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嘘も方便

 呪いの解けた可変甲冑、聖者の衣をリーファ、クライブ、レナの三人が身に着けて変形を試していると、屋敷の火が雨で治まったのを見た老執事ほか、屋敷の使用人達がリーファ達に向かって駆けよって来た。


「いっ、一体、何が起きたのですか? それにその方は……」


 使用人を代表して老執事は、事件の全容を知るだろうリーファ達に、見慣れない青年にチラチラと視線を送りながら問い掛ける。


「あー、それはだなぁ……お前達の主人は隷属の首輪で不死鳥(フェニックス)を縛っていたんだ。それがバレそうになって奴は俺達に不死鳥(フェニックス)をけしかけた」

不死鳥(フェニックス)を隷属ッ!? 神の鳥を旦那様がッ!?」

「ああ、俺達は不死鳥(フェニックス)と戦いながら何とか隷属の首輪を解除した。それを見た奴はトンズラこいたって訳さ」

「……ではその方は……?」

「こいつは不死鳥(フェニックス)のエラリオン」


 平然と嘘を話し、エラリオンの正体を告げたクライブを、リーファもレナも目を丸くして見つめるしか出来ない。


「フェ、不死鳥(フェニックス)ッ!?」

「クライブ、それは」


 冒険者をけしかけられた過去を持つエラリオンを気遣い、アルマリオスがクライブを止めようとするが、彼は片手を上げてアルマリオスを制した。


「なぁ、お前ら、今の職を失いたくねぇよな?」

「それは……私はこの年ですからともかく、他の者は……」


 老執事が使用人達に目をやると、全員、不安そうな顔で頷きを返している。


「だったら、こいつが不死鳥(フェニックス)って事は秘密にしとけ、んで、そのままコイツに医者をやってもらうんだ」

「伝説の鳥にこのまま……」

「おう、そしたらこいつは冒険者に命を狙われなくて平和に暮らせる。お前らも職を失わずに平和に暮らせる……どうだ、悪くない話だろう? それにこいつ、平和に暮らせないなら天に還るって言ってるしよぉ」


 クライブはそう言ってエラリオンに視線を向け、ニヤッと笑みを見せた。

 クライブの意図を察したのか、エラリオンは一拍置いてうんうんと首を勢いよく縦に振った。

 太り肥えた黒髪の青年と、目の前にいる赤い髪の美青年。使用人達はその二つが同じであるとは気付かず、どうするべきか話し始めた。


「私はこのまま働きたい、御給金もいいし他のお屋敷で一からは……」

「そうだな、貴族の屋敷は色々窮屈だったしなぁ」

「ですよね。そりゃあ玉の輿的な話も聞いたけど、相手が四十も上のお爺ちゃんだったとかも聞くし……」


 堕神していたエラリオンは金儲けに執着していてが、使う事にも快感を覚えていたらしく、金払いは良かったようだ。

 その事もあり、使用人達は職場の環境に不満はそれ程抱いておらず、程なく全員が屋敷で働く事で意見はまとまった。


「よし、決まりだな。そうそう、さっきも言ったがこいつの正体が漏れると、貴族や商人が冒険者を送ってくるらしいから、そうなりゃコイツも逃げ出すだろうし、平穏な生活を続けたいなら黙ってた方が無難だぜ」


 クライブが釘を刺すと使用人達は一様に真剣な顔で頷いた。それを見たクライブは満足そうに笑う。

 人の口に戸は立てられない。だが自分の利益や暮らしに直結しているとなれば、そうそう秘密を漏らす者もいないだろう。


「んじゃ、そういう訳なんで、エラリオン、テメェはここで医者をしろ」

「あ、ああ……」


 展開について行けないエラリオンに苦笑を浮かべると、クライブはリーファ、レナ、アルマリオスに目配せしてそっとその場から身を引いた。


「あ、あの、本当に不死鳥(フェニックス)なんですか?」

「あ、ああ、僕は不死鳥(フェニックス)のエラリオンで間違いない」

「あの、実は私のお爺ちゃんが腰が痛いって言ってるんですけど、治療って……」

「……使用人の家族は無料で診察しよう……ただ、噂が広がるのは……」

「分かっています。秘密は絶対洩らしませんッ」


 使用人の娘はグッと拳を握り鼻をフンスッと鳴らして宣言している。


「さぁさぁ、お話は後にしてまずは屋敷の片づけしよう。修理も頼まないと……」


 老執事が手を叩いて使用人を促すと、彼らは半焼した屋敷へとエラリオンを伴い戻って行った。


「ふぅ、何とかなったな」

「……クライブさん、よくまぁ、あんな風にペラペラとでまかせが言えますね」

「嘘も方便だ。それにあいつが不死鳥で医者みてぇな事が出来るのはホントなんだし、別にいいだろ」

「……クライブさんもアルマリオスちゃんと同じで、いい加減……」

「世の中、いい加減なぐらいで丁度いいのさ」


 肩を竦めたクライブの言葉で、リーファとレナは顔を見合わせ苦笑を浮かべたのだった。



■◇■◇■◇■



 コルカス山の南西、ユーゲント砂漠の西岸の中継都市、コーラッド。

 Sランクパーティ聖王冠(ホーリークラウン)の一行はそのコーラッドを出て大陸南部、リデノ山脈へと馬車で向かっていた。

 御者台には巨漢戦士のゴダックと新たに買い入れた奴隷の少女、エリナが座っている。

 エリナは魔族の攻撃の激しい北方から逃れて来たクォーターエルフの少女だった。

 父母と死に分かれ、路頭に迷っていた所を奴隷商に言葉巧みに騙され、奴隷にされたらしい。


「あのさ、本当にあたしは勇者様のお役に立てるの?」

「ああ、勿論だ。じゃなきゃ高い金を払ってお前を買ったりはしないさ」


挿絵(By みてみん)


「へへ、そうなんだ……あたしが勇者様のお役に立てる……ねぇねぇ、そしたらさ、あたしも勇者様の英雄譚に登場したりするのかな?」

「……たぶんな」


 やったーッ! そう言ってはしゃぐエリナから視線をそらし、ゴダックは手綱を振って馬車を走らせた。

 そんな御者台の後ろ、馬車内では勇者アルベルト、司祭ニーダンス、盗賊サフィ、魔女ベルサが向かい合う形で座っていた。


「アルベルト、次の武具は何なの?」

「次は転移の兜(シフトオブヘルム)だ。あれがあれば武具の探索もはかどる筈だ」


 転移の兜(シフトオブヘルム)

 勇者が身に着けた武具の一つで、その名の通り願えば見知った場所に一瞬で移動できる魔法の兜だ。


「その前に呪いの有無を確認しないといけませんね」

「……ベルサ、ロクニオスの解析はどうなっている?」


 司祭ニーダンスの言葉でアルベルトは向かいの椅子に座った魔女ベルサに視線を向けた。


「結論から言うわ。確かにロクニオスには何かの呪術が掛かっている」

「賊の言っていた事は本当だったってことか?」

「いえ、そこまでは私じゃ分からなかった……」

「どういう事よ? 呪いは掛かってるんでしょ?」

「呪術といっても効果はマイナスばかりじゃないわ。サフィ、貴女が使ってる疾風の長靴(ゲイルブーツ)幻影の皮鎧(ミラージュメイル)だって、その効果を付与しているのは呪術なの」


 疾風の長靴(ゲイルブーツ)幻影の皮鎧(ミラージュメイル)

 二つは迷宮の宝箱から見つけ出した古代魔法王国の遺産で、ブーツは使用者の素早さ上げを、鎧は周囲に使用者の幻を作りだし、命中率を下げる効果があった。


「掛かっている呪術は剣の強化、もしくは隠された力である場合も考えられるという訳か」

「ええ、これ以上調べるなら、呪術の専門家、それも一流の人に頼まないと難しいわね」

「……出来るなら、守護竜だけでも聖剣を使って戦いたいが……」

「そうですね……たしか……」


 ニーダンスは腰のポーチから大陸の地図を取り出した。


「目的地のリデノ山脈……迷宮の位置はここでしたね?」


 アルベルトに地図の一部を指し示しながら、ニーダンスはアルベルトに目を向ける。


「ああ、錬金術士バーガンスの研究所。山脈の中腹、洞窟に作られた迷宮(ダンジョン)だ。ギルドの情報では、内部はバーガンスが作り出したキメラの巣になっているらしい」

「バーガンスは既に倒され、今は素材目当ての冒険者が時折潜る程度、でしたね?」

「そうだ」

「この迷宮の北の街」


 ニーダンスは地図でダンジョンから少し北北西に向かった場所を指し示す。


「この街、ルードネルは魔法大学があって、魔法具の研究も盛んだった筈です」

「魔法大学ねぇ……あいつ等、いけ好かないのよねぇ」


 ベルサは魔法大学と聞いて顔を顰める。

 彼女は在野の魔女に師事し魔法を学んだ。その為、各地の魔法大学を卒業した魔法使いからは一段下に見られる事も多々あった。

 そんな系統が違うだけで見下す魔法使い達を、ベルサはこれまで何人も叩きのめしてきていたのだ。


「貴女が魔法大学出身者が嫌いなのは承知していますが、ここはやはり大学の教授に助けを求める方がいいでしょう」

「ベルサ……」


 アルベルトはベルサの目を真っすぐに見つめた。

 ベルサは不満そうにアルベルトを見返していたが、やがて視線をそらした。


「……はぁ……あいつ等に頼るのは嫌だけど、アルベルトにそんな顔されちゃあ嫌って言えないじゃない」

「ありがとう、ベルサ」

「一つ貸しよ。今度、デートしてくれたらチャラにしてあげる」

「どさくさに紛れて、あんた何言ってのよッ!?」

「いいじゃない、デートぐらい」


 アルベルトを巡るいつものやり取りが始まり、アルベルトは苦笑を浮かべ、ニーダンスは慎みが無いと顔を顰めたのだった。

お読み頂きありがとうございます。

面白かったらでいいので、ブクマ、評価等いただけると嬉しいです。

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