角は敏感
社の地下に隠れていた牛の神、ラフィネリス。
どうやら冒険者に恨みを抱いているらしい彼女に「またなのーッ!!」と頭を抱えたリーファだったが、ただ、頭を抱えている訳にもいかないと、クライブとサフィがいる入り口の隙間から社に体を滑り込ませた。
「えっと、ラフィネリスさん」
「なんどすか……って、なんやあんた、体の中にアルマリオスはんがいてるやないの? なんでそないなけったいな事に……」
「リーファは邪神の罠で生贄にされかけて、僕と契約する事で命を繋いだんだよ」
「邪神の罠? 生贄? ……詳しゅう聞かせてくれる?」
アルマリオスはこれまでの経緯、邪神の企て、リーファの事、人を魔に変える武具の事等をかいつまんでラフィネリスに説明した。
「……ほんで、他の子らもそれに関わってるちゅう事?」
ラフィネリスは床に開いた穴、恐らく地下に部屋を作り、冒険者から隠れて過ごしていたのだろう、から顔だけを出し、クライブの後ろにいるゴダック達に視線を向けた。
「まぁ、そうだね……ラフィネリス、君は冒険者に思う所はあるようだけど、事は邪神に関わる事だ。協力してくれないか」
「お願いします。このままだと勇者が魔王になっちゃうかもなんです」
「……一つ、条件があるわ」
「条件……何でしょうか?」
「うちの事、キメラやないて冒険者たちに広めてくんなまし」
キメラじゃない……どういう事?
首を捻るリーファを見て、ラフィネリスは魔法で持ち上げていた蓋を横にずらし、穴から出ると腰に手を当てリーファ達に向き直った。
「これは……それで冒険者に狙われていたんですね」
ラフィネリスの体を見て、リーファは得心がいった。
彼女は身体つきこそ人に似てはいたが、頭には角、纏った服から覗く体は白と黒の体毛に覆われ、お尻には牛の尻尾、足は靴では無く蹄が生えていた。
人と牛の合成獣、そう思われても無理は無いだろう。
「そうやッ! うち、こないな見た目やけどれっきとした女神や! やのに冒険者の連中はうちの事、錬金術師の迷宮から逃げ出したキメラやって決めつけてッ!!」
ラフィネリスは両手の拳を握り、涙目になりながらブンブンと拳を振った。
「あっ、そういえばルードネルの冒険者ギルドに、はぐれキメラの討伐依頼があったかも……」
「なるほど、それで冒険者が彼女を襲っていたという訳ですか……」
サフィの言葉にニーダンスが得心いったとばかりに頷く。
「ふむ、ではこうしてはどうでしょう。我々はこう見えてSランクの冒険者、ギルドにはそれなりに顔が効きます。ですので貴女がキメラでは無く、善なる女神である事を報告しましょう」
「ほんまか? 今まで来た冒険者はうちの話、一個も信じてくれへんかったけど……」
「私は至高神の僕です。その意味でも信用頂いて構いません」
「至高神……ゼファルはんの……」
ゼファルは天に住まうとされる善神たちの長であり、悪を許さず正義と秩序に重きを置く神だ。
その僕であれば嘘を吐く事は無いだろう。
「……分かったわ。あんさんの事、信じてみよう思います……それであんたらのリーダーが連れ去られたとか言うてたけど?」
「そうなんだよ。うちのリーダー、アルベルトが魔王軍の幹部に攫われちまって……その場所を見つけてほしいんだ」
最後尾で話を聞いていたゴダックがパーティーを代表してラフィネリスに願う。
「なるほど。うちの占星術の事、アルマリオスはんに聞いたんやな……立ち話もなんや、詳しい事は部屋で聞こか」
ラフィネリスはそう言って、アルマリオスに視線を送ると、踵を返し床の穴の中へと降りて行った。
「ふぅ……なんとかなりましたね。でも不思議ですね。ラフィネリスさんって、占いで有名な神さまなんでしょ? 地元の人に知られていてもおかしくないのに……」
「占いはあくまで趣味だからね、人間には喧伝してないのさ。それより早く降りよう」
「だな。リーファ、行こうぜ」
「分かりました」
リーファは穴を覗き、掛かっていた梯子に足を乗せ、牛の神の待つ部屋へと向かう事にした。
■◇■◇■◇■
ラフィネリスの部屋はなんというか、神秘的というか、オカルトチックな物で溢れていた。
蝋燭の揺れる明かりの中、動物の頭蓋骨や絵の描かれたカードが棚に置かれ、机の上には紫の光を放つ水晶玉が、天井には夜空の星の配置を描いた天文図が貼られていた。
「あんた、こんな所に閉じこもっていてよく平気だな」
思わずつぶやいたクライブの言葉に、ラフィネリスはキッと彼を睨んだ。
「平気な訳あらへんッ!! せやけど上におったら、どうやっても冒険者の相手せなならん!! そうなったら相手を傷つけてまう。それが嫌やからうちはッ!!」
「……すまねぇ……」
口をへの字にして涙目になったラフィネリスを見て、バツの悪くなったクライブは素直に頭を下げた。
「分かればええんや」
「……優しい神様みたいねぇ」
「のようだな」
そんな二人の様子にベルサとゴダックは囁きを交わす。
そのコダック達の視線の先、落ち着いた様子のラフィネリスは水晶玉の置かれた机の椅子に腰かけた。
彼女の向かいには同様の木の椅子が置かれている。
「……ほんなら、探す人の名前、それに容姿や為人をなるべく詳しゅう教えてな」
一行はサフィから始まり、聖王冠の面々の他、リーファとクライブ、アルマリオスも詳しく知らないながらも、アルベルトの印象についてラフィネリスに語って聞かせた。
「……ほな、居場所を占うわな……えー、当たるも八卦、当たらぬも八卦……尋ね人、アルベルト・ゴールドリバーの居場所はどこかいな……」
ラフィネリスはそう言って自分の角をおもむろに擦り始める。
あっ、水晶玉とか棚に置かれたカードや骨は使わないんだ……。
「あれは、ほれ、雰囲気出す為の物やから……」
うっ、ラフィネリスさんも心を読むんだ……そりゃそうか、神様だもんね……。
リーファの感想にはもう答えず、ラフィネリスは自分の角を擦りながら荒い呼吸を吐いている。
「う……くはぁ……み、見えそう……ああ、あと少しで……ひ、ひぃ……」
なんだろうか。占いをしている筈なのだが、妙に艶っぽく色っぽい。
赤面したリーファがチラリと周囲を見回せば、クライブは気まずそうに視線をそらし、ゴダック達も微妙な顔で彼女を直視しない様にしていた。
「はぁはぁ、ん……くふぅ……はひぇえええ!! はふ…………ふぅ……尋ね人、アルベルト・ゴールドリバーは……こっからさらに南、リデノ山脈の南側、その裾野にある古代にデュード人が作った地下迷宮で、延々、魔物と戦こうてはるわ」
ビクンッと体を震わせ、奇声を上げてテーブルに突っ伏したラフィネリスは、顔を上げると上気した頬に掌で風を送りながらアルベルトの居場所を示した。
「デュード人の地下迷宮……それなら文献で読んだ事があるわ。地下百階にもわたる大迷宮で、そこには多種多様な魔物が世界中から召喚されてるって……大昔の刑場、もしくは何らかの実験施設だったって二つの説がある迷宮よ」
ベルサの呟きにサフィの顔が歪む。
「地下百階って……ねぇ女神様、具体的に何階にアルベルトがいるのか分からない?」
「そうやねぇ……」
ラフィネリスは再度、自身の角を擦り始める。
「ん……くぅ……あ、もうちょっと……みっ、見える、見えてまう……」
いや、見えてまうって、見えていいんですけど……。
「あぁ……あ、あ、あ、ふひぃいいいッ!!」
再び奇声を上げテーブルに突っ伏したラフィネリスを見て、ゴダックが少し呆れた様子でアルマリオスに問い掛ける。
「……守護竜さんよ、この女神様は、こう……普通には占えないのか?」
「元々は棚の道具も使ってたみたいだけど、自分の角を擦るのが一番よく見えるらしいよ」
だとしても、余りにもなまめかしくて、これじゃ合成獣じゃなくて、痴女だって事で捕縛依頼が出そうです。
「はぁはぁ……しょうがないんよ……角は敏感やから、どうしてもこうなってしまうんよ」
「……それで、アルベルトは何階にいるのでしょうか?」
「今は地下三十階に居てはったわ……」
そう言って牛の女神、ラフィネリスは頬を朱に染め、少し汗ばんだ顔で微笑んだ。
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