想いは変わる事なく
クライブ達に両足を断たれ、奥の手の影分身もリーファによって吹き飛ばされ、胸を聖剣で貫かれたローザは観念したのか、自分とルザムについて駆け寄った一行に語り始めた。
転移の兜の使用者の状態を伝播させる呪いの力によって、ローザの精神は力を求め、肉体は魔族へと変質していた。
だが、それでもローザのルザムに対する想いは変わる事は無かった。
それはルザムも同様で、彼は心を魔に支配され、力を求め、力のみが全てだと変わらされても、平和への憧れは心の中でくすぶり続けていた。
邪神の命令にしたがい人の街を焼く。
それを部下に命令、もしくは自らの魔法で行う時、ルザムは酷く興奮し高揚していた。
だが、その興奮が去った後、やって来るのは人々の平穏を壊した事への後悔と罪悪感だった。
『ねぇ知ってる? 邪神の武具って……限界まで使うと……奴の命令には逆らえなくなるのよ』
「だからあなたも命令に従い、アルベルトを攫った?」
『ええ、あの子は逸材よ……邪神ヴェル―ドの……思惑を超えて……魔界にいる奴を……討てるほどに』
「邪神を討つ!? そんな事が可能なのッ!?」
思わず声を上げたベルサに、ローザはフフッと笑いを洩らす。
『もう、余り持たないだろうから…………あたしの計画を全部話すわ…………お嬢ちゃんみたいな……規格外を除けば……魔王に勝てるのは……魔王化した勇者だけなの…………当然よね……魔王は……ルザムは勇者としての……力に加え……魔王としての力も……備えてる……そんな怪物に勝てるのは……同じく怪物だけよ……』
ローザは続けて、魔王の力は代を重ねるごとに上がっていると話した。
魔王化した勇者を倒し、新たな魔王が生まれるのだ。新しいほど強くなるのは当たり前の事だ。
そうして代を重ねる内、邪神ヴェル―ドに迫る力を持った魔王が生まれた。
それが放浪騎士、ルザムだ。
しかしルザムは武具の呪いによって、邪神の命令には背けない。
苦しみながら邪神の言葉を実行する他ない。
『だから……あたしは今代の……勇者に賭けた……聖者の衣で……限界ギリギリまで…………あの子の肉体を強化して…………あたし達……魔王軍もろとも……邪神を滅ぼして……もらおうって……』
「それでもし、アルベルトが限界を超えちまったら……」
クライブの言葉にローザはカタカタと骨を鳴らした。
『そうならない様に…………彼に与えた聖剣には…………仕掛けを……してあるわ……限界まで力を得たら…………心が解放される様に……』
「そんな事、出来る筈が……」
邪神の武具の呪い、それには高度な呪術が用いられている。
地上に住む神の力でその呪術を根こそぎ祓う事は可能だ。
しかし書き換えるのは、刺繍の様に複雑に絡み合っている糸をほどき、新たに模様を作る様なものだ。
思わずつぶやいたアルマリオスに、ローザはクスクスと笑う。
『普通は出来ないで……しょうね……ヴェル―ドの目を盗んで…………術式を書き換える……なんて……でも私達には……大魔導士……ラムザスがいた…………リッチになった彼に……頼んで……聖剣の術式を解析して…………こっそり私達の……都合のいい様に……書き換えて…………貰ったわ』
「黙って聞いてりゃ、それじゃあ、アルベルトは完全に道具じゃないかッ!?」
サフィは苛立ち声を荒げた。
その通りだとローザは思う。武具の影響で力を求める気持ちはあっても、その根底には人だった頃の意識がくすぶっている。
だから邪神の非道な命令に従う事は、歓びであり苦痛だった。
それから逃れる為に、アルベルトを攫い魔王化せよという命令に乗って、ずっと温めてきた計画を発動させた。
そうしている間もローザの体は少しずつ崩壊していく。
『あなたの言う通り…………あたしは……あたし達の為に……勇者を道具にしたわ…………でもそれで邪神……ヴェル―ドも含めて……全部……終わらせられるなら…………人族全体から……見れば……良くない?』
「なっ!?」
絶句するサフィの横でゴダック達は押し黙る。
魔王を手先として地上の支配を目論む邪神ヴェル―ド。
アルベルトが魔王としての力を手に入れ、魔王のみならずヴェル―ドまで倒せたなら、人類は魔族の脅威から永遠に解放される。
遠い過去の英雄達が行って来た魔王討伐による仮初の平和。
そんな数百年の平和ではなく永遠の平和が手に入るかもしれない。
ゴダック、ベルサ、ニーダンスの三人は一瞬とはいえ、そんな考えを脳裏に巡らせた。
だが少女の声がそれに異を唱える。
「よくありませんッ!!」
『どうして? ……魔族による…………魔界からの……侵攻は……邪神の手に……よるものよ…………その根源を……断てるなら……』
「気持ち良くないからですッ!! 私は誰かの犠牲の上に成り立つ世界で生きたくありませんッ!! アルベルトだって、この世界の一員で、きっと幸せに暮らしたい筈なんですッ!! でも魔族の体になってしまったら、普通の生活は送れなくなるッ!!」
「リーファ……」
クライブは自分が身に付けた聖者の鎧をチラリと目を落し、思わず少女の名を呟いた。
『じゃあ……どうする……の?』
「取り敢えず、アルベルトから武具を引き剥がして、彼をお医者様の所に連れて行きますッ!! あと、魔王と邪神は私が必ず倒してみせますッ!!」
フンッと鼻を鳴らし、リーファは拳を握りしめた。
『……あたしの一張羅を……斬った……あなたなら、出来るかも…………しれない……わね……』
「ええ、必ずやってみせますよ」
『そう…………じゃあ…………がんばり……』
なさい。そう言葉を紡ぐ前に金髪のスケルトンは崩れ落ち、赤いマフラーと白いマイクロビキニの下だけを残しこの世界を去った。
その瞬間、リーファの目にはスケルトンの肉体から金髪の美しい女性が抜け出し、天井から降り注ぐ光の中に消えて行くのが見えた。
「……言われなくても頑張りますよ……」
光を見上げ小さく呟く。
「……みんな、行きましょう。アルベルトを助けないと」
かつての英雄、ローザの魂を見送ったリーファは仲間達を振り返り声を掛ける。
「……そうね」
その声に茫然としていたベルサが反応すると、その後、次々と声が上がる。
「フンッ、あんたが仕切るんじゃないわよ」
「そうだよッ! 勇者様を助けるのはエリナなんだからッ!」
「わ、わたしもアルベルト様を助けたいです!ッ」
「魔王だけじゃなくて、邪神までか……こいつは骨が折れそうだ」
「邪神の討伐は善なる神々の悲願、神の僕としてこれ程の試練はないですね」
「フフッ、邪神の討伐かぁ……なんだか楽しくなってきたね……」
にわかに活気付く一行の中、クライブだけは自分の掌を見つめボンヤリとしていた。
「クライブさん、なにボーっとしてるんですかッ!?」
「あ、ああ……なぁ、リーファ、俺がもし……」
「もし?」
「いや、何でもねぇ。さっさと勇者様を助けるとしようぜ」
「? 変な人ですねぇ」
小首を傾げるリーファに苦笑を返し、クライブは迷宮の地下三十階へつながる階段へと足を向けた。
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