二人の少女と森の神殿
ホテルニュービッグバリーのスイートルーム。リーファ達が寝室に向かうとベッドにいたレナがむっくりと体を起こした。
「起きて大丈夫なのか?」
「はい、ずっと寝かされてて、これ以上は眠れません……あの、それでアルベルト様は……?」
「アルベルトは南、リデノ山脈を超えた先の迷宮にいる事が分かりました。私達はこれから街で準備を整えて、リデノ山脈を超えて迷宮に向かう予定です」
ベッド脇、クライブと二人、並んで椅子に座ってリーファはレナに予定を説明する。
「あの、その迷宮、私も連れて行ってもらえませんか?」
「お前は病み上がりだろう? 傷は治っても、失った血は戻ってねぇだろ?」
「レナは獣人です! 人間よりも凄く回復が早いんですッ!」
レナはそう言うとベッドから起き出し、その場でぴょんぴょんと飛び跳ねてみせた。
ジャンプの高さは天蓋付きベッドの天蓋を超える程で、着地にもふらついた様子は見えない。
「……どうする、リーファ?」
「……レナさん、どうしても付いて来たいのですか?」
「はい、エレナちゃんにあの後、何が起きたか話を聞きました。魔王軍の幹部がアルベルト様を攫ったんですよね?」
リーファはレナに静かに頷きを返した。
「アルマリオスちゃんはレナ達を生贄にする事も、邪神が人の心に漬け込む為の手段の一つだろうって言ってました」
「確かに言ったね」
「だったら、私が元気だよってアルベルト様に見せれば、気持ちがいい方向に向くんじゃないですか?」
「……確かにレナを斬った事をアルベルトは必死に正当化しようとしてた……君が回復した姿を見せて彼のした事を許せば……」
アルマリオスの呟きを聞きながら、リーファはアルベルトの状況を考える。
彼はローザの手によって迷宮に放り込まれ、今現在も魔物と戦っているという。
彼が手にした魔剣でそれを行っているなら、心に魔を宿し始めているかもしれない。
そんな彼とレナが会うのは、彼女にとって辛い結末になるのではないか。
「レナさん、アルベルトは恐らく今も魔剣を振るい魔物と戦っています。もしかしたら、あなたの知るアルベルトではなくなっているかもしれませんよ」
「それでもいいッ!! もし変わってしまっていたら、不死鳥さんに治して貰えばいいじゃないですかッ!!」
「レナ、不死鳥の浄化の炎でも汚染された魂までは戻せるか……」
「うぅ……ならレナが世界中、旅してでも治療法を見つけますッ!!」
目に一杯涙を溜めて叫ぶレナの姿に、リーファは止めるのは無理だと思うと同時に、そんな風に想える誰かがいる彼女を少し羨ましく感じた。
自分はどうだろう……例えばクライブさんが……って、なんでクライブさんを例に出してるんですかッ!?
わ、私は別にクライブさんの事は好きでも何でも……ただ、大事な初めての仲間というだけで……。
心の中で言い訳しつつ、リーファがクライブに目をやると、彼は優しく微笑みながらレナに視線を向けていた。
その横顔を見たリーファは思わず見惚れ、ハッとして目を反らした。
「そこまでの覚悟があるならいいだろう。リーファ、レナも連れて行こう……リーファ?」
「は、はいッ!?」
「お前、話、聞いてたか?」
「き、聞いてましたよッ! レナさんを連れて行くんですよねッ!?」
「……聞いてたならいいか」
「話は聞かせてもらったよッ!! そういう事ならあたしも連れてって頂戴ッ!!」
寝室のドアを押し開けたエリナが腕組みをしてフンスッと鼻を鳴らす。
「お前は留守番してた方がいいぜ」
「なんでよッ!? あたしだって勇者様の奴隷だよッ!! レナが良くてあたしが駄目って事はないだろッ!!」
エレナはクライブに駆け寄り、不満顔で顔を突き出す。
クライブはその突き出された顔に素早く手を伸ばし、彼女の鼻をふにっと摘まんだ。
「ふがッ!? な、なにするのさッ!?」
「今から俺達が向かうのは魔物の徘徊する迷宮だぜ。この程度が躱せないんじゃ連れて行く訳にはいかねぇな」
「あんた、盗賊だろッ!? あたしは魔法が主体なんだッ、素早さじゃ負けても遠距離戦じゃ負けないよッ!!」
鼻声で手を振り上げ喚くエレナに苦笑を浮かべ、クライブはリーファを見る。
「……はぁ……連れて行きましょう。この様子では駄目だと言ってもついて来そうですし」
リーファの答えを聞いたクライブは、やっぱりそうなるかとエレナの鼻から手を放し肩を竦めた。
■◇■◇■◇■
「俺たちゃ、ガキ共は置いていくつもりだったんだが……」
飛竜となったリーファが抱えた箱の中、相変わらず箱を支えるロープを握り締めながらゴダックがぼやく。
「すいません。でもレナさんの言う事も一理あると思うんです」
「自分が傷付けた子が自分を許す事で救われる……確かにあるかもしれないわねぇ」
「相手を許す事は神の教義にも適う行いです。魔に染まり、力の信奉者となっているかもしれないアルベルトにとって、それは救済になり得るかもしれませんね」
寝室でのやり取りの後、買い出しを終えたリーファ達は、聖王冠と合流し、一旦レナ達を連れて転移でラフィネリスの社へと飛んだ。
社ではゴダックがラフィネリスにギルドへの報告と対処を依頼した事を伝えていた。
そして現在、第三形態、飛竜となったリーファが放置していた箱を抱え南、リデノ山脈を越えてその裾野にあるという古代デュード人の迷宮へと向かっている。
「凄い凄い、ホントに空を飛んでるよッ!!」
「エリナちゃん、あんまりはしゃぐと危ないよ」
「レナの言う通りだよ。落っこちたくなきゃじっとしてな……はぁ……これじゃまるで教会学校のシスターだよ」
リーファの背にはエリナ、レナ、サフィ、それにクライブとアルマリオスが乗っていた。
「ハハ、あんたがシスターか、それなら悪ガキも言う事聞きそうだな」
「確かに指導が厳しそうだね」
「クライブ、アルマリオス、あんた達にもその指導って奴をしてやろうか?」
振り返りクライブとアルマリオスを睨むサフィに、一人と一匹は両手を上げてまぁまぁと宥めた。
そんな、一行を乗せてリーファはリデノ山脈の頂きを超えて、大陸最南端、ローガス平原という大陸有数の穀倉地帯を抱える国、テラン帝国へと入った。
「……広いですね……」
「テラン帝国は大陸でも一二を争う農業国だからな。その農作物の生産を支えているのが、山脈からの雪解け水と広大な平原って訳だ」
リーファの呟きに、ゴダックが視界に広がる緑の地平線を眺めながら答える。
砂漠の夜明けに見た金色の砂の輝きも美しかったが、大地の果てまで続くような緑の平原もとても美しかった。
「リーファ、高度を下げろ。山の裾野、あれがそうらしい」
クライブの言葉でリーファが視線を大地に向けると、そこには森に飲み込まれそうになっている石の神殿らしき建造物が無数に見えた。
「入り口はどこでしょうか?」
「文献じゃ神殿の最奥、一番大きな建物から地下に潜れるってなっていたわ」
「最奥……」
ベルサの言葉で再度、リーファは神殿に目を落す。
神殿はリデノ山脈に背を向ける形で幾つもの建造物で構成されていた。
その中央、辛うじて形を残している石畳の先、四角錐の巨石で作られた建物が見える。
「あれですね……」
目的地を見つけたリーファは神殿の上で旋回、徐々に高度を落しながら迷宮の入り口の前、石畳で作られた広場へとゆっくりと降り立った。
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