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人の形をした竜

「一時はあのまま、このダンジョンで干乾びていくんだと思いました」


 第四形態で放った技の勢いで天井に角を突き立ててしまったリーファ。

 彼女にロープを絡め、クライブと聖王冠の面々は力を合わせロープを引いた。

 しかし、角のねじれが災いしてか、聖剣で突き崩したにも関わらずリーファは中々抜けなかった。


「ふぅ、何とか取れて良かったが、あの技は使う場所を考える必要がありそうだな」

「すいません……クライブさんとサフィさんにキメラが気を取られてて、正面ががら空きだったので、つい……」


 苦笑を浮かべたゴダックにリーファは頭を掻きつつ、謝罪を口にした。


「ともかく、番人は倒せた事ですし先に進むとしましょう」

「そうね」

「ここから先も敵はキメラが殆どだよ。狼頭のキメラみたいに手強いのもいるかもだから、気を引き締めていこう」


 パタパタと宙を舞うアルマリオスを見上げ、一行は頷きを返した。


 その後も、微妙だったり、手強かったりするキメラを倒しながらリーファ達は探索を進めた。

 Sランクパーティーとの共闘は、駆け出しのリーファはもとより、ベテランのクライブにとっても勉強になる事が多かった。

 基本、長くパーティーを組んだ冒険者は特別な理由がない限り、メンバーが抜けたり新人を入れたりする事は少ない。

 それはリズムや呼吸といった物があるからだ。


 長年、生死を共にする事で培われる阿吽の呼吸。

 自分がこう動けば、仲間はきっとサポートに回ってくれる。

 そんな信頼がチームプレイを生み出す。


 そういった訳で、戦術等はパーティーごとに独自の物が生まれていたりする。

 メンバー以外には共有されない、しかもSランクの戦術を見れるのはリーファ達にとって貴重な経験だった。


「魔女ベルサが命じる、水と土の精霊よ、我が敵の足を絡め取れ、泥濘の大地(マッドグラウンド)ッ!!」


 ベルサの魔法で熊の体と蛇の頭と尾を持つキメラの足が、即席の泥沼に絡め取られる。


「あんたは左足を、私は右足を飛ばす!」

「了解だッ! リーファは頭をッ!! ゴダック、かち上げろッ!!」

「分かりましたッ!!」

「おうッ!! ……フンッ!!」

「やりますッ!! えいッ!!」


 サフィとクライブが泥沼にはまった蛇熊の背後から、後ろ足を聖剣で断ち切る。

 直後にゴダックがシールドバッシュでキメラの上半身をかち上げ、尻もちを突き高く上がった首をリーファが飛んで叩き斬る。


 そんな風に徐々に連携も取れて来た頃、一行は見覚えのある扉の前へと辿り着いた。


「……なんだかここの扉は小さいな」


 思わずつぶやいたクライブの言葉が示す通り、作り自体はこれまでと同様、頑丈な金属製の二枚扉だったが、大きさは三メートル程だった。


「うーん、元々、錬金術師の自室だった部屋だからねぇ。その関係で扉は小さく作られたのかな?」

「中も狭いんですか?」

「それは分かんないけど……ともかく開けてみようか?」

「了解です」


 リーファは因縁深い生贄の祭壇に昇り、聖剣を抜くと刃に指を滑らせた。

 血が指先から滴り落ち、祭壇を濡らすと程なくゴゴゴゴと音を響かせ扉が開いていく。


「本当に犠牲無しで扉が……」

「…………レナとエリナ……二人を生贄にしなくて良かったわ」

「……そうだね。ホントによかった」

「……善なる神が少女に犠牲を強いるなど、よくよく考えればない筈なのに……」


 ほんの数滴の血で扉が開いた事で、ゴダックは驚きを、ベルサとサフィはホッとしたような笑みを、ニーダンスは過去を悔いるような表情を見せた。

 そんな一行の先、扉の奥にはリーファに似た角を持つ、異国風の服を着た白髪の青年が金の瞳をこちらに向けていた。

 その頭には金色の青い宝石で装飾された額当てが輝いており、だらりと伸ばした右手には長剣が握られている。


挿絵(By みてみん)


「守護竜じゃ無くて人?」

「天井も低いし、人形態で戦うつもりみたいだね」


 扉の先の部屋は錬金術師バーガンスの私室をそのまま流用したようで、家具等は置かれてはいなかったが竜が動き回るには天井が低かった。


「アレってもしかしてアルマリオスさんなんですか?」

「うん。隠し部屋でいる時の格好だね」


 ベルサは人の姿のアルマリオスを見て微笑みを浮かべる。


「けっこういい男ねぇ」

「ベルサ、浮気? ならアルベルトは私がもらっていい?」

「あら、私は客観的な意見を言っただけよ」


 即座にサフィが反応するが、ベルサは笑顔のまま言葉を紡いだ。


「私はあの額当てが気になりますね。ここの武具は転移の兜(シフトオブヘルム)。もしかするとあれがそうなのかもしれません」

「短距離転移か」

「ええ……背後を取られないよう、皆さん気を付けて下さい」


 ニーダンスの言葉に一行は頷きを返し、これまで通り、ベルサとニーダンスの筋力増強と守りの魔法を全員に施し、人の姿の守護竜の待つ錬金術師の私室に足を踏み入れた。


「ガアアアアアッ!!」


 守護者は人の姿はしていたが以前戦った守護竜と同様、呪いによって理性が飛んでしまっているのか雄叫びを上げてリーファ達に襲い掛かってきた。



■◇■◇■◇■



 リーファ達が人の姿の守護竜と戦っていた頃、何処とも知れない薄暗い石造りの街の中で聖王冠のリーダー、アルベルトは生き延びる為、魔剣を振るっていた。


 アルベルトを攫ったスケルトンな忍び、迅雷のローザは自分を魔王にすると言っていた。

 リーファ・ブラッドだと名乗ったあの竜人間(ドラゴニュート)の言葉が真実なら、このまま聖剣、いや魔剣を使い続ける事はマズい事は彼自身にも分かっていた。

 だが装備は剥ぎ取られ、いつの間にか着せられた可変甲冑、聖者の衣と魔剣に頼らなければ、早晩、魔物に狩られてしまう事は必至だ。


「僕は……僕はこんな所で死ねない……魔王を……魔王を倒して平和な世界を……その為には力が……そうだ、力さえあれば……」


 いや違う、力が必要なのは魔王討伐の為であって、力自体は目的じゃないッ!


 首を振り、心の底から湧き上がる力への渇望を振り払う。

 恐らくこれがリーファが言っていた心に魔を宿すという事なのだろう。


「僕は負けないッ!!」


 自分を鼓舞する為の声を上げ、アルベルトは暗がりから現れたオーガを両断した。

 その様子を金髪でマイクロビキニのスケルトンは満足そうに建物の上から眺めていた。


「流石、今世の勇者、魂の強さも一流ねぇ。でも無駄よ……私の勇者も最後には力への渇望に飲まれた……あなたもいずれそうなるのよ……」


 戦い、魔物の、魔族の血を浴びれば浴びる程、ローザの仕えた放浪騎士ルザムは変わっていった。

 それは邪神の武具を得る事で仲間にも伝播していった。

 ローザ自身もやがて力を求め、その力で敵を屠る事に喜びを覚える様になっていた。


 そうしているうち、自分の肉体さえ重く遅いと感じる様になってしまった。

 だから仲間の魔法使い、大魔導士のラムザスに頼みその身を肉を持たないスケルトンに変えたのだ。


「私達じゃ、大陸を制覇する事は出来なかった……フフ、でもあなたなら魔王ルザムを超え、この大陸、いえ世界を手に入れられる筈……」


 生き延びる、ただその為だけに剣を振るうアルベルトをローザはうっとりと見つめていた。

お読み頂きありがとうございます。

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