牛の女神
聖王冠のゴダックのお説教の後、リーファはアルマリオスと共に倒した守護竜の魂、魔王に分けられた六つの内の一つと対面した。
光る小さな竜としてリーファには見えていたが、クライブも聖王冠も竜の姿は見えてはいない様だった。
「あの、私はリーファ。アルマリオスさんの魂と契約して、魔竜少女って奴になった冒険者なんですけど……」
"僕の魂と契約?"
「うん、君も契約してリーファの中に入らない? 全部の魂が集まれば、魔王の呪いを解いて復活する事も出来る筈だよ」
虚空に向かって話しかけるリーファとアルマリオスを見て、ゴダックがクライブに囁く。
「なぁ、ホントに竜の魂があそこにいるのか? 俺には何も見えねぇんだが?」
「俺にも見えねぇよ」
「うーん、なんとなく力は感じるけど、私も見えないわねぇ? ニーダンスは?」
「残念ながら見えません。神の僕として導くべき魂が見えないとは……まだまだ修行が足りません」
「竜の魂は取り込むんだから、見えなくていいんじゃない」
クライブ達がそんな話をしている前でリーファとアルマリオスは、もう一人のアルマリオスと話を続ける。
"……魂って幾つ集まってるの?"
「君で三つ目だよ」
"三つ目……半分か……"
光る竜は少し悩んでいる様だった。
「あの、何か気になる事でも?」
"うん、僕、少しでも邪神の邪魔がしたくて転移の兜を使っていたんだけど、その影響が出ないかなって……"
「うーん。結局、兜に掛かった呪いって何だったの?」
"勇者が武具から得た影響、それは精神的な物だったり、肉体的な物だったりを近しい人間に伝播させるってものだよ"
影響の伝播……勇者にとって近しい人間といえば、やはりパーティーの仲間だろう……強く力を求めたり、肉体が魔族化したりの影響を受ける。
リーファが邪魔しなければ、聖王冠もいずれローザの様に魔王軍の幹部となっていたという事?
「多分、そうなっただろうね……影響の伝播か……兜自体には他者を変化させる力はないんだよね?」
"うん、だから僕も使おうと思ったんだ"
「なら多分大丈夫さ」
"……そうだよねッ!"
元は同じ魂であるアルマリオス達は、相変わらず軽い調子で頷き合った。
"えーと、リーファだっけ?"
「はい、リーファ・ブラッドです」
"じゃあ、リーファ・ブラッド。僕と契約して君の中に住まわせてくれる"
「はい、契約します」
リーファの頷きと共に、クライブ達に刺し貫かれ床に転がっていた死体の上、輝く小さな竜はリーファの体に吸い込まれた。
それに合わせリーファはお尻に違和感を覚える。
「リーファ、なんか尻の所が膨らんでるぞ」
「こ、これは、尻尾がッ!?」
クライブの指摘でリーファがお尻に視線と意識を向けると、生者の衣が反応しズボンに穴が開いて白い鱗に覆われた尻尾が顔を出す。
「しっ、尻尾がッ!?」
「へぇ、魂を取り込むとそんな風になるんだ」
「じゃあ、嬢ちゃんは最終的には本格的な竜に?」
「完全な竜になったら、武具は使い難そうですね」
「竜の戦士か……ちょっとロマンティックねぇ」
「竜にはなりませんッ!! アルマリオスさん、早く調整して下さいッ!!」
新たに生えた尻尾をピンッと立てて、リーファはアルマリオスを睨みつける。
「分かった。分かった……えっとこんな感じかな……」
アルマリオスが魂の融合の度合いを調整すると、長く伸びた尻尾はシュルシュルと収縮しズボンの中に消えて行った。
「ふぅ……まったく、魂を取り返すたびに変な感じになるの、どうにかならないんですか?」
「しょうがないよ。魂を取り戻すとその分、力が大きくなるんだから君にも影響が出るのは避けられない」
「ともかくだ。リーファが寝てる間に兜は回収したし、そろそろずらかろうぜ」
「そうね、次はアルベルトの行方を占ってもらわないと……」
「早く助け出さないと、あの金髪スケルトンに何されるか……」
ベルサの言葉で、サフィは眉根を寄せて不安を口にした。
■◇■◇■◇■
迷宮からの帰り道、アルマリオスの力が上がった事でリーファの力も上がり、行よりかなり楽に進む事が出来た。
それでも数時間は掛かり、錬金術師の研究所を出た時には既に日は暮れていた。
「どうする? このまま、社へ向かうかい?」
アルマリオスはリーファ達に順繰りに視線を送り尋ねる。
「私はこのまま移動する事に賛成。お嬢ちゃんが眠っている間に休めたし」
「私も構わないわ」
「俺もそれでいいぜ。またあの箱に乗るのはゾッとしねぇが」
「ゴダック、上は上で風が直接、体に当たるので結構寒いですよ」
「ロープが何時切れるか心配しなくていい分、マシだろ」
「聖王冠は全員、すぐに移動するって事でいいんだね? リーファ達はどうだい?」
アルマリオスはリーファとクライブに目を向けた。
「私は休ませてもらったので構いません。クライブさんは?」
「サフィが言ってたが、ローザがアルベルトを魔王にする事は阻止しなきゃならねぇし、なるべく急いだ方がいいだろうな」
「じゃあ、全員、このまま社に向かうって事でいいね?」
一行はアルマリオスに頷きを返し、第三形態、飛竜にその身を変えたリーファに乗って、牛の女神がいるという社を目指す事になった。
■◇■◇■◇■
占いが趣味の牛の化身がいるという社は、リーファ達が潜っていたバーガンスの研究所からほど近い場所にあった。
石造りの社は苔生しており、神聖というよりは歴史の長さを感じさせる物だった。
人の手は入っておらず、長年放置されている事がその様子からは窺えた。
「アルマリオスさん、また居ないんじゃないですか?」
「うーん、まぁ、僕が知ってるのは千年前の事だからねぇ……でも前も言ったけど、神は縄張りが決まってるからこの近くにはいる筈だよ」
「空から見た感じじゃ、それらしい建物は見えなかったが……」
「ねぇ、いないの? 話が違うじゃない」
不満気なサフィの声を聞いたクライブは肩を竦めると、苔だらけの社に近づき扉に手を掛ける。
以前、不死鳥の社では炎が噴き出し文字を刻んだが、今度はそんな事は無く取っ手に手を掛け引いただけで簡単に開いた。
中は暗く床には埃が厚く溜まっている。
「開いたな……アルマリオス、その女神の名前は?」
「ラフィネリスだよ」
「ラフィネリスッ!! いないのかッ!?」
クライブが名前を叫ぶと、部屋の奥からゴトリと何かが動く音がした。
「……誰どす? うちの名前を呼ばはるのは?」
「ラフィネリス、僕だよ、アルマリオスだよッ!」
パタパタと暗い部屋の中に飛び、アルマリオスは声を上げる。
「アルマリオスはん……えらい久しぶりどすなぁ……随分とまぁ、ちいそうなってしもうて……ほんで今日は何の用どす?」
はんなりした声は部屋の奥、床の辺りから聞こえてくる。
「実は君に占って貰いたい事があって……」
「いるんじゃないか。ねぇ、女神様、実は私達のリーダーが魔族に連れ去られて……」
女神がいると分かったサフィ―は、入り口に立ったクライブの体の横から顔を出し、用件を伝えようと口を開いた。
「……あんたら、冒険者やな?」
そんなサフィとクライブの姿を恐らく魔法で蓋を持ち上げ、床に開いた穴から覗いていたラフィネリスと思しき角の生えたツートン髪の女は、二人をじっと見つめていた。
「そ、そうだけど……」
「やっぱりそうどすかッ! うちは冒険者は好きやないッ、帰ってくれますやろかッ!」
「ちょっと待ってくれよ。あんた、アルマリオスの知り合いなんだろ? 話だけでも聞いてくれよ」
「…………確かにアルマリオスはんは知り合いやけど、冒険者なんてヤクザ者に用はあらしまへん。このまま帰りよし」
どうやらラフィネリスも不死鳥エラリオンと同様、冒険者に良い印象は抱いていないようだ。
そんな会話を聞いていたリーファは、またなのーッ!? と頭を抱えたのだった。
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