ルードネルの街で
牛の女神ラフィネリスの部屋で転移の兜の確認を終えたリーファ達は、ラフィネリスに礼を言って社を後にした。
「はぐれキメラの件、よろしゅう頼むでぇ!!」
そう言って手を振るラフィネリスに「任せて下さい!!」と叫び返し、リーファ達は呪いの解けた兜の力を使い、一度学園都市ルードネルへと舞い戻った。
ラフィネリスの事を冒険者ギルドに報告しなくてはならないし、地下三十階もある迷宮へ潜るなら食料等の補充も必要だった。
それに宿に残して来たレナとエリナの事も心配だったからだ。
報告は聖王冠に任せ、リーファ、クライブ、アルマリオスはレナ達のいるホテル、ニュービッグバリーへと向かう。
「どうやら、この転移の兜は、魔素の薄い所じゃ連続使用は出来ないみたいだな」
「周囲の魔素で魔力を充填する仕組みだからね。でも迷宮みたいな魔素の濃い場所なら、兜を守っていた僕みたいに連続で飛べる筈だよ」
「うーん、安全な場所で訓練したいが、今の状況じゃあ、地下迷宮に潜りながらやるしか無さそうだな」
「飛ぶ先を強くイメージして念じるんでしたっけ?」
転移の兜は転移先を思い浮かべ、飛べと念じる事で魔力を発動させる。
兜とは名付けられているが、実際は額当ての様な形をしており、現在は呪いの解けた六つをリーファと聖王冠、全員が装備していた。
魔道具に余り馴染みの無いリーファはまだ上手く使えないが、魔道具に慣れ親しんだ魔女ベルサの他、盗賊のサフィとクライブ、戦士としての経験の長いゴダックはそれなりに使える様だった。
ニーダンスだけは、石の中に飛ばされそうだと最後まで装備する事を渋っていた。
「ああ、俺やサフィは、可能なら相手の背後を取る事を意識してるからな。何度か練習すれば後ろを取るのは出来そうだ……ただ、バックスタブだけでローザの相手は厳しいだろうな……」
迅雷のローザ。英雄譚「放浪騎士の冒険」では、落とした魔物の首は千を超えるとされる凄腕の忍びだ。
魔族となって、その力は更に増している事が予想される。
それに正面から当たれば、あの影縛りでまた自由を奪われてしまうだろう。
「なにか新しい技を考えないとですね……」
「……技といえば、お前、いつも技の名前を叫んでるけど、アレって意味あるのか?」
「あ、ありますよッ! 技の名前を叫ぶと、叫ばない時より1.2倍の威力になるんですッ!」
「……ただ叫んだだけで?」
「はいッ!」
「技の威力が1.2倍に?」
「そうですッ!」
リーファはギュッと両手を握り締め、胡散臭そうに自分を見るクライブの目を見つめ返した。
リーファは昔読んで憧れた英雄譚の登場人物達が技名を叫び、攻撃を繰り出していた事に憧れを持っていた。
これまで付けた技の名前もそれらの英雄譚に登場する技をもじったモノだ。
それに作者に手紙を書いて尋ねたのだから、間違っている筈が無い。
作者はファンレターへの謝辞に加え「技の名前を叫ぶと威力が1.2倍(当社比)で増すからです」とちゃんと返事をくれたのだ。
元冒険者である作家の言葉だ。信頼しても問題無い筈だ。
「……ねぇ、リーファ。叫ぶ事で威力が上がるって言った、その作家さんの名前って?」
心を読んだアルマリオスがリーファに問い掛けると、彼女は力強く答えた。
「ミンメ・ボーショ先生ですッ!!」
「ミンメ・ボーショ……」
「クライブ、知ってるの?」
「ああ」
「ウフフ、有名ですもんね」
「そ、そうだな」
クライブは微笑むリーファに、頬を引きつらせ笑みを返す。
ミンメ・ボーショ。彼の書く作品自体はエンターテイメントとしては面白いが、実際の冒険者として活動しているクライブからすれば、内容は完全にファンタジー(幻想)だった。
突拍子もない技術があたかも実在する様に描かれ、その技術を使いキャラクター達は攻撃を受けたり、危機を回避したりする。
ありえない事の連続で、一周回って逆に楽しくなった覚えがある。
「なぁ、リーファ……夢を壊す様でわ」
クライブがその事を指摘する前に、一行はホテルへと辿り着いていた。
「なにか言いました、クライブさん?」
「……いや、なんでもない」
別に叫ぼうが叫ぶまいがリーファの勝手ではあるし、こいつがそれでいいなら、いいのか……。
実際に叫ぶ事で力がより籠められるという話もあるし、なによりわざわざリーファのリズムを壊す事もないだろう。
そんな事を思いつつ、クライブはリーファとアルマリオスと共にホテルに入り、最上階にあるスイートルームへと向かった。
扉をノックすると金髪の少女、エリナが息を切らせてドアを開ける。
「……あの……勇者様は……?」
リーファ達しかいない事に気付き、エリナが浮かべていた笑顔が消える。
「そっちはこれからだ。で、レナはどうしてる?」
「目は覚ましたけど、まだ本調子じゃないからベッドで寝て貰ってる」
「そうか……看病してくれてありがとよ」
「エレナさん、ありがとうございます」
「うん、ごくろうさま」
「べ、別にお礼を言われる様な事はしてないわッ、それに私はゴダックに言われてやっただけだものッ」
クライブ、リーファ、アルマリオスの三人に礼を言われたエレナは、どういう態度を取るべきか悩んだようで、照れながら怒るという器用な態度で答えた。
そんなエリナにリーファ達は苦笑を浮かべたのだった。
■◇■◇■◇■
一方その頃、冒険者ギルドに向かったゴダック達は、リデノ山脈のはぐれキメラ討伐依頼について、ルードネル支部のギルド長と面会していた。
元冒険者だというギルド長は長身で細身の、頬に刀傷のある中年の男だった。
「はぐれキメラでは無く、牛の女神ですか?」
「ああ、古くからあの地で暮らす、土地神だそうだ」
「ふむ……」
「……一つ聞きたいのだけれど、討伐依頼は誰が出したのかしら?」
ベルサの問いにギルド長はふむと暫し黙り込んだ。
依頼人の情報は通常、依頼を受けた冒険者にしか話さない。
ただ、相手はSクラスの冒険者。しかもいずれ魔王に挑もうとする者達だ。
情報を提供しておいた方が無難だろう。
「……依頼者は資料によるとバルデス・ハイデマン。職業は商人となっておりますな……」
「商人……その商人は南のテラン帝国とも取引があるのかしら?」
「さて、そこまでは……ただ、リデノ山脈を超えて交易というのは現実的ではないでしょう。交易するにしても、海路を使った方が荷も大量に運べますし、何より安全だ」
そうよね……そう呟いてベルサは顎に手を当てた。
「なんだよ、ベルサ、依頼人がそんなに気になるのか?」
「商人って人種は儲けにならない事に投資はしないものよ。善なる女神の排除……どちらかというと喜ぶのは魔族側でしょ」
「もしかして邪神の奴が……」
「なるほど、夢を使えばあるいは……」
「あの、この依頼、魔族と何か関係が?」
ギルド長は目を細め、ゴダック達に視線を送る。
「いや、あくまでベルサの憶測だ……ただ、今後、この手の不自然な依頼があった場合は裏を取る様にして欲しい。これはSランクパーティー、聖王冠からの正式な要請だ」
「分かりました。本部に連絡を入れて、各国の支部に通達するようにお願いしておきます……所で今日はアルベルトさんはいない様ですが?」
「アルベルトは……修行の為に一人で迷宮に潜ってるよ」
「お一人で!?」
「私達は止めたのだけれど、彼は一刻も早く魔王と戦える力を得たいみたい」
ベルサの言葉を聞いたギルド長は、流石勇者と呼ばれるだけはありますなと笑みを浮かべ、聖王冠のメンバーは苦笑いを洩らしたのだった。
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