金髪でマイクロビキニ
「レナさんッ!?」
「レナッ!?」
魔剣はレナが着ていた聖者の衣を変化させた服を切り裂き、彼女の胸に深い傷を刻んだ。
血が噴き出しアルベルトを真っ赤に染めていく。
そのまま膝から崩れ落ちたレナを、飛び出したクライブが抱きとめる。
「あ、アルベルトさま……」
「あ、ああ……僕は……違う、僕の所為じゃない……君は邪神の手先だから……」
クライブの腕の中、弱弱しく手を伸ばすレナを見て後退りながら、アルベルトは何度も首を振る。
「リーファ、早く治癒魔法をッ!!」
「はいッ、アルマリオスの魔力を以って、獣人レナの傷を癒せ、治癒ッ!!」
自分の行為は正しいのだと無理に思いこもうとしている様に見えるアルベルトを横目に、リーファは治癒魔法を唱えたが失った血が多かった為か、傷は癒えてもレナの顔は青白いままだ。
「アルベルト……お前……」
「そんな……勇者が何の意味も無く少女を手にかけるなんて……」
ゴダックは絶句し、司祭のニーダンスはアルベルトの凶行に顔面を蒼白にしている。
「違うッ! レナはこいつ等の、邪神の手先の仲間なんだッ!」
「邪神の手先って……この子はただの奴隷ですばしっこいだけの獣人じゃない……」
そう言ったサフィを含め、聖王冠の面々はアルベルトの予知夢を信じていた。
だからリーファを平和の為に生贄に捧げた事も、レナやエリナを生贄にしようとした事も、仕方ない事と割り切ってはいた。
しかし、目の前で起きた事は、アルベルトの身を案じ駆け寄った少女を無残に切り捨てただけだ。
「これを飲ませなさい、造血作用があるわ」
ベルサは安楽椅子から身を起こし、鞄から水薬を取り出しクライブに手渡す。
「……助かるぜ」
薬を受け取ったクライブがレナに水薬を飲ませるのを横目に見ながら、ベルサはアルベルトに尋ねる。
「アルベルト、どうしてこの子が邪神の手先だと思ったの?」
「それは声が……神の声がそうだと……」
「神の声……それは多分邪神の声だよ」
「そんな筈は無いッ!! あんなに神々しくて優しく穏やかな声が邪神な筈が……」
アルマリオスの言葉を聞いたアルベルトは、激しく首を振り金髪を振り乱す。
「……アルベルト、私が知る限り、これまでの歴史の中で善なる神が、僕である我々に直接語りかけた事はありません。神はただ往くべき道を示し、その道を往くかの選択は常に我々に委ねられているのです……そして、言葉により我らを惑わすのは魔界の者……邪神や悪魔だけなのです」
そう言って至高神の司祭ニーダンスは哀し気にアルベルトを見つめた。
「そんな……」
「ねぇ、ニーダンス。そこのチビ竜の話は本当って事?」
「信じたくは無いですが、アルベルトが声を聞いたというなら恐らく……今まで私自身、何度も神の意思の様なモノは感じましたが、それを声と認識した事はありません……」
「……マジで邪神がアルベルトにちょっかい出してんのかよ……」
「ニーダンス、どうにかならない?」
ベルサの問い掛けにニーダンスは静かに首を振る。
「至高神は偉大ですが、地上での代行者は人。邪神の干渉を振り払うまでの力は……」
「ねぇ、勇者を邪神から切り離したいなら、いい医者がいるんだけど」
口を挟んだアルマリオスを聖王冠の面々が見返す。
「医者ってもしかしてエラリオンさんですか?」
「うん、彼の再生と浄化の炎なら、きっと邪神の干渉も排除出来る筈だよ。今まではこんな風に腹を割って話す機会が無かったから、言うタイミングは無かったけど」
「なんだよ、そのエラリオンってのは?」
「えっと、凄い魔法医でどんな病も、それは呪いでさえ浄化出来る」
アルマリオスが小さな人差し指を立てて、説明を始めた時だった。
『そんな事されちゃあ、困るわねぇ』
ハスキーな声が響き、リーファ達がいたスイートルームの窓が一斉に弾け飛んだ
「なっ、何だッ!?」
「とにかく下がるんだッ!」
部屋にいた者、そのほとんどが冒険者だった事もあり、クライブはレナを抱え後ろに下がり、他の者達も破壊された窓から離れ身構え武器を構える。
そんな冒険者達の前に一体のスケルトンが姿を見せた。
「勇者様、今の音はッ!? って……」
部屋にいた者プラス、音を聞きつけ部屋に駆け込んで来たエリナも含めた全員が茫然とスケルトンを見つめていた。
そのスケルトンはキワドイ衣装 (マイクロビキニ)に赤いマフラーという出で立ちで、吹き込む風に豊かな金髪をなびかせていたのだ。
『やだぁ、いくらあたしがセクシーだからって、そんなにじっくり見ないでくれる。恥ずかしいからぁ』
「……あの、今、シリアスな場面なんで、面白要素はちょっと……」
リーファが聖剣を構えつつ、ツッコミを入れるとスケルトンはフフフッと小さく笑いを零した。
『あら、あたしはいつだってシリアスよ……自己紹介して無かったわね。あたしは魔王軍の不死忍団団長、迅雷のローザよ。よろしくねぇ』
「迅雷のローザですって!? それって先代勇者のッ!?」
『やだぁ、あたしの事、知ってるのぉ!? キャーッ、サインいるぅ!?』
ベルサが珍しく驚いた様子を見せると、ローザは両手を組んではしゃいでみせた。
迅雷のローザ。アルベルトの一代前に勇者と言われた、放浪騎士ルザムと共に幾多の魔物を倒した伝説の忍びだ。
ローザは速さの為に極力衣服を纏わず、いつも限界ギリギリな衣服で戦っていたらしい。
『うふふ、あたしの事、覚えてる人がいてくれて嬉しいんだけど、今は任務を優先するわねぇ』
そう言うとローザの真っ暗な眼窩に怪しい赤い光が揺る。
その光を見た全員が軽いめまいを覚えていた。
「うぅ、頭が……」
それを確認したローザはその後、腕を振って何かを投擲した。
何かはリーファ達の影に突き立ち金属の煌めきを放つ。
「えっ? か、体が動きませんッ!?」
「グッ、こいつは影縛りかッ!?」
影縛り、忍びの技の一つで影に特殊な針を放ち、その身を縛る物だ。
クライブも詳しい事は知らなかったが、針により体の動きを制限させたと錯覚させる催眠術の一種だと聞いた事があった。
「畜生ッ!! 催眠術なら体は何ともない筈だろッ、クソッ動けよッ!!」
『あら、黒髪の盗賊君は物知りねぇ……でも無駄よ、あなた達はもう動けない……悪いんだけど、勇者君には次の魔王になってもらわなきゃ困るのよ。じゃないとルザムが何時まで経っても引退出来ないからね……』
ローザは世間話でもする様な口調で動きを封じたアルベルトに歩み寄り、顔を覗き込み頬に手を伸ばす。
「クッ、僕に触れるなッ!!」
『つれない事言わないでよ……フフッ、可愛い顔してるじゃない……昔に戻れたら一晩ご一緒したかったわぁ』
「何言ってるのよッ、このクソスケルトンッ!! アルベルトから離れなさいよッ!!」
憤るサフィにチラリと視線を送ると、ローザはアルベルトの首筋に何処からか取り出した針を突き立てた。
「うっ……」
ローザが刺した針の効果か、アルベルトは意識を失い床に崩れ落ちる。
「アルベルトッ!?」
「ググッ、我が勇者をどうするつもりです?」
『フフフッ、そこのお嬢ちゃんと逃げ出した竜王の所為で計画がおかしな事になっちゃったから、あたし達で無理矢理進める事になったの』
そう言うとローザは床に倒れたアルベルトを肩に担ぎ上げた。
「無理矢理って、まさかアルベルトを魔王にする気ですか!?」
『ええ、本当はあなた達、勇者の仲間も魔王軍の幹部になってもらうつもりだったけど、この状況じゃあ贅沢は言ってられないから……んじゃあねぇ』
ローザは後ろ手に手を振って現れた時と同じく、破壊された窓からその身を躍らせた。
「待ちなさいよッ!! アルベルトを返してッ!!」
サフィの声が魔導灯に照らされた学園都市の空に、虚しく木霊した。
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