転移と魔素
人型の守護竜、アルマリオスとの戦いは今までと違い苦戦を強いられた。
その一番の要因は相手が邪神の武具である転移の兜を使っていた事が原因だった。
当初、守護竜は遠距離からの息吹と転移からの近接攻撃を主体としていたが、ベルサの張った結界で息吹が防がれた事で、現在は短距離転移にての奇襲に切り替えていた。
これまでの様に、ゴダックが敵を引き付けベルサとニーダンスが補助を、クライブとサフィが奇襲を行い、隙を見てリーファが止めを刺す。
その戦術が短距離転移によって封殺されてしまったのだ。
「このままじゃジリ貧だぜ」
「分かってるけど、あんなにポンポン移動されたんじゃ……」
奇襲組のクライブ達も、斬りかかるたびに転移する守護竜にかすり傷さえ負わせられていない。
どうしよう、このままじゃこっちの体力が……。
"リーファ、一つ試したい事がある"
わっ、頭の中で話しかけてくるの、久しぶりですね。それで試したい事って?
"あの兜、どうも周囲の魔素を吸収して転移の力を使ってるみたいなんだ"
周囲の魔素……あ、ダンジョンとかは魔素が濃い土地に作られるんでしたっけ。
"そう、だからその魔素を僕が吸い上げて、一時的に枯渇させる"
枯渇って、そんなに吸い込んで大丈夫なんですか?
"分からない……もしかしたら僕の魂も君の体も絶えられずに、弾け飛んじゃうかもしれない"
弾け飛ぶ……リーファの脳裏に爆散する自分自身の体が浮かぶ。
"やるか、やらないかは君に委ねる"
……耐え切れなければ死ぬ。
リーファは守護竜と戦うクライブ、そして聖王冠のメンバーに視線を巡らせた。
ばらけず固まる事で、お互いフォローし合い攻撃を捌いている事で致命傷は無いものの、みな守護竜の転移による奇襲で少なからず手傷を負っている。
逆に守護竜は無傷でその動きにも衰えは見えない。
兜が周囲の魔力を利用しているなら、守護竜自体の魔力は温存されているという事だろうし、体力的にも相手はまだまだ余裕がありそうだ
これはやる以外、活路は見い出せそうにないですね。……アルマリオスさん、お願いします。
"了解だよ……リーファ、取り込んだ魔素に流されないよう、気をしっかり持つんだ……"
分かりました。
「皆さん、今から私が守護竜の転移を止めますッ!! その間、私を守って下さい!!」
「転移を止める!? そんな事が出来るのッ!?」
「私を信じて下さいッ!!」
サフィに声を張り上げた事で、クライブと聖王冠は戸惑いながらもリーファを守る様に円陣を組んだ。
「リーファ、どうやって止める気だ?」
「説明は後で」
アルマリオスさん、お願いしますッ!!
"いくよ"
リーファの答えを聞いて、アルマリオスは彼女の体の中に入り込んだ自身の魂を操り、周囲に漂う魔素をその身に集めた。
取り込まれた魔素により肉体が活性化し、リーファの鼓動は早鐘の様にドクドクと響いた。
無理矢理送り出された血液が体を駆け巡り、眩暈がリーファを襲い毛細血管が破れ鼻と耳、それに目から血が噴き出す。
リーファは聖剣を杖代わりに倒れそうになる体を何とか支えた。
「ッ……」
「リーファ!?」
「どうなってるのッ!?」
「これは……周囲の魔素があの子に……?」
「ガアアアアアッ!!」
「クッ!?」
クライブとサフィがリーファの様子に驚きの声を上げ、ベルサが魔素の流れを感じている間も、守護竜はお構いなしに攻撃を続ける。
「お、おい、大丈夫か!? ニーダンスッ、嬢ちゃんに治癒をッ!!」
「分かりました! 全ての神の長である偉大なる至高神ゼファルよ、神の子たる者の傷を癒したまえッ!!」
ゴダックが声を上げ、ニーダンスが至高神に癒しの加護を願った。
一時、眩暈は去ったがすぐにぶり返し、再び血は流れ出す。
「いったい何が起きているというのです……」
原因不明の出血にニーダンスは困惑していた。だが、それに答える余裕は今のリーファには無かった。
"もう少しだ。リーファ、耐えてくれ"
リーファに魔素は見えないが、周囲の空気が変化して来た事は眩暈の中でも肌で感じられた。
迷宮に潜ると感じる肌にまとわりつくような何か、それが無くなり、まるで広い草原にいる様にリーファには思えた。
「ガッ!?」
「当たった!?」
そう感じた直後、守護竜の放った刃を弾き、斬り返したサフィの攻撃が竜の脇腹を捉えた。
「魔素の吸収……そうか、あの兜は周囲の魔素を取り込んで転移の力にしていたのねッ!! みんな今なら当てられるわ!! 魔女ベルサの魔力を以って、立ちふさがる敵に雷神の鉄槌を、雷の雨ッ!!」
雷が雨の様に降り注ぎ人型をした竜の体を貫き焼く。
「グガガッ!!」
「行くわよッ!!」
「おうッ!!」
「グオオオオン!!」
ベルサが放った雷魔法を起点に、サフィとクライブが勝機とばかりに守護竜に襲い掛かる。
聖剣が守護竜の体を削り取り血が流れるたび、その動きは鈍っていった。
「俺が動きを止めるッ!! サフィとクライブは止めをッ!!」
「任せてッ!!」
「了解だッ!!」
クライブ達は血を流し続けるリーファを気にしつつも守護竜の対処を優先し、ゴダックが先陣を切り、生み出したオーラシールドを人の姿をした竜に叩きつける。
「ゴフッ!!」
守護竜は咄嗟に手にした剣でそれを受け止めようとしたが、魔力で強化された一撃をしのぎ切れず、剣ごと潰され壁に叩きつけられた。
「これで止めだッ!!」
「鬼ごっこは終わりよッ!!」
走り込んだクライブとサフィが聖剣で守護竜を壁に縫い留めたのを見届けて、リーファの意識は暗転した。
■◇■◇■◇■
次に目覚めた時、視線の先には眉を寄せてこちらを覗き込むクライブの顔があった。
額に絞ったタオルが置かれていたので、気を失った自分を看病してくれていたようだ。
ベッドに寝かされ体には毛布が掛けられていて、リーファの無意識を反映したのか、聖者の衣は柔らかいパジャマに変わっていた。
「クライブさん……ここは……」
横になったままクライブに尋ねると、彼はしかめっ面で答えを返してくれた。
「ここは例の隠し部屋の寝室だ。それよりアルマリオスから聞いたが、お前、周辺の魔素を取り込んだんだって?」
「はい……転移の兜は周囲の魔素を使って、転移しているみたいだったので……」
「お前なぁ……はぁ……」
クライブはため息を一つ吐くとリーファのおでこを指で弾く。
「痛ッ!? クライブさん、何で……?」
「何で? じゃねぇよ。耐え切れなきゃ体が弾けてたって聞いたぜ」
ムッとした様子のクライブを見て、心配してくれたのだと気付いた。
「あの、すいません。でもでも、戦闘中でしたし、相談してる余裕は……」
「確かにあのままじゃ、転移攻撃で削られて負けてたかもだが、お前が死んじゃあ意味ねぇだろ」
「……」
「ともかくだ。今後、自分を犠牲にするようなやり方は無しだ」
「……はい」
シュンとしたリーファの頭を優しく撫で、クライブは腰を上げた。
「あっ、クライブさん」
思わず体を起こしかけたリーファに苦笑を浮かべ、クライブは口を開く。
「まだ、寝てろ……飯を持って来てやる」
飯と聞いてリーファの腹がクゥと鳴った。
魔力を吸い込み細胞が必要以上に活性化した為か、酷く空腹だった。
「……はい」
腹の音を聞かれたリーファは、掛けられた布団で赤面した顔を隠しつつ、小さく返事を返した。
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