ゴダックの好み
唐突に訪れたボディービルダーで露出狂な吸血鬼、マッソー・ぺクトラリス。
牛の女神、ラフィネリスの対応で何とかそのマッソーと戦わずに済んだリーファ達は、地下に戻ったラフィネリスに今度は邪神の武具の浄化を頼んだ。
「今度は浄化かいな?」
「はい、邪神の武具は呪われてはいますが、それが解ければ強力な武具になります。この剣も私が着ている鎧も、各地に住む神様に呪いを解いてもらったんです」
「うーん……呪いを解くには血を使わなあかんのやけど……うち、痛いのは苦手やし、血ぃ見るのも怖いのん」
泉の女神、ガーネットは善なる神の血には聖なる神気が宿っていて、その血によって呪いを解く事が出来ると言っていた。
ガーネットは自ら進んで血を流してくれたが、あれは彼女がM体質だったから出来た事であり、一般的な感覚だと痛いのは嫌だろう。
「アルベルトを助けに行くにしても、迅雷のローザの事を考えると兜の力はあった方がいいだろうな」
ゴダックの言葉に一行は頷きを返した。
守護竜と戦い、転移の力が強力である事は身に染みて分かっていた。
それに前衛組が転移攻撃が出来れば、忍びであるローザの速さに対抗出来るかもしれない。
「女神様、何とか浄化をお願い出来ないかしら。アルベルトの心が魔に染まってしまう前に彼を助けたいの……私に出来る事なら何でもするから……」
「わ、私も何でもするッ!! 頼むよ女神様ッ!!」
ベルサが頭を下げるのを見て、サフィも慌てて彼女に続く。
「うーん応えてあげたいけど……血なぁ……血以外で……そやッ!! うちのお乳はどうやろかッ!? さっきのマッソーはんも呪いが解けてたみたいやし」
「えっ!? あの吸血鬼、もう吸血鬼じゃなくなったんですかッ!?」
「せやで。マッソーはんは気付いて無かったけどなぁ」
牛の女神のお乳……女神のミルク……聖剣でも解けなかった吸血鬼のしつこい呪いが解けたのなら、可能性は大いにありそうですね。
「それでお願いしますッ!! クライブさん、転移の兜をッ!!」
「お、おう……」
お乳と聞いて思わずラフィネリスの胸をチラ見していたクライブは、慌てて視線を反らしポーチから取り出した兜を六つ、テーブルの上に並べる。
「……やっぱり男の人は大きいのがいいんですか?」
クライブがチラ見していた事に気付いたリーファはジトッとした視線を彼に送った。
「いや、俺は大きさは別に……」
「何言ってんだクライブッ!! 胸は大きい方が良いに決まってるだろッ!!」
「ゴダック……あんた、おっぱい星人だったんだね……」
サフィの冷たい視線がゴダックに突き刺さった。
「違うッ!! 女は多少豊満な方が安産らしいし、抱き心地も……」
「別にあなたの趣味なんて興味ないわ」
その発言に、今度はベルサがサフィ―よりも冷たい極寒の瞳でゴダックを射抜く。
「う、俺は……」
首を竦めたゴダックの横で、ニーダンスは巻き込まれたくないのか、そっと目を反らしていた。
「ともかく、男の人は全員出て行って下さいッ!!」
「わ、分かったよ……行こうぜ、ゴダック」
リーファ、サフィ、ベルサ。女性陣三人に冷たい視線を向けられ、クライブ達は地下室を出て行った。
「まったく、男共はそっちばかりねぇ」
「まぁ、あたし等もアルベルトには色々アピールしてたけどね」
「フフッ、確かにね」
「二人はアルベルトはんの事が好きなんやねぇ……リーファはんは違うのん?」
「私は……」
改めてアルベルトの事を考える。出会った時は憧れもあったし、優しく親切な態度に好感を持っていた事は確かだ。
しかし、生贄にされた事でそんな気持ちは無くなってしまった。
ただ、邪神に騙され、悪に落されようとしているアルベルトを見捨てるのは、なんとなく嫌だった。
「複雑やなぁ自分……まぁええ、色々、迷って生きていく。それが人の人生ちゅうやつや……ほな、お乳絞るから、みんな、器、持ってもらえる?」
「は、はい」
「分かったわ」
「人が乳絞るのを見るのは、ガキの頃以来だよ」
ラフィネリスの言葉にリーファ、ベルサ、サフィの三人は手渡された深皿を持って、ラフィネリスの前に並んだのだった。
■◇■◇■◇■
「なぁ、ゴダック。元気出せよ」
「クソッ、あいつ等、普段はアルベルトに色目使ってる癖に……」
「おっぱい星人はいけませんでしたね……ゴダック、神の愛は大地に住む者に等しく与えられています。ですから貴方も、胸の大きさで女性を選ぶような事は……」
「うるせぇッ! そう言うお前はどうなんだよッ!? えらそうな事言ってるが、好みはあるだろうがッ!?」
社の外、地面に座り並んだ三人の男達。戦士のゴダックが司祭のニーダンスを睨む。
「好みなど……」
ニーダンスの脳裏に共に修行を積んだ赤毛の少女の姿が浮かぶ。
「コホンッ、私は神に仕える身です。この身は女性では無く至高神ゼファルに捧げているのです」
「今、一瞬考えただろッ! 言えよッ!」
「考えたのは神の事です」
ニーダンスは涼しい顔をしてゴダックの追及をやり過ごした。
「チッ、つまんねぇ奴だ……クライブ、お前はどうなんだよッ? 胸は別にとか言ってたが?」
「そうだな……俺は優しい女がいい……あと死なない女が……」
クライブの脳裏にはかつての仲間の一人、吸血鬼に殺された女戦士の顔が浮かんでいた。
彼女には、いや、パーティーの仲間には恋愛感情は抱いてはいなかった。
だが、七年近く冒険を共にしたのだ。どうしても情は湧く。
「死なない女か……確かにそれは一番大事だな」
ゴダックにも誰か失った過去があるのか、笑みを消し神妙な顔で呟いた。
「そうですね……特に冒険者なんてやっていれば、いつ別れが来るか分かりませんから」
「……もう少し、女共に気を使うとするか」
「だな……」
クライブは相棒であるリーファの事を考える。
あいつは問題解決の為に自分の身を投げだしちまう所があるからな……俺がもっと強くならねぇと……。
そんな事を考え、クライブは自分が身に付けている聖者の衣に目を落した。
そうして男三人が山の斜面に座り、ぼんやりと空を流れる雲を眺めていると、背後から声が掛かる。
「終わりましたよーッ!! って、三人とも何黄昏てるんですかッ!? そんなにサフィさんとベルサさんに怒られたのが辛かったんですかッ!?」
「別に黄昏てねぇよッ!! だいたい、胸の話を持ち出したのはお前じゃねぇかッ!!」
「うっ……それはクライブさんが、ラフィネリスさんのおっぱいをチラ見してたから……と、とにかく、浄化は終わりました。部屋に来て兜を見て下さい!!」
リーファは原因は自分だと言われ、話を兜に戻した。
「ふぅ……了解だ! 行くか」
「おう」
「……多感な少女の相手は大変ですね」
「……まあな」
ニーダンスの言葉に苦笑を浮かべながら、クライブは腰を上げ尻の埃を払い、牛の女神の部屋に向け歩みを進めた。
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