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変わる勇者と迅雷のローザ

 果たしてどれぐらい戦っているのだろう。

 まだ半日程の気もするし、十日以上、魔物を斬り伏せているような気もする。

 戦い疲れ気を失っても、あの金髪のスケルトンが飲ませる薬で無理矢理覚醒させられ、休む事を許してくれない。


 だが戦わなければ、自分は魔物の餌食になってしまう。

 嫌だッ!! 僕は勇者なんだッ!! どうあってもここを生き延びて、迅雷のローザの手を逃れて仲間の下に……。

 その為には力がいるッ!! そうだ、力さえあれば襲い来る魔物を全て薙ぎ払い、かつての英雄、ローザだって屠る事が出来る。

 力だッ!! 力を寄越せ化け物共ッ!!


 変わっていく自身の心について、不眠不休の戦いにより朦朧としたアルベルトの意識は抵抗する事が出来なかった。

 全ては力さえあれば解決出来る。そう考え、それを得る為に剣を振るい魔物の血を浴びる。


「もっとだ……もっと力を寄越せッ!! 全てを蹂躙する無敵の力をッ!!!!」


 アルベルトの叫びに合わせ、纏っていた聖者の衣は形を変え、より禍々(まがまが)しく、ただ敵を打倒す為だけの姿に変わっていく。


『あら素敵……まるで異界の悪魔みたい』


 そんなアルベルトを迷宮に作られた建物の屋根の上で金髪のスケルトンが見下ろしていた。

 彼女の視線の先、アルベルトが纏う白く眩かった甲冑は、乾いた魔物の血で赤黒く染まり、刃の付いた無数の触手を伸ばしていた。

 ウネウネと蠢く触手が閃くたび、周囲の魔物の断末魔が響く。


挿絵(By みてみん)


「ハハ、ハハハ、ハハハハハッ!! そうだッ!! 力に善も悪も無いッ!! 要は魔王を倒せばいいだけだッ!! 暴れろ聖者の衣よッ!!」


 聖者の衣による呪いで、アルベルトの体は魔族に変わりつつあった。

 その事で膨れ上がったアルベルトの魔力を吸い。微小ゴーレムは自己を増殖、更なるペースでアルベルトの肉体を魔なる者へと変えていく。


 触手は迷宮内を駆け巡り、階層にいた魔物をことごとく打ち滅ぼしその血を啜り、更に自らを成長させる。


「ギャギャギャッ!!」

「邪魔だッ!!」


 刃の触手を切り抜けた蝙蝠の羽根を持つ魔物を、アルベルトは魔剣を使い一太刀で切り捨てた。


『あら、お客さんかしら……』


 魔王軍の幹部、迅雷のローザは戦い変化を続けるアルベルトにチラリと目をやると、満足気に頷き、感じた気配を確認すべく上層へ向かう階段へとその身を躍らせた。



■◇■◇■◇■



『ここから先には行かせんッ!! グガッ!?』

「悪い、急いでるもんでな」


 行くてを塞いだスケルトン忍者の胸を、背後からクライブの持った聖剣が貫く。

 デュード人の地下迷宮、地下百階にもなる巨大迷宮には元々いただろう魔物の他に、忍び装束を纏った骨の忍者が無数に徘徊していた。

 恐らくローザの部下だろうその忍者を、リーファ達はことごとく蹴散らした。


 その要因はやはり転移の兜(シフトオブヘルム)の力が大きい。

 迷宮の様な魔素の濃い場所では、その力は無制限に使用できる。

 また、女神ガーネットの血で清められた聖剣ロクニオスは、不死の忍びを安息の眠りに一撃で導いた。

 兜と聖剣、二つの力が相まってリーファ達は、ローザの配下である不死忍団にとって天敵となっていた。


 そうして探索を続けアルベルトがいるだろう地下三十階まで、あとわずか、地下二十九階を探索し下へ向かう階段を見つけたリーファ達の前に、金髪に赤いマフラーでマイクロビキニのスケルトンが立ちふさがる。


『ここまで来たって事は、部下達じゃあなた達を止められなかったって訳ね……所であなた達、よくここが分かったわねぇ』

「そんな事はどうでもいいッ!! 迅雷のローザ、アルベルトは返してもらうよッ!!」


 青髪の盗賊サフィが声を上げると、ローザは楽しそうにクスクスと笑った。


『そういう訳にはいかないわ。彼にはもっと強くなってもらうために、この迷宮の最下層まで潜って貰うつもりだから』

「最下層って地下百階まで!?」

「んな事させねぇよ。行くぞ、お前らッ!!」

「おうッ!!」

「みんな、作戦通りにッ!!」

「了解ですッ!!」


 先陣を切ってゴダックが闘気の盾を展開し、ローザに迫る。

 それに呼応してサフィとクライブは左右に、リーファはゴダックの後ろに、ベルサとニーダンスはそれぞれ、レナとその肩に乗ったアルマリオス、それにエレナを連れて、ローザから距離を取った。


 一番厄介な影縛り、それを受けない為に、ゴダックは愛用の大楯でローザの視線を遮りながら白い骨の体に聖剣を突き出す。

 ローザは危うげなくその一撃を飛んで躱すと、ゴダックに向けて手品師の様に右手に出現させた玉を投げつけた。

 オーラの盾にぶつかった白い玉は、爆発して周囲に黒煙を発生させる。


「こいつは煙幕かッ!?」

「任せてッ!! 魔女ベルサが命じる、風の乙女シルフよ、全てを吹き飛ばす暴風を、ワールウィンドッ!!」


 ベルサが杖を翳すとコダックの周囲に風が渦巻き、ローザが作り出した黒煙を吸い上げ吹き飛ばす。

 その風が止んだと同時にベルサの脇に控えていたレナが手にした弓で、ゴダックから距離を取っていたローザに矢を射かけた。


『あら、あなた達、別に仲間って訳じゃ無かったわよねぇ?』


 レナの放った矢を躱しながら、ローザは首を捻った。

 その捻った首に転移したサフィが斬撃を浴びせる。


『わぁ、危ない』


 背後から振るわれた斬撃をローザは前屈して躱し、そのまま倒立してサフィの顎を蹴り上げた。


「クッ!!」


 サフィは咄嗟に反応し、バク転する事で蹴りの衝撃を逃がす。


「転移攻撃を躱すなんて、この骨、無茶苦茶よ」

「こいつが強い事は想定の内だ。俺たちゃただ隙を見つけて攻撃すりゃいい」


 サフィの横に並んだクライブが、口早に囁く。


「分かってるよ……二人で仕掛けるよッ!!」

「おうッ!」


 地下を進みながら実戦の中でリーファ達はコンビネーションを確立して来た。

 時間としては短いが、濃厚な命のやり取りはパーティの呼吸を合わせるには十分であった。


「ベルサ!! ニーダンスッ!! サフィ達にサポートをッ!!」

「了解ですッ!! 全ての神の長である偉大なる至高神ゼファルよ、悪しき邪神の下僕に捌きをッ!!」

「魔女ベルサの魔力を以って、彼の者の視界を奪え、暗闇(ダークネス)!!」


 ニーダンスの放った衝撃波がローザを襲い、それ躱した直後、真っ黒な霧が金髪のスケルトンに纏わり付く。


『やだぁ、何も見えないじゃないッ! な~んてねッ!』


 タイミングを合わせて振るわれた、クライブとサフィの斬撃をローザは苦も無く飛んで躱し、二人にクナイを投擲する。


「クソッ、目は見えない筈だろッ!?」


 投げられたクナイを聖剣で叩き落し、サフィが苛立ちの声を上げた。


『見えなくても聞こえているからねぇ』

「じゃあ、これならどうよッ!! 風の精霊シルフよ、ライラの子、エレナが願う、彼の者の周囲の音を消し去ってッ、静寂(サイレンス)ッ!!」


 エレナの願いを従えた風の乙女は聞き入れ、ローザの周囲から一切の音が消えた。

 それでもローザは気配からクライブ達の動きを読み、斬撃を躱して行く。

 そんなローザにゴダックはオーラの盾を前面に展開し、線では無く面の打撃で闘牛の様にローザに迫った。


『そんな直線的な攻撃当たる訳ないでしょ? えっ!?』


 後ろに飛び、クライブ達を飛び越え打撃を躱したローザの体に、予想外の衝撃が走る。

 気配を探れば、前にいた筈のゴダックの気配は消え、いつの間にか後ろに回られていた。


『くッ、転移の兜ねッ!』


 跳ね飛ばされたローザは迷宮の床を転がりながら衝撃を逃がし、その勢いのまま跳ね起きる。

 そのローザに別の気配が迫った。

 振るわれた斬撃を紙一重で躱すも、相手は振り抜いた刃を一瞬で引き戻しローザに突きを放つ。

 気配は小さく、恐らく黒髪の盗賊と一緒にいた竜王と契約した少女だと思われた。


 あの時はそんな脅威は感じなかったのに!?


 驚きながら突きを躱すが、気配は素早く剣を引き戻し再度突きを放った。

 その突きはローザの(あばら)を翳め、着ていたマイクロビキニを切り裂く。


『あたしの一張羅がッ!?』


 思わず距離を取ったローザの両足を衝撃が襲った。


『グッ!?』

「よくやったリーファッ!! へへッ、ようやく当たったぜ」

「ふぅ、手こずらせてくれたねぇ」


 視界を覆った霞が消え、音が戻った時には黒髪と青髪の盗賊二人が笑みを浮かべているのが見えた。

 両足は脛の中程で断ち切られている。

 それでもローザは両手で地面を叩き、二人の盗賊から距離を取った。


『まさか、勇者抜きのあなた達にこんなに苦戦するなんて』

「まだやるつもりか?」

『当然でしょ? 臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前ッ!!』


 ローザは両手を複雑に動かしながら、呪文の様な言葉を唱えた。

 すると足を失った彼女の周囲に、無数の金髪スケルトンが現れる。その数は百を超えていた。


「分身ッ!?」

『フフ、不死忍軍ってね、元々はあたし一人だったのよ。でも最初から不死忍軍だった。これがその理由よッ!!』


 ローザの叫びと共に、現れた百を超えるローザが一斉にクライブとサフィに襲い掛かる。


「チッ、やるしかねぇ!!」

「あの数は無理よッ!!」


「すぅううう……吹き飛べッ!!!!」


 閃光が駆け抜け、薄暗い迷宮を眩い光が真っ白に染め、周囲に爆音が鳴り響く。

 その光が消え、迷宮が静寂を取り戻した後には、ローザの分身は全て吹き飛ばされて壁に叩きつけられていた。

 術が解けたのか、その分身たちは霞む様に消えて行く。


『そんな馬鹿な……カハッ!?』


 驚き隙を見せたローザの懐に、銀の甲冑を纏った小柄な影が突然現れる。

 影はローザの体にぶつかる様に、手にした刃を彼女の胸に突き立てていた。


「終わりです」


 そう言って角の生えた栗色の髪の少女は、手にした剣を捻り胸骨を砕いて刃を引き抜いた。

 聖剣により浄化された金髪のスケルトンは、全身から淡い光を放ちながら少しづつ崩れ始める。


『……ガフッ……守護竜って大して強くないから……舐めてたわ……あの時、始末しておけばよかった……』

「……あの、どうしてアルベルトを攫ってまで、魔王にしようと思ったんですか?」

『どうしてって……邪神から……ルザムに……そう命令が来たからよ』

「あなたは最初に会った時、そのルザムが引退出来ないって言ってました」

『……よく覚えているわね……命令が来たのは本当……でもあたしは……ルザムに魔王を辞めさせたいって……クッ……ずっと思ってた』


 ローザはそう言ってカタカタと骨を揺らし笑った。

お読み頂きありがとうございます。

面白かったらでいいので、ブクマ、評価等いただけると嬉しいです。

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[良い点] これは…ぽろりなのか…?
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