狼頭の合成獣
迷宮の番人だと思われる狼の頭のキメラ。
これまでリーファ達が戦って来たキメラと違い、その体は様々な生き物が混じり合ってはいても調和が取れており、美しく感じられた。
その美しい合成獣は広間に足を踏み入れると、いきなり虎の足で跳躍、前に出たゴダックに襲い掛かった。
ゴダックは上段から打ち下ろされた斬撃を構えた大楯で受け止める。
「グオンッ!!」
「ググッ、重いッ……オラッ!!」
ゴダックは受け止めた大剣を気合と共に大楯で弾く。
狼頭のキメラはその反動と共に後ろに自ら飛び間合いを取った。
無機物でも有機物でも言える事だが、形の美しさは合理性の現れでもある。
いわゆる機能美を備えている者は、総じて性能が高く強いのだ。
聖王冠の魔女、ベルサはいつか師が言っていた話を思い出していた。
「ニーダンス、全力で行きましょう。あなたは防御魔法を。私は筋力増強を前衛に飛ばすわ」
「了解です。全ての神の長である偉大なる至高神ゼファルよ、神の子たる者達に守りの加護をッ!!」
「魔女ベルサの魔力を以って、我が戦士たちに一時の大力を、筋力増強!!」
ニーダンスとベルサの魔法が前衛のリーファ達を包み、神の防壁と湧き上がる力を彼らに与えた。
「よっしゃッ、まずは俺に任せろ。お前らは俺が攻撃を防いでいる隙に奴の攻撃パターンを掴め。フンッ!!」
ゴダックは後ろに並んだサフィ、クライブ、リーファに視線をチラリと向けると、盾を翳しオーラシールドを展開した。
「了解よ。クライブだったわね?」
「ああ」
「あんたと私はサンドワームの時と一緒で、相手の死角を狙うわよ」
「了解だ」
「お嬢ちゃんは攻撃のタイミングがあれば仕掛けてちょうだい」
「お嬢ちゃんは止めて下さい。でも分かりました」
全員の呼吸が揃った所で、キメラは再度ゴダックに肉薄、大剣をショートソードの様に扱い連撃を加えていく。
「ガァア!!」
「ハッ!!」
キメラの咆哮とゴダックの気合の声が響く中、クライブとサフィは左右に別れ駆け出し魔物の死角に回る。
リーファもゴダックが展開したオーラシールドから飛び出し、隙を見て右手から攻撃を仕掛けた。
「えいっ!!」
冒険者ギルドの熱血教官、シュウゾから学んだ横凪ぎをキメラは手にした大剣で受け流し、それを見てゴダックが突き出した聖剣を左手の丸盾で弾いた。
「チッ、こいつ結構やりやがるぜ」
ゴダックの言葉に後ろに飛んで間合いを開けたリーファは頷く。
現在二人が使っているのは聖剣ロクニオスだ。頑丈な悪魔の皮膚も切り裂けるその斬撃を、キメラは武具のダメージを最小にする形でしのいでみせた。
狼頭のキメラは膂力のみならず、技量の高さも持ち合わせているようだ。
「ならこれはどう? 魔女ベルサが命じる、土の精霊よ、大地の力を以って我が敵を貫け、大地岩槍ッ!!」
地面から生じた岩の牙がキメラを飲み込もうと顎を向ける。
合成獣は、その飛び出した岩の牙を後ろに飛んで躱すと、今度は前に跳躍し牙の上を駆け更に飛んだ。
「何ッ!?」
キメラはゴダックの展開したオーラシールドを飛び越え、その勢いのまま後列のベルサに迫る。
「クッ、魔女ベルサの」
ベルサは咄嗟に詠唱を始めたが、キメラの四本の足は詠唱が終わる前に彼女を間合いに捉えた。
「「ベルサッ!!」」
「させませんッ!!」
ゴダックとニーダンスの叫びに被って少女の声が洞窟に木霊する。
「魔竜疾風脚ッ!!」
第四形態、足を竜に変えたリーファの蹴りが大剣を振りかぶったキメラの下半身、虎の脇腹を抉った。
「ガアアアアッ!?」
弾き飛ばされたキメラの巨体が壁に激突し岩の広間を揺らす。
「ふぅ……大丈夫ですか?」
「え、ええ……あ、ありがとう」
聖者の衣を突き破り伸びる鋭い爪の生えた竜の足を見て、ベルサは戸惑いつつも目の前の異形の少女に礼を言った。
飛竜になった時も便利だと言っていたが、この娘は本当に気にしていないのだろうか。
「グググッ……ガアアアアアッ!!!!」
一時、戦いを忘れリーファの体の事を考えたベルサの意識を、キメラの咆哮が呼び戻す。
戦闘中に何をッ!? 我に返り杖を構えたベルサの横を疾風が駆け抜ける。
銀の甲冑から伸びた白い鱗に覆われた足が向かう先では、二人の盗賊が魔獣に波状攻撃を仕掛けていた。
「こいつ、よくもベルサをッ!!」
「オーラシールドを飛び越えるのは想定外だぜッ!!」
大剣でクライブの、丸盾でサフィの斬撃を捌きながら狼頭のキメラは足を止めていた。
そのキメラの懐に小さな影が滑り込む。
「魔竜昇破斬ッ!!」
下段から真っすぐに切り上げた斬撃と共に、リーファは竜の足に溜めた力を一気に爆発させた。
竜化した足と腕の力、内部で爆発させた息吹力、その力を魔力を使い制御し、一点に集中させ飛ぶ。
クライブとサフィに気を取られていたキメラは、その必殺の一撃への対応に一瞬遅れた。
それがキメラの命運を決めた。刃は熱したナイフでバターを斬る様にキメラの体を抵抗なくすり抜けた。
体の真ん中で二枚に下ろされたキメラは、四本の虎の足を振るわせて暫く立っていたが、やがて足を折り、静かに胴体を床に横たえる。
「……やった?」
「……ああ……でかしたリーファッ!!」
「やるじゃないッ!」
キメラが死んだ事を確認し、サフィとクライブは顔を見合わせリーファに賞賛の声を上げた。
二人がリーファが飛んだ天井を見上げると、鎧を着た人影が何やら天井近くで藻掻いている。
「何やってんだ、リーファ!? さっさと降りて来い!」
「たっ、助けて下さいッ!! つ、角が天井にッ!!」
「えぇ……技の名前まで叫んどいてそれなの……」
「……あいつはいつもあんな感じだ。ロープで引っ張ってやるから、お前は聖剣で天井を抉って崩せ! 」
「わ、分かりました!」
クライブは苦笑を浮かべると、ポーチからフック付きのロープを取り出した。
お読み頂きありがとうございます。
面白かったらでいいので、ブクマ、評価等いただけると嬉しいです。




