吸血鬼の求めるモノ
牛の女神、ラフィネリスの占いでアルベルトは現在リデノ山脈の南側、古代デュード人が作ったという地下迷宮の地下三十階にいる事が判明した。
魔族の支配地域は大陸北部だったので、意外ではあったが、ともかくとして次の目的地は決まった。
後は手に入れた邪神の武具、転移の兜をラフィネリスに浄化してもらえばやる事は終わりな筈だったのだが……。
「我は吸血鬼、マッソー・ぺクトラリスッ!! この社に高名な占星術の神がいると聞いてやって来たッ!! どうかお目通り願いたいッ!!」
唐突に地下迄届く大音声が鳴り響いた。
「こ、この声はまさかッ!?」
「なんで奴がここにッ!?」
リーファとクライブは聞き覚えのある声に、思わず顔を見合わせる。
「なによ、あんた達、声の主を知ってるの?」
「吸血鬼とか言ってたが……」
「知ってるは知ってるんですが、二度と会いたくないといいますか……」
「あいつは裸マントのド変態だぜ」
「裸マント……ホントにそんな奴が……」
裸マントのド変態、クライブが顔を顰め説明した事で、うめき声を上げたサフィを始め、聖王冠の面々は一様に眉根を寄せた。
「裸ってマント以外は身に付けてないって事?」
「ああ、奴は鍛え上げた肉体を見て欲しいらしくてな。特に女には異常な迫り方をするんだ」
ベルサの問い掛けにクライブは真剣な顔で答える。
「はぁ……吸血鬼である事自体が神の摂理に背く行いだというのに、その上、変質者ですか……ゴダック、前衛をお願いします。ここは私が神のお力をお借りして、浄化する事にしましょう」
「待っておくんなまし。キメラ退治やのうて、うちの占星術を頼ってきたんなら、話ぐらいは聞いてあげたい」
梯子を上ろうとしたゴダックとニーダンスを、椅子から立ち上がったラフィネリスが止める。
「なんでだよ? 女神様よぉ、聞いた通り、奴は女に素っ裸で迫る変態みたいだぜ?」
「そうです。アンデッドの上に婦女子にいかがわしく迫る者を、至高神ゼファル様の僕としては見過ごせません」
「ラフィネリスさん、経験者として言わせて貰いますが、絶対後悔しますよ」
「……吸血鬼とはいっても、同じ大地で生きる者の一人や。善神の一柱としては、導いてあげたいんよ」
ゴダックとニーダンス、それにリーファは彼女を止めようと声を掛けたが、ラフィネリスはそう言って笑みを浮かべ梯子を登って行った。
「女神様、奴が襲い掛かってきたら、思い切り股間を蹴り上げるんだよッ。大体の男はそれでノックアウト出来るから」
梯子を登るラフィネリスにサフィがアドバイスすると、彼女は困った様に眉を寄せ笑った。
■◇■◇■◇■
ゴトリ、そんな音を立ててラフィネリスは隠し部屋の入口を塞いでいた石を持ち上げた。
隙間から見れば開け放たれた社の扉の先、黒いフード付きのマントを纏った大柄な人影が見える。
月明かりで見えるフードのしたの顔は包帯で覆われていた。吸血鬼だというから恐らく日中、日の光を浴びない為の対策だろう。
「よいしょッと……」
蓋を穴の横に置き、梯子を上って体を社の床に持ち上げる。
その間も黒マントの人影は身じろぎせずに彼女を待っていた。
ラフィネリスはそんな人影に歩み寄り口を開く。
「うちがここの社の神、牛の女神ラフィネリスどす。ほんで用向きはなんやの?」
「お目通り頂き感謝する、我は吸血鬼、マッソー・ぺクトラリス。此度は占って欲しい事があり、こちらに参った次第」
「占って欲しい事? なんやの?」
「は、実は我、度重なる敗北で大墳墓の番人を解雇されましてな……これも日ごろの鍛錬が足りなかったからに他ならぬ。そこで更なる筋肉を得る為、女神殿には究極のプロテインの在処について占ってもらいたい」
究極のぷろていん? なんやのそれ?
心の中で首を捻ったラフィネリスだが、自分を頼ってわざわざやって来た者を無碍には出来ないと、プロテインについて詳細を尋ねる事にした。
「究極のぷろていんについて詳しく教えてくれへんやろか? うち、探し物の詳細を聞かんと上手に探されへんから」
「詳細であるな……我が同僚のミイラ男に聞いた話によれば、究極のプロテインは、タンパク質の含有率は八十パーセント以上、更に筋肉の成長を助けるクレアチン・BCAA・グルタミン・ビタミン群を多く含む物らしい。ミイラ男は知人からその話を聞いたらしくてな。どこで手に入るかまでは分からなかったのだ」
ちょっと待って、たんぱくしつって何? くれあちん、びーしーえーえー、ぐるたみん……このお人の言うてる事、ちんぷんかんぷんやわ……。
そや、究極ちゅう事は、このお人も普通のぷろていんは持ってはるんやないやろか。
「コホンッ、マッソーさんやったかいなぁ?」
「いかにも、我はマッソー・ぺクトラリス」
「あんさん、普通のぷろていんは持ってはるのん?」
「もちろんだ。我は毎日、これを体に入れ、トレーニングを行っている」
そう言うとマッソーはマントの下から包帯で巻かれた腕を差し出した。
手には乳白色の粉の入った瓶が握られている。
「この粉がぷろていんやの?」
「うむ、これを牛乳に溶いて朝食時とトレーニング後に摂取している」
「うーん……出来るか分からんけど、取り敢えず占ってみるわ……当たるも八卦、当たらぬも八卦、探し物、究極のぷろていんはどこかいな……」
ラフィネリスは先程、アルベルトの居場所を探った時と同様、自身の角を擦り始めた。
やがて、頬を上気させなまめかしい声を上げ始める。
「んく……はぁ……ひぅ……」
「ぬ……女神殿、大丈夫か? 随分とその……苦しそうだが……」
「き、気にせんといてぇ……こ、こりぇが……うちの、占いの、す、スタイルやさかい……くっ……み、見えて、くふぅ……見えてきたでぇ……はしゅうううッ!! ふひ……はぁはぁ……み、見つかったでぇ」
「そ、それは本当かッ!? して、究極のプロテインは何処にッ!?」
「ここや」
ラフィネリスはそう言って自分の胸を右手で押さえた。
「こことは……女神殿が持っているという事か?」
「うちは牛の女神やで、つまりうちのお乳は牛乳ちゅう事や」
「……では女神殿の乳が究極の……」
「取り敢えず、あんさんの持ってるぷろていん、うちのお乳で溶かしてみよか」
ラフィネリスは社に戻り、適当な器に乳を搾って入れ、表で待つマッソーに手渡した。
器に入れられた神々しい輝きを放つ白い液体を、マッソーは瞳を見開き凝視している。
「これが我が求めていた……」
「眺めてないで飲んだらどうやの?」
「むっ、確かに……では早速……」
マッソーは器を地面に置き、先程の粉を蓋付きのコップに振り入れ、器のミルクをコップに注ぎ丹念にシェイクした。
「では、いただきますッ!!」
蓋を開け、プロテイン入りの女神ミルクをマッソーは一気に胃に流し込む。
「おお、おおおおッ!!」
女神ミルクを嚥下した直後、マッソーの包帯に包まれた体から光が溢れ、筋肉が盛り上がり、包帯とマントが弾け飛んだ。
包帯の下からは以前よりも更に厚みを増した肉体が姿を見せる。
「わぁ、いややわぁ。見えてまうやない」
ラフィネリスはそう言って両手で顔を覆ったが、その指の間からはしっかりと覗き見ていた。
そんな牛の女神の前で、全裸の吸血鬼は様々なポーズを取り、筋肉の張りを確かめる。
やがて満足したのか、マッソーは弾け飛んだマントを拾い上げその身をマントで隠した。
「女神殿、究極のプロテイン、確かに頂いた。礼には何を為せばよい?」
「お礼なぁ……そやなぁ…………そや、せめて下着は付けよか」
「何、我に肉体の一部を隠せとッ!?」
「あんさんが見て貰いたいのは、鍛えた部分やろ? あそこは別に鍛えて無いんやからええんやないのん? 見る人も気が散ると思うし」
ぬぅ……そう言って腕を組んだマッソーは青く変わった瞳を女神に向けた。
それを見たラフィネリスはオヤっと眉を上げる。
「確かに女神殿の言う通りかもしれんな。ふむ、では次は我のアレをギリギリ隠せるインナーウェアを探す事にする。その過程に見つけた宝は女神殿に進呈するとしよう」
「そない気ぃ使わんでも」
「いや、先ほどの願いはあくまで我への助言、礼にはならぬ。このマッソー、恩義には恩義で報いる主義なのだ」
「さよか……ほな、気長に待つとするわな」
「では、いずれ近いうちに」
裸マントの元吸血鬼、マッソー・ぺクトラリスは大きく手を振って、マントを翻し颯爽と去って行った。
その様子を床の穴からコッソリ眺めていたリーファは、あんな変態な人にも平然と対処出来るラフィネリスに尊敬の念を抱いたのだった。
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