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力への渇望

 魔王軍の幹部、迅雷のローザを何とか打倒したリーファ達は、目的地であるアルベルトのいる地下三十階へと辿り着いていた。

 その地下三十階、街を模したその階層には至る所に魔物の死体が転がっていた。

 鋭い刃物で叩き切られたモノ、鋭利な何かで串刺しにされたモノ、巨大な鈍器で押し潰されたモノ。

 ありとあらゆる武器で打倒された魔物の群れ。


「この階層の魔物を全部殺したのか?」

「血の臭いでクラクラします……」

「アルベルト一人でこの数を……信じられん……」

「この様子じゃ、アルベルトは聖者の衣を使いこなしているようだね」


 リーファ達がその異様な光景に戸惑っていると、ガシュッという音と共に無数の触手を生やした赤黒い甲冑の騎士が現れた。

 思わず身構えるリーファ達に聞き覚えのある声が響く。


「ゴダック? もしかして僕を助けにきたのか?」


 兜の奥から聞こえたくぐもった声は、確かに自分達のリーダー、アルベルトのモノだった。


「アルベルトッ、その姿はッ!?」

「ああ、これか。これが聖者の衣の本当の姿さ。僕の意思を反映して形を変えて魔物を狩る」

「……アルベルト、一旦帰りましょう」

「帰る? どうして? この奥にはまだまだ強力な魔物の気配を感じるし、それを倒せば僕はもっと力を得る事が出来る」

「その鎧を着て戦い続ければ、体は魔族のものになってしまいますよ」


 リーファがそう言うと、アルベルトは兜の奥に覗く目を細めた。


「……リーファ・ブラッド。君はまだ僕の前をウロチョロする気か?」

「はい、私はあなたの事も助けたいので」

「助けたい? 助けなんていらないさ。周りを見てみたまえ、これだけの魔物を僕は一人で屠れる。それに感じるんだ、戦う程に強くなっている、その実感をッ!!」

「アルベルト、そりゃ嬢ちゃんが言う様に体が魔族になってるからだ。取り返しがつかなくなる前に一度戻って医者に……」


 ゴダックがアルベルトに歩み寄りながら声を掛ける前で、勇者は赤黒い甲冑に覆われた右手を持ち上げ、籠手を解除してみせた。


「その手はッ!?」

「もう遅いんだ。ゴダック」


 アルベルトの右手は黒く固い毛に覆われ、指先には鋭く尖った黒い爪が生えていた。


挿絵(By みてみん)


「何の見返りも無しに力が得られるとは思っていない。でもいいじゃないか。この力で魔王を倒せれば」

「魔王と邪神を倒すのはあなたではなく、私です」

「君が? 勇者である僕を差し置いて?」

「はい、あなたには唯の人間として最後まで生きて貰います。そして私が魔王と邪神を倒すのを後ろで眺めていればいい」


 その言葉を聞いたアルベルトは兜の中で目を見開き、リーファを睨みつけた。


「駆け出しが少し力を得たぐらいで言うじゃないか」


 ウネウネと甲冑から生えた触手が蠢き、アルベルトが纏うオーラがどす黒く変わっていく。


「アルベルト様ッ、もう止めて下さいッ!!」

「そうだよ。それじゃあ勇者じゃなくて悪魔だよ!!」


 元奴隷の少女、レナと現奴隷の少女、エリナが飛び出しアルベルトに向かって叫ぶ。


「子供は引っ込んでいろ……これは僕とリーファ・ブラッドの問題だ」

「ヒッ」


 兜から覗く瞳は金色に輝き、その瞳孔は縦に長く裂けていた。

 そんな人の物では無い瞳にエリナは思わず悲鳴を上げる。


「引っ込んでいません!! レナはアルベルト様に人でいて欲しいからッ!!」

「そうよ、アルベルトッ!! 魔族になって魔王を倒しても人は受け入れてはくれないわッ!!」

「そんな事はどうでもいいッ!! 僕は力を得て魔王を倒し世界最強になるッ!! 立ちふさがるというなら、君達も排除するまでだッ!!」


 アルベルトが湧き上がる力への渇望を爆発させた事で、聖者の衣が作り出した触手が反応し、リーファ達に襲い掛かる。


「クソッ!! まさか自分のパーティーの大将とやる事になるとはッ!!」


 ゴダックは叫びながらオーラの盾を展開、襲い来る刃の触手からレナ達を守った。


「ベルサ、ニーダンス、ガキ共を連れて下がれ!!」

「分かったわ。レナ、こっちにいらっしゃい」

「でも……」

「ここでは戦士たちの邪魔になります」


 ニーダンスは渋るレナを抱え、使うのを躊躇っていた転移を発動し、アルベルトから距離を取った。

 ベルサもエリナと共に転移を行い、暴れる触手から離れる。

 小さなアルマリオスも彼らを追って後方へと下がった。


「ゴダック、邪魔するなら君も消すよ」

「正気に戻れよアルベルトッ!!」

「僕は正気だ」


 ギィイイインという不快な金属音が迷宮に鳴り響き、異形の騎士は触手を暴れされながら、盾を構えた重戦士に迫る。

 その背後に黒髪と青髪の盗賊が現れ、聖剣を使い伸びた触手を切り払う。

 切り払われた触手は、モゾモゾと暫く動いていたが、やがて動きを止めた。


「サフィ、君も僕の邪魔をするのか?」

「ねぇ、帰りましょうよ、アルベルト。お嬢ちゃんが言うには腕のいい医者がいて、きっとあんたのその手だって」

「だから治す必要なんてないって言ってるだろッ!」


 苛立ちのままにサフィに振るわれた魔剣を、間に入ったクライブが受け止める。


「……おかしいな。君、そんなに強く無かった筈……」


 話しながら伸びた触手を、クライブも鎧を変化させ刃を作り受け止めた。


「へへ、俺も色々やってるからよぉ」


 鍔迫り合いになっているクライブ達をゴダックの後ろで見守りながら、リーファは心の中でアルマリオスに問い掛ける。


 アルマリオスさん、なんとかアルベルトを止めたいんですが、何か手はないでしょうか?


"うーん……肉体の魔族化……聖属性の闘気を使えば魔族化した部分だけを排除できるかもしれない"


 聖属性の闘気って……私、そんなの使えないですよ。


"君、いつも使ってるじゃないか、息吹(ブレス)の力をさぁ"


 ……アレって聖属性だったんですか?


"まぁね……浸食の度合いによってはアルベルトは死ぬかもしれない"


 一緒にアルマリオスさんが治癒魔法を使えば、何とかなりませんか?


"シビアな事を要求するなぁ……でもまぁ、その方法はありかも"


 決まりですね。


「ゴダックさん、今から私が息吹(ブレス)を使ってアルベルトを何とかします。ですのでゴダックさんは二人を弾き飛ばして下さい」

「二人って、クライブもかッ!?」

「はい、クライブさんならきっと大丈夫な筈」


 リーファは守護竜と戦った時のクライブの身のこなしを思い浮かべながら、ゴダックに深く頷きを返した。

お読み頂きありがとうございます。

面白かったらでいいので、ブクマ、評価等いただけると嬉しいです。

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