真の目的
話したい事があるらしいカイエンの向かいのソファーに腰かけた、リーファ、クライブ、レナ、そしてリーファの肩に乗ったアルマリオスの三人と一匹はカイエンの言葉を待った。
ちなみにマッソーはカイエンの後ろに立ち、股間のコテカを彼の頭部に向けている。
うーん、妙な事をさせない為の牽制かもしれないですけど、話に集中出来ないから止めてほしいです……。
マッソーの行動にリーファが心の中でため息を吐いていると、おもむろにカイエンが口を開いた。
「まずはこの身を魔から解き放ってくれた事に感謝する。力を求める気持ちは変わらぬが、邪神の言いなりであった事は拙者も不満を抱いておった」
「あの、体が戻ったら邪神の命令は聞かなくてもいいって事ですか?」
「そのようだ。相変わらず、語り掛ける声は聞こえるが、何とか抑えられるようだ」
「あんた、随分と落ち着いているが、力への渇望ってのは結構ヤバいんじゃねぇのか?」
「そうですよ。アルベルト様はなりふり構わない様子だったのに……」
クライブとレナの言葉にカイエンは苦笑を浮かべた。
「拙者はもう何十年とその感情に振り回されておる。慣れもする」
「なるほどねぇ……それで話ってなんだい?」
「……今代の勇者と会いたい」
「会ってどうするんだ? ローザみたいに攫うつもりか?」
「いや、力を求める心との付き合い方を伝えたい……拙者らはかつて勇者と呼ばれた者の成れの果て。先達として後進に出来る事があるならしてやりたい」
話を聞いたクライブはリーファの耳元に口を寄せた。
「どうする? この行動自体が邪神の命令かもだが」
リーファはクライブの言葉で目を伏せ、やが視線を上げた。
「……カイエンさん、それは本心ですか?」
「真正面から聞く奴があるか!?」
クライブはリーファの言葉に思わず声を上げる。
「私は人の心を覗ける訳ではないので……それでどうなんです?」
「真っすぐな娘だ……本心だ。そう言っても確かめようがあるまい……そうだな……本心だという証として、邪神ヴェル―ドの真の目的を話そう」
「真の目的? 奴の目的は武具を使って半永久的に手先の魔王を作ることじゃないの?」
アルマリオスは出会った時、リーファに語った話を持ち出し、首を傾げた。
「違う。奴の真の目的は、魔王を強化し自らの精神をその魔王に宿す事」
「精神を宿す……」
「魔王は代を重ねるごとにその強さを増している。拙者らの頭目、ルザムを倒した者が次代の魔王となるのだからな。そうやって力を増し続ければ、いずれは神の魂を宿しても砕けぬ肉体が手に入ろう」
「神降ろし……それが奴の狙い」
呟いたアルマリオスにカイエンは頷きを返した。
「実際には強引に降るのだから、神降ろしとは言えぬがな……ともかく奴は肉体をもって地上に存在したいのだ」
リーファは幼い頃に聞いた神話を思い出していた。
太古の昔、神はリーファ達が出会った者達の様に肉体を持っていた。
そうして人々を導いていたが、善なる神と悪しき神は同じ大地に存在する事に耐えられなかった。
結果、戦争が起こった。
戦争は地上に住む全ての生き物を巻き込み、七日七晩続いた。
神々の放つ力によって、大地は荒野と化し、海は荒れ狂った。
大きな力を持った神々は互いの力によって肉体を失い、善なる神は空高く天界へ、悪しき神は地下深く魔界へと精神体となり逃れた。
辛くも生き残ったのは強い力を持たなかった神や神獣、そして彼らに守られた生き物だけだった。
今のリーファ達の文明は、地上に残った神に守られた者達が作り上げた物とされている。
「……邪神が地上に出て来たら、また世界が滅んじゃいそうですね」
「おそらく善なる神の眷属である人や獣、生き残った神も奴は消すだろう。自らの楽しみの為、じわじわといたぶりながらな」
「冗談じゃねぇ。そんな事させてたまるか」
「まったくだ。そんな世界になったら、我の肉体を人々が鑑賞する余裕も無くなるではないか」
……別に現状でもマッソーさんの肉体を鑑賞する暇は無いですけど。
そんなリーファと同じ思いだったのか、クライブはスッと真顔になり、レナは遠い目をしていた。
「……えっと、邪神の目的を話せたって事は、カイエンさんは支配から逃れたって認識で良いんですよね?」
気を取り直したリーファがクライブに声を掛けると、彼は肩を竦め頷いた。
「のようだ……カイエン、あんたの要望を飲もう。アルベルトの所に連れてってやる。まぁ、今頃はあいつの仲間が問題を解決しているかもだが」
「じゃあ、一回、ルードネルへ戻るんですね?」
「ああ……マッソー、お前にもついて来て貰うぞ。鍛冶屋の巨人の居場所を聞かねぇとなんねぇからな」
「ふむ、承知した」
「んじゃ、俺とリーファは壊れた盾の回収、アルマリオスはマッソーの服の手配、マッソーとレナはカイエンの相手でもしててくれ」
クライブがそれぞれに指示を出すと、服の手配と聞いたマッソーが騒ぎ始めた。
「服の手配とはどういう事だッ!?」
「ああ? 街に行くんだぞ。その格好だと絶対捕まるぜ」
「グヌヌッ……いつか筋肉が芸術であると人族にも認識させてやる」
「クライブさん、レナはその……」
口ごもったレナはチラチラとマッソーを盗み見ている。
どうやら裸マントの怪人と一緒にいるのが不安な様だ。
「大丈夫だレナ。こいつは裸なだけで害はねぇみてぇだし、暫く同行するんだから慣れてくれ」
「うぅ……分かりました」
レナは多少怯えを含んだ目でカイエンの後ろにいるマッソーの顔を窺い見る。
するとマッソーは右腕を曲げて筋肉を盛り上げニカッと笑ってみせた。
「はぁ……慣れるしかないです……」
深いため息を吐いたレナの様子に、クライブとリーファは苦笑を浮かべたのだった。
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