錬金術師の研究所
リーファ達はアルベルトに斬られたレナと新たな奴隷少女、エレナをホテルに残し、邪神の武具があるという錬金術師バーガンスの研究所へと向かった。
リーファが第三形態になり、聖王冠を乗せた荷箱をロープで支える形で南南西、リデノ山脈へと飛ぶ。
ちなみに第三形態の飛竜の時は、聖者の衣は鞍の形にしていた。
サフィとクライブは動きを阻害せず、音の少ない軽装鎧の形に、ゴダックはこれまで着ていた合金製の鎧と同じく、全身を覆う物をチョイスしていた。
どうも聖者の衣は微小ゴーレムの接合の強さによって、その硬度を変えるらしく、それにより触り心地等も変化する様だ。
「うぅ……俺は背中が良かったのに……もしロープが切れたら……」
その聖者の衣を全身鎧に変えた戦士のゴダックは、高い所が苦手らしく箱の縁を握る手は強張り顔も青ざめていた。
「情けないねぇ。このまま私達の名声が上がれば、いずれ飛空船にも乗るっていうのに」
「飛空船はこんな即席な作りじゃねぇだろッ!?」
以前も出た飛空船は文字通り空飛ぶ船で、古代魔法王国時代に作られたアーティファクトだ。
ほとんどの飛空船は国が所有しており、民衆の声が高まり勇者と認められた場合、国同士の話し合いで貸与される。
聖王冠は民衆からの支持は高いが、如何せん、パーティーを結成して一年という事もあり、まだ飛空船を貸与されるまでには至ってはいなかった。
「ふぅ……速いのはいいけど、お尻は痛いわねぇ」
荷箱は学園都市ルードネルで調達した魔道具の輸送に使われる頑丈な箱だ。
当然、輸送なので居住性等は考えられていない。
ちなみに誰が箱に乗るかはくじ引きで決め、リーファの背にはクライブとニーダンスが乗る事になった。
「すいません、もうすぐ着くので辛抱して下さい」
三人の会話を聞いていたリーファが声を掛けると、ゴダック、サフィ、ベルサの三人はリーファを見上げ微妙な顔をしていた。
一度、砂漠で飛竜になったリーファを見ているとはいえ、やはり人型から竜に変化するのは驚いたようだ。
「……あなた、元人間なのに、そんな風になっちゃって平気なの?」
「まぁ、人に近い姿は取れますし、便利だからいいかなぁって……」
「便利って……暢気な奴」
「……自分の体や顔が変わっても便利で済ませられるんだから、案外、器がデカいのかもな」
相変わらず箱の縁を握り締めたゴダックが、引きつった笑みを浮かべながら呟く。
一方、リーファの背中ではクライブとアルマリオス、ニーダンスの三人が情報を共有していた。
「研究所にある武具は転移の兜です。訪れた事のある場所へ瞬時に飛べる他、短距離の転移を使いこなせば奇襲にも使える優れものです」
「短距離転移か……バックスタブし放題だな」
「盗賊の貴方ならそうなるでしょうね」
「迷宮に捕らわれてる僕の魂の一つに聞かないとだけど、多分、兜にも呪いが掛かっているはず。まずはアルベルトの行方と呪いを解く事を次の目標にしよう」
呪いと聞いてニーダンスの顔が歪む。
自分が勇者だと信じたアルベルト、彼の見る夢は正に至高神の啓示だとニーダンスは感じていた。
それが全て邪神の企てた事だったとは……。
至高神の僕として生きて来た彼にとって、知らなかったとはいえ、邪神の計画の片棒を担いでいた事は耐え難い屈辱だった。
「必ず邪神の企てを阻止し、至高神、ゼファル様の使徒としての責務を全うせねば……」
「ふぅ……善神の僕はいつの時代も真面目だねぇ」
「違いねぇ」
背後でボソリと呟いたニーダンスの言葉に、アルマリオスとクライブは顔を見合わせ苦笑を浮かべた。
そんな感じで五人と一匹を乗せたリーファは、何とか無事に錬金術師バーガンスの研究所へと辿り着く事が出来た。
研究所の入り口は自然の洞窟と変わりなく、冒険者ギルドが立てたのだろう看板が無ければ内部に人の手が入っているとは思えない。
「えっと、錬金術師バーガンスの研究所、内部にはキメラが徘徊しておりますので、初心者の探索は禁止されています」
「キメラといえば、中級以上、最低でもCランクはねぇと厳しいからな」
「え、私、Eランクですよ」
「あんたはサンドワームを一撃で真っ二つにしたじゃない。ランクの話は意味無いよ」
サフィは肩を竦め苦笑を浮かべている。
「それじゃあ、案内は僕に任せて、最短距離で最下層、バーガンスの部屋を目指すとしようか」
「……ねぇ、説明はされたけど、このチビ竜はホントに頼りになるの?」
サフィはパタパタと飛びながら洞窟の入り口を指差すアルマリオスを見て、クライブに尋ねる。
「ああ、大墳墓じゃしっかり案内してくれたぜ」
「……私達は真面目に探索して最下層まで行ったのに、あなた達にはマッパーがいた訳ね」
ベルサはずるいとプクッと頬を膨らませた。
そんなベルサを見てゴダックは思う。
アルベルトと一緒に冒険していた時は、彼の使命感に引っ張られゴダック自身もストイックになっていたし、パーティーの仲間、サフィ、ベルサ、ニーダンスも何処か張り詰めたモノがあった。
そんなだから、駆け出しを犠牲にすると言ったアルベルトの言葉も、人族の為なら仕方ない事だと受け止められた。
だが、リーファ達は何処か能天気で……。
「気が抜けちまうよな……」
「何か言いましたか、ゴダック?」
「何でもねぇよ。それよりさっさとお宝を頂いて、アルベルトの居場所を占ってもらうとしようや」
「そうですね」
神妙な顔で頷いたニーダンスに頷きを返し、ゴダックは聖剣と大楯を構え、先行するアルマリオスと二人の盗賊を追いダンジョンへと足を踏み入れた。
■◇■◇■◇■
リーファ達から聖王冠に手渡された聖剣ロクニオスと聖者の衣の性能もあり、探索は問題無く進んだ。
現れるキメラの数は多かったが、Sランクの冒険者である聖王冠のサポートは流石に優秀で、リーファとクライブは次々にキメラを狩っていった。
研究所にはクライブが言っていた様に様々なキメラがいた。
羊の体にサソリの尾を持ち、四肢は虎、顔は猫の物、上半身は人で下半身は蟻の物、山羊、虎、狐と三つの頭に六本の足を持つ物など、どこかアンバランスで生き物として狂っている様にリーファには感じられた。
……いってみれば、私も人と竜のキメラという事になるのでしょうか……。
同じく混じり合った存在を斬りながら、リーファが歩を進めていると、先頭を行くアルマリオスが口を開いた。
「そろそろ半分って所かな……この先には番人がいる筈だよ」
「番人か……」
「うぅっ、なんだか嫌な予感が……」
「だ、大丈夫だリーファ! 奴は大墳墓の中ボス! ここにいる訳ねぇ!」
「ですよねッ!」
吸血鬼の事を思い出し、顔を引きつらせるリーファ達を見て聖王冠の面々は首を傾げる。
「大墳墓に番人なんていた?」
「いや、あそこにゃ、そういうのはいなかった筈だが……」
「アンデットは私が出会い頭に浄化してましたから、気付かなかったのかもしれませんね」
「やっぱり、メンバーのバランスは大事って事かしら……」
あの吸血鬼に出会っていない様子のサフィ達の事を、リーファは羨ましく思った。
彼女はロクニオスを振るたび、未だに吸血鬼の局部が頭に浮かぶのだ。
「と、ともかく、気を引き締めていきましょう」
「だな」
リーファとクライブが吸血鬼の事を考え、ダンジョンを進んでいると一行は開けた場所に辿り着いた。
「あれが番人か……これまでの奴とは完成度が違いそうだ」
聖王冠の盾であるゴダックは、そう言うと最前列に移動し現れた虎の下半身に逞しく鍛えられた人の上半身、左手には金属の丸盾、右手には大剣を装備した狼の頭の魔獣に盾を翳した。
そんなゴダックの横でリーファは番人がアレじゃ無くて本当に良かったと胸を撫でおろした。
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