今後の事
不死忍団団長、迅雷のローザ。
そう名乗った金髪のスケルトンに、勇者アルベルトを目の前で攫われたリーファ一行と聖王冠の面々。
彼らは窓ガラスが散らばったスイートルームで、茫然とスケルトンが消えた夜の闇を見つめていた。
やがて影縛りの効果は解けたが、聖王冠の面々は言葉無く床にしゃがみ込んでいた。
「ふぅ……最初に奴の目が光ったので暗示を掛けられたみてぇだな」
「急に体が動かなくなってビックリしました」
「……僕らが邪神の計画を邪魔してたから、あんなのが出て来たんだね……」
「……いよ……あんた達の所為よッ!! あんた達が余計な事しなきゃ、アルベルトが攫われる事は無かったッ!!」
リーファ達の話を聞いていた盗賊のサフィが、突然立ち上がり顔を歪め叫び声を上げる。
「止めなさい、サフィ。確かにアルベルトが攫われたのはこの連中が原因だけど、あのまま夢に従っていたら、私達全員が魔族に取り込まれていたわ」
「でもッ!!」
自分に向き直り、眉を寄せるサフィをベルサは優しく抱きしめた。
「何よッ、止めてよッ!!」
「アルベルトが心配なのはあなただけじゃない……だから、今後、どうするか相談しましょう」
「ベルサ…………分かったわ……」
「確かにベルサの言う通り、今後の事を考えないといけません……あなた方も協力して頂けますね?」
ニーダンスが立ち上がり、リーファ達に視線を向ける。
その視線は鋭く、お願いという形ではあったが、断ればこの場での対決の持さない覚悟が見て取れた。
「……はぁ……とてもお願いって顔じゃねぇな……」
「我々もアルベルトを魔族に奪われて焦っているんですよ」
そう言ったニーダンスの細い目の奥は笑ってはいなかった。
「まぁまぁ、ニーダンス、そうピリピリすんなよ……あー、盗賊の兄ちゃん」
「クライブだ」
睨み合っていたニーダンスとクライブの間に割って入ったゴダックは、クライブが抱えたままだったレナに視線を向ける。
「んじゃ、クライブ。レナを寝室で寝かせてやんな。エリナ、お前、その子を看病してやれ」
「う、うん、分かった。ついて来て」
ゴダックの言葉でエリナは青白い顔のレナに気付き、クライブを手招きしてリビングを後にした。
「すぐ戻る」
「はい」
クライブはリーファに耳打ちしてレナを抱き上げエリナの後に続いた。
部屋に残ったのは、リーファとアルマリオス、そして聖王冠の面々だ。
「……魔女ベルサが命じる、大空を旅する風の精霊シルフよ、我らを害するモノを吹き飛ばしておくれ」
ベルサが右手を掲げ詠唱を口にすると、割れた窓から吹き込んだ風が旋風を巻き、ソファーや床に散らばったガラスを全て巻き上げ、そのまま、窓から吹き抜け飛び去った。
「精霊魔法と言語魔法の融合だね……流石Sランク」
「お世辞はいいわ」
自らが掃除したソファーに腰かけながら、ベルサはリーファ達に座る様に顎を振って促す。
スツールに腰かけ睨むサフィと、ベルサの後ろに立ち鋭い視線を向けるニーダンス。カウンターの椅子に腰かけ、肘を突き掌に顎を乗せこちらを眺めているゴダック。
三人に視線を巡らせつつ、リーファはベルサの前のソファーに座った。
「単刀直入に聞くわ。守護竜さん、アルベルトの居場所に心当たりは?」
武具の守護を行っていた守護竜なら魔王軍の内情にも詳しいのでは、ベルサはそう考えたのだが……。
「うーん……僕に聞かれてもねぇ……そうだッ! 失せモノ探しが得意な知り合いがここから南西、リデノ山脈の社に住んでる。彼女に聞けば勇者の居場所も分かる筈だよ」
「失せモノ探し……占い師か何か?」
小首を傾げたベルサに指を立てたアルマリオスは続ける。
「占い師っていうか、地上に住む神の一人で、占いが趣味なんだ」
「趣味って所が引っ掛かるが、神様の占いか……当てにして良さそうだな」
ゴダックはそう言って笑みを浮かべたが、リーファはアルマリオスの知り合いの神と聞いて余りいい予感はしなかった。
「アルマリオスさん、その神様ってどんな人なんです?」
「うん? 牛の化身で、リーファと同じで頭に角の生えた女の子だよ」
「その人は人から狙われたりしてないですよね?」
「多分、大丈夫だと思うけど……」
多分……。本当に大丈夫だろうかとジト目でアルマリオスを睨むリーファを見て、ベルサが問いかける。
「何か気になる事があるの?」
「気になると言うか、これまで会ったアルマリオスさんの知り合いは、みんな心に闇を抱えてて、その解決が凄く大変だったんです」
「心に闇ねぇ……」
「ともかく、他に当ては無いんだ。その女神様に会いに行くとしようぜ」
ゴダックが今後の方針を決めようとした所で、レナを寝かしつけたクライブが部屋に戻ってきた。
「あの子の様子はどうなの?」
「今は眠ってる。あんたの薬のおかげか顔色も戻って来たぜ」
レナについて尋ねたベルサにクライブはそう言って笑みを返した。
「そう、それは良かった」
「それで、今後の予定は?」
「チビ竜の知り合いの神様にアルベルトの居場所を占ってもらうわ」
「アルマリオスの知り合いかよ……」
「今度は大丈夫だよ。多分」
先程のリーファと同様、ジトッとした目を向けたクライブにアルマリオスはいつも通り軽く返した。
■◇■◇■◇■
その後、クライブも交えた話合いによって、錬金術師バーガンスの研究所経由で神の住む社へ向かう事が決まった。
聖王冠は一刻も早くアルベルトを取り戻したいと主張したが、今のままではローズに太刀打ちできないとクライブは新たな武具を入手し、戦力強化を図るべきだと訴えた。
その際、地上に住む神の力を借りれば、武具に掛かった呪いも解ける事を説明し、リーファは女神が浄化した聖剣ロクニオスをゴダックとサフィに差し出していた。
「こんなに何本も聖剣があると、なんかありがたみがねぇなぁ……」
「呪いは解いていますし、剣としての力は確かですから……」
「邪神が用意した武器で邪神の手先を倒す……少し複雑な気持ちになるわね」
リーファが聖剣を聖王冠に手渡したのを見て、クライブも残っていた聖者の衣の二つをポーチから取り出した。
「こいつも使うといい。話してた魔術医に浄化してもらったから、呪いは解けてるぜ」
「はぁ……本来ならアルベルトが着る筈だったのですが……ゴダック、サフィ、あなた達が使って下さい」
司祭のニーダンスは前衛である二人に衣を使う事を促した。
魔女のベルサもそれに同意し頷きを二人に返す。
「……聖剣も衣もアルベルトが戻れば彼に渡すわ。それでいいわよね?」
サフィは今まで色々あったリーファ達と協力する事に割り切れないモノを感じつつも、アルベルトの為だと不満を飲み込み言葉を紡いだ。
「ええ、それで構いません……アルベルトを奪還した後、新たに手に入れた武具についても呪いを浄化したモノを使って貰えるなら、私はそれでいいです」
「……あんたさぁ、あの駆け出しなんだよねぇ?」
髪や瞳の色は自分達が生贄に捧げた少女と同じだが、顔つきが変わっており、サフィにはどうしてもイコールにならなかった。
「そうです」
「あのさ……恨んでない訳?」
「……勿論、恨みはあります。あなた達は私の命を唯の鍵として使った。レナや新しい奴隷の子も同様に生贄にしようとしていた……それについては怒りもあります……でも……だけど……」
言葉に詰まったリーファを見て、クライブは言葉を引き継いだ。
「こいつはお人好しなのさ。だからレナも助けたし、自分を殺そうとした勇者様も何とかしようとしてた……それによ、魔王が倒れて平和になるなら結果オーライだろ?」
「……いい加減な男…………でもそうかもね」
ベルサはそう言うと、少し呆れた様子で微笑んだ。
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