見たニーダンスは、ヒクヒクと頬を引きつらせた。
「あなた達は次から次へと……ふぅ……もういいです。ともかくこちらへ」
再び深いため息を吐いたニーダンスは、リビングへと一行を導いた。
リビングでは小さな宝石の付いたサークレットを付けたアルベルトと、見知らぬ金髪で眼鏡の女性が備え付けの椅子にロープで縛られていた。
二人とも口を布で覆われ喋る事が出来ない様だ。
アルベルトの座った椅子はゴダックが押さえ付け、女性の座った椅子はサフィとベルサが押さえていた。
「……こいつはどういう事だ?」
「おッ。お前ら戻ったのか?」
「ゴダックさん、一体何が?」
ゴダックは「あー」と何処から話すべきかと首を捻り、やがて、自身の中で整理がついたのかおもむろに話を始めた。
「この女は魔法大学の呪術の教授でカルバイン。魔剣の術式の解析を頼んだんだが……どうもアルベルトのファンだったらしくてな……心を開放すると見せかけて、別の呪術をアルベルトに掛けやがった」
「別の呪術って……アルベルト様は大丈夫なのですかッ!?」
アルベルトの身を案じたレナが思わず叫び声を上げる。
「うーん、見て貰った方が早いか……」
ゴダックはそう言うと、アルベルトの口を封じていた布を解いた。
「ロレーヌッ、すぐに解放するッ!! 放せゴダックッ!! 僕は、僕はようやく自分が何を求めているかに気付いたんだッ!! 必要なのは力じゃ無かったッ!! 本当に必要なのは愛だったんだッ!!」
アルベルトは体を揺すり何とかカルバインに近づこうとするが、ゴダックががっしりと椅子を押さえている為、動く事も出来ない。
「どうも教授は力を求めるアルベルトの心のベクトルを、呪術を使って自分に対する好意に変えたみてぇだ」
「ホントにふざけた女だよ。いきなり出て来てさ」
「まったくだわ。魔法を使ってアルベルトの気持ちを歪めるなんて」
「二人とも止めろッ!! ロレーヌは何も悪くないッ!!」
サフィとベルサは椅子に縛り付けたカルバインを冷ややかな目で見下ろしていた。
そんな二人にアルベルトは声を荒げる。
「なんでこんな事に……」
リーファは混乱する状況に思わず額に手を当て、天を仰いだのだった。
お読み頂きありがとうございます。
面白かったらでいいので、ブクマ、評価等いただけると嬉しいです。




