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元吸血鬼の料理

 第四形態。戦闘特化の肉体の竜化により魔王軍の侍大将、カイエンを人に戻したリーファ。

 だが、その事で肉体に蓄えた力を使い切り彼女は昏倒してしまった。


 そして次に目覚めた時、彼女は見覚えのある寝室で目を覚ました。


「ここは……」

「起きたのだな? ここは守護竜の隠し部屋の寝室だ……番人にも部屋はあったが、あちらより中々に豪華であるな」


 響いた声にボンヤリした頭のまま目を向ける。

 ぼやけた視界にまず入ったのは銀色に輝く何か、その後ろに小麦色の肌と青い瞳が見える。


 …………ッ!?


「ななななな、なんであなたがッ!?」

「お前の相棒の盗賊の男、クライブだったか、彼奴と獣人の娘、最初は二人がお前についていた。しかしお前が半日以上目を覚まさないので、流石に限界が来たようでな。彼奴らには休息を取らせ、代わりに我がお前の世話を焼いてやったのだ」


 世話ッ!? この人が寝てる私の世話をしたッ!?


 リーファはカバリッと上体を起こし、自分の体に異常が無いか慌てて確認した。


「へへへ、変な事、し、してないですよねッ!?」

「ふぅ……ラフィネリス殿の乳によって我の闇の眷属としての呪いは解けた。もはや血への渇望は無い。それに我はもう大墳墓の番人ではないしな……そもそも恩を返す為に同行したのに、お前を害すれば本末転倒だろう」


 マッソーはそう言うと苦笑を浮かべ肩を竦めた。


「……ホントに何もしてない?」

「疑り深い奴だ。今の我の望みは人々にこの肉体を見て貰う事、意識のない者に何をせよというのだ」

「……マッソーさん、服を着ていない事と、無理矢理、筋肉を見せる事を除けば意外に紳士ですね」

「フンッ、当然であろう。我は元は高貴な魔族である吸血鬼であるぞ」


 いや、高貴な魔族ならまず服を着ましょうよ。魔族にもTPOって大事な事だと思いますよ。


 思わず心の中で呟いたリーファだったが、マッソーが自分の肉体を見せる事に強いこだわりを持っている事は、身を以って知っていたので、言葉にするのは止めておいた。


 下手に突っ込んだら面倒な事になりそうですし……。


「所で、体が起こせたという事は子竜が言っていた、エネルギー切れは治まったのだな?」


 マッソーの言葉にリーファは右手を動かし、だるさが無い事を確認した。

 と同時に彼女のお腹がクゥと鳴る。


「あ……」

「ふむ、腹が減ったか……なら食事を持って来てやろう」

「えっ!? マッソーさんが作るんですかッ!?」

「驚く事は無かろう。我は吸血鬼であった時から、筋肉維持の為の食事管理は常に欠かしておらぬ。何せ血液のみでは必要な栄養素が偏るのでな」


 そう言うと元吸血鬼は右腕を曲げ、上腕二頭筋を盛り上げてみせた。


 うぅ、お腹は空いてるけど、この人が作る料理って……あのぷろていんって粉とか振り掛けられてるんじゃあ……。


 リーファは牛の女神、ラフィネリスの社で見た怪しい粉を思い出し、顔を顰めた。


「フフフッ、心配するな。今回は女が気にするカロリーにも考慮し、コカトリスのささみを使ったサラダを作ってやる」

「は、はぁ……」

「では完成まで暫し待つが良い」

「あ……ふぅ……」


 ドスドスと足音を響かせ寝室から出て行ったマッソーにため息を吐きつつ、リーファは周囲に目を向ける。

 ベッドサイドのテーブルにはコップが置かれ、水とスプーンが入れられている。

 どうやら、これを使って自分に水分補給をしていたようだ。

 他には絞ったタオルが置かれていた。汗でも拭いたのだろうか……。


「うーん。変態だけどいい人って、対応に困りますねぇ……」


 その後、リーファはマッソーが作ってきた茹でささみのサラダを食べた。

 濃縮唐辛子(DEATH)ソースが欲しかったが、今回もクライブがポーチを回収したらしく薄味のまま口に運ぶ。

 リーファとしては物足らなかったが、空腹も手伝ってお皿一杯のサラダを完食したのだった。


「うむ、いい食いっぷりであるな。これならもう大丈夫であろう」

「あ、あの、ありがとうございます」

「礼はいらぬ。これはこのコテカを手に入れる事が出来た恩の返還である」


 そう言うとマッソーはコテカを指で弾き、チーンと甲高い金属音を響かせると、白い歯を見せニカッと笑った。


挿絵(By みてみん)


 そんなマッソーにリーファはアハハと乾いた笑いを返すので精一杯だった。



■◇■◇■◇■



 食事を終えたリーファは寝室を出て、隠し部屋のリビングへと向かった。

 リビングは他の迷宮と同じく、豪華な調度が並びフカフカのソファー等、相変わらず快適な部屋の様だった。


 部屋には一緒に寝室を出たマッソーの他、小さなアルマリオスがソファーにチョコンと座っていた。

 リーファはその向かいのソファーに腰かけ、彼に視線を送った。


「リーファ、もう体は大丈夫みたいだね」

「はい……アルマリオスさん、邪神は今後も幹部を送り込んで来るんでしょうか?」

「……多分ね……幹部の残りは後、二人。大魔導士のラムザスと地母神の司祭テレサの筈だから、魔法が主体の戦いになると思う……でも……」


 アルマリオスは言葉を濁し、リビングの片隅、邪神の武具がいつも置かれている場所に目を向けた。


「あ……」


 そこには元は武具だったろう金属の残骸が、無造作に放置されている。


「多分、カイエンが破壊魔法の込められた巻物(スクロール)を使って破壊したんだと思う。巻物の切れ端が落ちていたから……」

「カイエンが……そういえば、彼は?」

「眠ってるよ……リーファ、彼、肉体は人に戻ったけど、精神は……」

「分かっています」


 アルベルトと同様であれば、肉体を魔から人へ戻しても心は邪神に囚われたままの筈だ。

 だが、ローザは武具を限界まで使えば、邪神に逆らえなくなると言っていた。

 邪神の命令というのが精神と肉体の魔族化により行使されているなら、肉体を人に戻せばその影響も抑えられるのではないか。


「可能性は否定出来ないけど……そうそう、あの壊れた武具は盾だったよ」

「盾ですか……壊したのはこれ以上、私達の戦力を上げない為ですか?」

「だろうね……推測だけど、邪神は勇者の魔王化よりも、僕達の排除を優先したんだ。だから魔法を弾く女神の盾(アイギスシールド)を破壊した」

「魔法を弾く……確かにその盾が無いと魔法戦は厳しいですね」


 リーファの仲間、クライブとレナは純粋な戦士では無い。

 クライブは盗賊、レナは弓手だ。

 聖王冠(ホーリークラウン)の重層戦士ゴダックと比べれば遥かに撃たれ弱い彼らの為に、リーファ的には盾はどうしても欲しかった。


「何とかならないでしょうか?」

「うーん、ここまで壊された物を直すとなると……」


 唸り声を上げたアルマリオスに気付き、スクワットしていたマッソーが口を開く。


「防具を、フンッ、直すので、フンッ、あれば、フンッ、我の、フンッ、知り合いに、フンッ、巨人の、フンッ、鍛冶屋が、フンッ、いるが、フンッ」

「巨人の鍛冶屋? っていうか、取り敢えずスクワットは中止して下さいッ」

「フンッ……むぅ、あと少しで今日のノルマを終えれたのに……鍛冶師ロガイド。我のコテカの情報はその巨人から聞いたのだ」

「その人なら邪神の武具も直せるんですか?」

「うむ、巨人は太古の昔、神々とも戦ったと聞く。なれば神の武具の素材があれば、それに匹敵する武具も作れるのではないか?」


 巨人の鍛冶屋……魔王軍の動きを考えればこれ以上、時間を掛けてはいられない。

 いや、既に残り二つの武具の迷宮も既に攻略され、生贄は殺され武具は破壊されているかもしれない。


「その可能性はあるね」


 ……死んだ者はもう戻らない。なら、これ以上、誰も殺されないように……。


「盾を直しましょう」

「……いいんだね?」

「はい……出来れば全ての人を救いたいです。でもそれが叶わないのなら、私の手の届く範囲だけでも……」


 そう言ってリーファは広げた手に目を落し、その手を握りしめた。

お読み頂きありがとうございます。

面白かったらでいいので、ブクマ、評価等いただけると嬉しいです。

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