安らかな眠りを
女神の盾の残骸を入手したクライブとリーファは、宝箱に入っていた宝石や金貨を隠し部屋に戻りレナとマッソーと山分けした。
「我も貰えるのか?」
アルマリオスが用意した服(黒の全身タイツと皮のブーツ)を纏ったマッソーが驚いた様子を見せた。
伸縮性があり筋肉の具合がよく分かるとはいえ、それでもマッソーは着る事を渋ったが街に入る為には止む無しとコテカを外しタイツを着たのだ。
なので今、マッソーは黒タイツマントの怪人として、ほんの少しだけ変質者度合いが減っていた。
ただ、タイツにより股間部分の膨らみが強調された事で、ちょっとアレな感じにはなっていたが。
「当たり前じゃねぇか。それにこう言う事はキッチリやっておかねぇと後で揉めるんだ」
「そういうものか……そうだ。クライブ、その転移の兜を貸してほしい」
「コイツを? またなんで?」
「ラフィネリス殿に礼がしたいのだ」
「牛の女神様に礼を?」
「うむ。ラフィネリス殿には、最高のプロテインを提供してもらった恩があるゆえ」
頷いたマッソーに律儀な奴だとクライブは苦笑を浮かべた。
「分かった、それじゃあ、まずは女神様の所に飛ぶか」
「あ、その前にカイエンさんに聞きたい事が」
カイエンはもう暴れる事は無いだろうという事で、ワイヤーロープから解放されていた。
今は守護竜アルマリオスの私服である、異国風の服を纏っている。
「なんだ?」
「あの生贄の子はどこから連れて来たんですか?」
リーファの問い掛けにカイエンは顔を歪めた。
恐らく、邪神の命令で攫ったのだろう。
顔を見れば本意では無かった事は分かるが、やった事の責任は取るべきだし、出来れば遺髪や遺品だけでも家族の下へ返してやりたい。
「……あの娘は北、魔族の支配地域で暮らしていた最下層民だ……娘の家族にはいずれ拙者が詫びを入れる……家族が命を寄越せというなら腹も切ろう……ただ、今は勇者に会う事を優先させてほしい」
「……分かりました」
そういった訳でリーファ達は転移の兜の力でまずは牛の女神、ラフィネリスの下へ飛ぶ事となった。
■◇■◇■◇■
「ほんまにお礼にきたん?」
「当然である」
黒タイツのマッソーはそう言って山分けされた宝石と金貨の入った袋を、社の前にいるラフィネリスに差し出した。
「宝石なぁ……正直、もろても使い道がないんやけど……」
「そう言わず受け取って欲しい」
「うーん……ほな、これだけもろとこか」
ラフィネリスは袋の中から指輪を一つつまみ、右手の中指にはめた。
青い石の付いた指輪は落ち着いた彼女にとても良く似合っていた。
「これはどうも魔石みたいやし、占いの時の精度アップに使わさせてもらうわな」
「ぬぅ……ラフィネリス殿がそれで良いなら致し方ない……」
「そんで、アルマリオスはんらは何でまた?」
「邪神の武具を取りに行った迷宮に彼がいたんだよ」
「ふーん、マッソーはんとあんたらはほんまに縁があるみたいやねぇ……ところでその子は?」
ラフィネリスはクライブが抱えていた少女の遺体に目を向けた。
「この子はカイエン、そこの髯のおっさんだ。あいつは魔王軍の幹部なんだが、邪神の命令でこの子を生贄にして迷宮の扉を開いたんだ」
「邪神の……そうか……」
ラフィネリスはクライブに歩み寄ると、マントから覗く少女の顔にそっと手を伸ばした。
「まだ小さいのに、可哀想になぁ……」
ラフィネリスの呟きを聞いて、カイエンの顔が辛そうに歪む。
そんなカイエンを見て、ラフィネリスは今度はカイエンに歩み寄った。
「あんたも辛かったんやなぁ」
「拙者の苦しみなど、その娘に比べれば……」
「何を辛う感じるかは人それぞれや。痛みを比べるんは意味ないで……ともかく、その子埋葬しよか。いつまでも抱えてたら可哀想や」
ラフィネリスはそう言うと、魔法を使い社のある山脈の斜面の土を持ち上げ穴を掘った。
「リーファはん達のお陰か、冒険者が来る事ものうなったみたいやし、ここは静かでその子もゆっくり休めるやろ」
彼女の言う通り、草に覆われた山肌を吹き抜ける風と時折聞こえる鳥の鳴き声以外に音は無く、リーファも眠るならこんな場所が良いと山脈からの景色を見ながら思った。
「……魔族の支配地域に連れてく事は今は出来ねぇし……仕方ねぇか……」
クライブはそう言うと、少女の髪を少し切り、身に着けていた木のペンダントをそっと外して、彼女を穴の中に横たえた。
「カイエン、この子の名前は?」
「確か、コロネだった筈だ」
「そうか……コロネ、ゆっくり眠るといい」
「どうか安らかな眠りを……」
「元凶を作った邪神ヴェル―ドは必ず僕達が倒すよ」
クライブとリーファ、それにアルマリオスが両手を組むと、二人と一匹を真似てレナも手を組みコロネの冥福を祈った。
カイエンも目を瞑り両手を組み、マッソーは左の拳を右手で掴み黙祷していた。
「……ほなコロネちゃん、おやすみ……次に生まれてくる時は幸せな一生を送れる事を願ってるよぉ……」
ラフィネリスはそう言って、魔法では無く自らの手で少女に土を掛けた。
彼女に続き、リーファ達も穴を掘った時に出た土を両手で抱え少女に掛けた。
少しずつ土に埋まっていく少女を見ながら、リーファは彼女の魂がどうか平穏で暖かな場所に導かれる様にと願った。
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