束の間の休息と焦る勇者
力を使い果たし動けなくなったリーファ。
そのリーファの放った閃光により、魔族化した肉体を抉り取られながら再生させられ、意識を失ったアルベルト。
戦闘不能状態となった二人を抱えクライブと聖王冠の面々、そして元奴隷と現奴隷の少女二人、そして小さな竜王、アルマリオスは転移の兜の力を使い地上へと戻った。
「ともかくアルベルトを休ませねぇと……俺達は一旦ルードネルに戻ろうと思う。この剣の解析もしてもらわねぇとだしな」
ゴダックはそう言って回収した魔剣を掲げてみせた。
「わたしも街に戻るのは賛成だよ」
「そうですね、アルベルトには休息が必要でしょう」
「たしかにそうね」
サフィの膝枕に頭を乗せたアルベルトは、起きる様子も見せず静かに眠り続けている。
ベルサはそんなアルベルトの手を握り、ニーダンスの言葉に頷いた。
パーティの方針が決まった所で、アルベルトの顔に目を落していたサフィが顔を上げクライブに問い掛ける。
「あんた達はどうするんだい?」
「俺達は……」
地下迷宮の入り口、古代デュード人が作った神殿前の広場でクライブは地面に座らせたリーファと、パンを手にパタパタと飛ぶアルマリオスに目を向けた。
「ムグムグ……私は少し休めば動けるようになると思います」
濃縮唐辛子ソースを塗ったパンを、アルマリオスに食べさせてもらいながらリーファはクライブに答える。
「クライブ、この近くにも武具が置かれた迷宮がある、僕らはそこに向かおう」
「迷宮か……その前に少し休憩したいな……そうだな……俺達も一度ルードネルへ戻ろう。迷宮の探索は一晩、宿で休んでからでいいだろ。それにゴダック達に一応、魔法医の居場所も教えないといけねぇし……」
「医者……武具の呪いを解いたっていう魔法医ね……どんな人なの?」
「どんな……」
クライブの脳裏に金の魔力に憑りつかれ、デュフデュフ笑っていた太った男の姿が浮かぶ。
どんなって言われても、正気に戻ったエラリオンとはそれ程、話してねぇからなぁ。
口ごもったクライブに代わり、アルマリオスが魔法医について喋り始める。
「彼は魔法の炎を使って治療や呪いの除去をやってる魔法医だよ」
「魔法の炎……炎で治療なんて聞いた事が無いわ」
「まぁ、彼、すこし特殊だから」
「気になるわねぇ……」
「そんなに気になるなら、ベルサ、お前がクライブと一緒に医者の所へ行きゃあいい。剣の解析は魔法大学に頼む予定だし、丁度いいだろ」
「……たしかにそうね」
自分達の魔法が正道であると考える魔法大学。
かつて出会ったその魔法大学出の魔法使い達の事を思い出したベルサは、ゴダックの提案に頷きを返した。
「それじゃ、ともかく一旦、ルードネルへ帰りましょうか? あんた達もそれでいいね?」
サフィは二人の少女、レナとエリナに視線を向け問い掛ける。
「はい、構いません……あの、もどったらアルベルト様のお世話をさせて頂いても良いですか?」
「あ、ずるい! エレナもお世話するッ!」
「別にいいけど、一番は私だから」
「サフィ、膝枕を譲っているのだから、アルベルトの世話は私が……」
「あんたはそこの盗賊と魔法医の所に行くんだろッ!?」
いつもの恋のさや当てが始まった事で、ゴダックはやれやれとため息を吐き、ニーダンスは静かに首を振った。
「勇者様は眠っててもモテモテだな……ゴダック、あんたも苦労するな」
「アルベルトがどっちも選ばねぇから、パーティが何とか持ってるのさ」
「それが正解だぜ。惚れた腫れたで解散したパーティは山ほどあるからな……さてと、んじゃ帰るか」
そうして、リーファ達は一旦、休息する為、学園都市ルードネルへと転移したのだった。
■◇■◇■◇■
ルードネルへと戻ったクライブ達は、まだ日も落ちていなかった事もあり、クライブはベルサと共に不死鳥エラリオンの下へ向かい、ゴダックとニーダンスは魔剣を携え魔法大学へと向かった。
ホテルニュービッグバリーのスイートルームの寝室に残されたリーファは、ベッドに横になりだるい体を休めつつ、アルマリオスに次に向かう迷宮について話を聞いていた。
「次はどんな迷宮なんですか?」
「次の迷宮はローガス平原に点在する湿地帯に住む、リザードマンが大昔に作った神殿だよ」
「湿地帯……リザードマン……何となくですが、泥まみれになりそうですねぇ」
「迷宮は巨木の中に作られているから、泥にまみれる事は無いと思うよ」
「巨木ですか?」
「うん、リザードマンは世界樹って呼んでるね」
世界樹、確か天を支える巨大な木だったっけ……確か、根は冥界に繋がってるとか何とか……。
「あったね、そんな伝説も。大丈夫、ただ単に大きい木ってだけだから。敵は植物だけに昆虫系と植物系が多いよ」
「昆虫系ですか……私、虫は苦手なんですよね……」
「冒険者が何言ってるんだ」
「そんな事言われても……アルマリオスさんだって、何か苦手な物はあるでしょう?」
「苦手ねぇ……」
パタパタとリーファの上を飛びながら、アルマリオスは顎に手を当てて暫く考えた。
「そうだなぁ……しいて上げるなら、小骨の多い魚は苦手かな」
「そういう苦手じゃないです」
「放せサフィッ!!」
「駄目だよアルベルト、まだ寝て無きゃ……キャッ!?」
リーファとアルマリオスの話が脱線しかけた時、部屋の外からアルベルトとサフィの声が聞こえて来た。
「サフィさん!? アルベルト様、落ち着いて下さい! お姉ちゃんは呪いの解かれた武具しか持ってないですッ!!」
「分かるものかッ!! いいから退けッ!!」
「わっ!?」
「大丈夫、レナ!?」
レナとアルベルト、そしてエレナの声が聞こえ、次の瞬間には寝室のドアが乱暴に開かれる。
「リーファ・ブラッドッ!! 呪いの解けていない聖者の衣を寄越せッ!!」
アルベルトは怒りに顔を歪め、動けないリーファに詰め寄った。
「レナさんの言った通り、そんな物は持っていません」
「嘘を言うなッ!!」
アルベルトは布団を剥ぎ取り、動けないリーファの胸倉をつかみ無理矢理引き起こすと、怒りと焦りに満ちた目を向けた。
普通の人間なら怯えるだろう鬼気迫ったアルベルトの顔を見ても、リーファは特に恐怖は感じなかった。
恐らく死線を潜り抜けた事でそれなりに度胸が付いたようだ。
「嘘もなにも、本当に持っていません。大体、そんな危ない物、着なくていいじゃないですか」
「…………そうか、お前は気付いていないのか」
アルベルトはリーファの態度から、何も知らないのだと悟ると掴んでいた手を放し、小さく呟き背を向ける。
「ん? なんの事です?」
「なんでもない! とにかく僕はッ!!」
「アルベルト、少しは休まないと駄目だよ!」
「そうです。迷宮でずっと戦っていたのでしょう!?」
「勇者様、顔色も悪いし、二人の言う通りにしたほうが……」
アルベルトを追って部屋に駆け込んで来たサフィ達がアルベルトを囲み、次々と声を掛けた。
「休んでなんかいられない。僕はもっと強くならなければ……」
"リーファ、右手をアルベルトに向けて"
えっ、何する気ですか?
"いいから早くッ!"
うぅ、超だるいんですけど……。
心の中でボヤキながらリーファが重い右手を持ち上げると、アルマリオスはすぐさま詠唱を始める。
「アルマリオスの魔力を以って、勇者アルベルトに安らかなる眠りを、睡眠」
「グッ……!?」
すぐにでも行動しようと考えていたアルベルトだったが、アルマリオスがリーファを介して掛けた眠りの魔法によって床に崩れ落ちた。
「アルベルトッ!? 何するんだい、このチビ竜!?」
「そうですよ。いきなり眠らせるなんて乱暴ですよ、アルマリオスさん」
「仕方が無いじゃないか、体の魔族化は何とか出来たみたいだけど、思考の方は呪われたままみたいだし……」
「うーん、剣の解析が上手くいけばいいんですが……」
ベッドの上、サフィが抱き止めたアルベルトに視線を向け、リーファは深いため息を吐いた。
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