神の鳥対冒険者
屋敷は炎に包まれ、老執事の指示を受けて働いていた使用人達は取るものも取らず屋敷から逃げ出した。
その中には黒い炎を纏った怪物の姿を見た者も多数含まれていた。
そんな状況の中、リーファ達は堕ちた神の鳥、不死鳥エラリオンの炎から逃れる為、庭を駆け抜けその外縁、木立の中へと逃げ込み茂みから不死鳥エラリオンの様子を窺っていた。
見れば炎の鳥は足音を響かせながら、こちらに歩みを進めている。
「はぁはぁ……完全に殺しに来てるな?」
「はぁはぁ、ング、そうみたいですね」
「不死鳥さん、凄く怒ってました……」
「……リーファ、クライブ、頼みがある」
いつになく真剣なアルマリオスの様子に、リーファとクライブはレナを地面に下ろし真面目に聞こうと向き直る。
「何だよ頼みって?」
「エラリオンを聖剣を使って倒してほしい」
「聖剣で倒せって……炎の塊みたいな奴に接近戦を仕掛けろってか」
「うん、魔法で雨を降らせて、炎を防ぐ水のベールも張るから……」
「聖剣じゃないと駄目なんですか?」
「……あいつは堕神になってる……ガーネットの血で清められた聖剣なら、あいつの復讐と金への欲望で汚れた魂も浄化出来ると思うんだ……古い馴染みだ、何とか助けたい……」
聖剣はあの吸血鬼の呪いも一時的とはいえ解いた。
可能性はあるのだろうが……。
「……あの巨体だ、やるならリーファのアレで叩くしかねぇな……俺は牽制に回る。レナはアルマリオスと一緒にどっか隠れてろ」
「嫌ですッ!! レナも一緒に戦いますッ!!」
そう言うと地面に下ろされたレナは、旅商人から手に入れた弓に矢を番えた。
「レナさん、攻撃すれば狙われるかもしれませんよ?」
「大丈夫ですッ、獣人は素早さが持ち味、炎は全部避けてみせますッ!!」
そう言ってクライブを見上げたレナの目は、やる気に満ち強く輝いていた。
「…………駄目だと言っても勝手に動きそうだな……よしレナ、お前は俺と一緒に牽制に回れ」
「はいですッ!!」
「リーファ、俺とレナで隙を作る。お前はその隙に何とか第四形態の技……魔竜星破斬だったか、アレを奴にぶち込め」
「わ、わかりました」
ううっ、あの時はテンションが上がって、考えていた技の名前を大声で叫んでしまいましたけど、改めて言われるとなんだか恥ずかしいような……。
「それじゃあ魔法を掛けよう、リーファ」
「あっ、はい」
無言で決めた方がいいのか、やっぱり技名を叫んだ方がいいのか、そんな事を考えていたリーファをアルマリオスの声が引き戻す。
「リーファ、両手を翳して。詠唱は僕が受け持つ」
「そんな事出来るんですか?」
「この前、レナの首輪を外した時、君の中にいる本体の魔力を操っただろ? あの時に思い付いたんだ」
「へぇ……翳すってこうですか?」
リーファが両手を突き出すと、それに合わせ小さなアルマリオスも両手を突き出す。
「アルマリオスの魔力を以って、乾いた大地に雨の恵みを、慈雨」
「アルマリオスの魔力を以って、盗賊クライブと獣人レナに水の守りを、水覆」
続けざまのアルマリオスの詠唱によって、リーファの胸の奥から魔力が両手に集まり、空とリーファ達へと流れていく。
次の瞬間には空は暗く曇り、降り注いだ雨が燃える屋敷と庭に降り注ぎ、大量の靄を発生させた。
更にリーファ、クライブ、レナに降り注いだ雨粒が体の周りを漂い、ベールとなってその身を覆う。
「こいつはどのぐらい持つ?」
「十分ぐらいは炎を防いでくれる筈だよ。ただ、直撃を受けると余り持たないと思う」
「了解だ……行くぞ、レナッ、お前は右を頼む」
「分かったですッ!」
「二人とも気を付けてッ!」
「おう」
「はいですッ!」
リーファの言葉に頷きを返したクライブとレナは、堕ちた神の鳥に向かって駆けだした。
自分を狩ろうする人間達への復讐心と、その人間から巻き上げた金の魔力によって穢れてしまった不死鳥エラリオン。
盗賊のクライブと元奴隷のレナはアルマリオスの頼みを受けて、降り注ぐ雨の中、黒く揺らめく炎を纏った鳥に左右から挟み込む様に迫った。
不死鳥の黒い炎は雨の中でも衰える事無く、雨粒がその身を濡らす前に蒸発させていく。
『行くぞ冒険者共ッ!!』
二人に気付いたエラリオンは、叫びと共に黒い炎を芝生の庭に撒き散らした。
炎は芝生を焼き、緑の地面を黒に変えた。
「チッ、面倒な鳥だぜ」
炎を後ろに飛んで躱したクライブが忌々し気にぼやく。
「任せて下さいッ!!」
炎に阻まれ近寄れないクライブに代わり、レナが炎を躱しながら矢を放つ。
狩りが得意だと言ったその言葉にたがわず、放たれた矢は不死鳥の体に突き立った。
『デュフフフッ、不死鳥のボクに弓矢なんて通じないよッ!!』
エラリオンの言葉通り、突き立った矢は燃え上がり、矢じりはドロリと溶けて流れ落ち雨に打たれて黒い金属の塊を残した。
しかし、レナの攻撃はあくまで注意を引く為の物だった。
『ググッ!?』
レナにエラリオンの意識が向いた隙にクライブが踏み込み、すり抜けながら右足に聖剣を叩き込む。
聖剣は丸太の様な不死鳥の足を斬り飛ばし、エラリオンはバランスを崩して大地に倒れた。
「今だッ、リーファッ!!」
「ハイッ!!」
クライブの言葉にリーファが駆け出そうとした瞬間、エラリオンの傷口から炎が吹き出し、瞬時に足を再生させ立ち上がる。
聖剣の斬撃で一瞬、浄化された足には再び黒い炎がまとわりついていた。
『ググッ、徒党を組んでやるそのやり方が、そもそも気に入らないんだッ!!』
エラリオンは今度はクライブに意識を向け、口から大量の炎を吐いた。
クライブはその炎を纏った水のベールに穴を開けつつ、間一髪で躱し間合いを取る。
「クソッ、回復が速過ぎる!!」
飛び出し損ねたリーファはそんなクライブ達の戦いをジリジリしながら見つめつつ、再度、一撃を加える隙を伺っていた。
動き自体はそれ程早くは無いが、纏った炎が厄介だ。
ただ、リーファは戦いの様子を窺う内、エラリオンが身に纏う炎がクライブ達に炎を使った攻撃をする時、勢いを衰えさせる事に気付いた。
纏う炎と放つ炎は相関関係にある。つまり攻撃するタイミングは大技を放った時。
「こっちですッ!!」
「よそ見してんじゃねぇッ!!」
『クソォ、ちょこまかとッ!! こうなったら……』
レナの弓とクライブの聖剣、ヒットアンドアウェイな二人の攻撃に苛立ったエラリオンは、大きく翼を広げた。
「やべぇッ、レナ、退避だッ!!」
「はッ、はいッ!!」
危険を感じたクライブとレナが後ろに飛びエラリオンから距離を取った直後、炎の鳥は書斎を焼き払った爆発を再度放ち、周囲に炎を撒き散らす。
「クッ!?」
「キャッ!?」
その攻撃によりクライブとレナは弾き飛ばされ、体を覆っていた水のベールも消し飛ぶ。
同時にエラリオンの体からも炎が消えていた。
『デュフフフ……冒険者は全員灰にしてや』
吹き飛び地面に転がったクライブに向き直り、暗い笑みを浮かべたエラリオンの体に一筋の光が走る。
「……魔竜星破斬」
『アガ……アガガガガッ!?』
技名は後で言うスタイルを採用し、地面に刃を叩きつけ静かに呟いたリーファの前で、不死鳥エラリオンは体の中心から二つに分かれ、その傷口から炎を吹き出しながら倒れた。
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