復讐心と欲望と
名医だが高額な治療費を要求する医者。
そんな話を聞いてリーファは恰幅のいい髯の男性を想像していたのだが、一行を出迎えたのは二十歳前後ぐらいの異常に太った黒髪の若者だった。
若者は書斎だろうデスクが置かれた部屋のソファーに座り、リーファ達に視線を送っている。
「デュフフ、君達が鎧の呪いを解いて欲しいっていう、変わった依頼を持ち込んだ人達だね?」
「あ、ああ、俺はクライブ。冒険者をやってる」
「あっ、私はリーファルドです。クライブさんと一緒に冒険者やってます」
クライブとリーファの言葉を聞いて若者は一瞬、顔を顰めたがその時は何も言わなかった。
「えっとえっと、レナですッ、12歳です!」
「僕はアルマリオス。見ての通りの竜だよ」
「アルマリオス……もしかして竜王の?」
リーファの肩に乗っていたアルマリオスが青年に名乗ると、彼は怪訝そうに眉を寄せた。
「そうだけど…………随分と見た目が変わってるけど、君、まさかエラリオン?」
髪の色が変わり異常に太っているが、どことなく面影のある容姿にアルマリオスは首を傾げながら問い掛けた。
「えっと、エラリオンって不死鳥さんの名前……じゃあ、貴方は……」
リーファ達の視線を浴びたエラリオンは凄く嫌そうに顔を顰めた。
「はぁ……今はフレイムと名乗っている……とにかく座ってくれたまえ」
ため息を吐いたエラリオン、いやフレイムはリーファ達に向かいの席を進めた。
「失礼します」
「ふぅ、不死鳥を使役じゃなくて、医者自体が不死鳥だったか」
「浄化の力を使って病人を治してたんだね」
「不死鳥さん……鳥さんじゃない……凄く太ってる……」
クライブ、リーファ、レナの順番で三人はソファに座り、不死鳥だというフレイムと相対した。
「久しく聞いていなかった名前を聞いて、つい反応してしまったが、全員、ボクが不死鳥だという事はここだけの話にして欲しい」
「それはいいけど、何で医者なんかやってるのさ?」
「なんでって金の為に決まってるじゃないかッ!! デュフフフフ」
叫びと共にフレイムの体からどす黒いオーラが立ち昇る。
「これは泉の女神様と同じッ!?」
「デュフフ、金はいいぞぉ、アルマリオス。人間の社会じゃ金があればこんな風に広い屋敷に住めて、雑用は皆、召使いがやってくれる」
「……ねぇエラリオン……じゃなくてフレイム、どうしてそんな風になっちゃったのさ? 君、もっとこう、クリーンっていうか清貧って感じだったじゃない?」
「……最初は復讐の為だった……人族の王侯貴族や富豪共、あいつ等、冒険者を雇って毎日毎日襲撃を仕掛けて来やがって、もう限界だったんだよ! だから姿を人に変えて、逆にあいつ等の力の源である富を奪ってやる事にしたのさッ! そのうち気付いた、人の姿していて金さえあれば、平穏に暮らせるってねッ!!」
怒りか欲望か、フレイムの体から噴き出す黒いオーラが勢いを増す。
火口にあった神殿の扉。あの扉に書かれていた事を加味して考えると、人族の金持ち連中は不老不死を求め、冒険者を雇いフレイムを狩ろうとしたのだろう。
それに嫌気が刺したフレイムは復讐の為に医師として活動を始めた様だ。
「それで自分の力、癒しと浄化を使って医者を始めたのかい……?」
「ふぅ……少し興奮してしまった……簡単だったよ。最初にこの周辺の奴らの怪我を適当に治療してやったら、すぐに評判になってね。それからはトントン拍子さ……デュフフ、君達も対価を支払うなら仕事を引き受けようじゃないか」
ニヤニヤとした暗い笑みを浮かべてフレイムはフフンッと鼻を鳴らす。
「……アルマリオスさん、こんな真っ黒なオーラを出してて、癒しや浄化なんて使えるんですか?」
リーファは肩に乗ったアルマリオスに手で口元を隠し問い掛ける。
「いや、こんな状態じゃあ、マトモな癒しや浄化は出来ない筈だよ。きっと治療された人には何か副作用が……」
「デュフフ、気付いたか。その通り、ボクが治療した連中は今頃、別の病気で苦しんでいる筈さ。それを治療する為にまたボクに金を払う……復讐と富の略奪を兼ねた完璧なサイクルだろう」
「何が完璧なサイクルだ。最悪のマッチポンプじゃねぇか」
クライブは顔を顰め吐き捨てる様に言った。
「……気に入らないかね?」
「ああ、気に入らないね。治療を受けた奴らは、お前に冒険者をけしかけた連中とは関係ないだろう?」
「ハッ、どいつもこいつも同じ穴の狢さッ! 金があれば自分の命でさえどうにか出来ると思ってる所がねッ!!」
「だからって治療を受けたら別の病気になるなんて可哀想です……」
「だったらどうする? 冒険者らしくボクを討伐するかねッ!?」
リーファを睨みつけたフレイムの体から黒い炎が吹き上がり、その身が揺らめく黒い炎の羽根を持つ巨大な太った鳥へと変化していく。
「チッ、やる気かよッ!?」
「レナさん、下がって下さい!!」
「は、はいッ!」
ソファーから立ち上がり入り口近くまで後退したリーファ達を、鳥は憎しみのこもった目で睨み付ける。
『やっぱり冒険者とは相容れないなッ!! 秘密も知られた事だし、ここで焼け死んでもらおうかッ!!』
フレイムが叫びを上げた瞬間、炎の鳥は爆発、身にまとった黒炎を周囲に撒き散らした。
「クッ、やべぇ!!」
「ふっ、吹き飛べッ!!!!」
その黒炎が一行を包む前に、リーファは閃光の息吹を吐いて何とか炎を退けた。
『ぬぅ……貴様、ただの竜人間では無いな?』
「リーファは僕の魂と融合して魔竜少女になったのさ……エラリオン。君はどうやら復讐心とお金の持つ魔力によって完全に堕ちてしまったみたいだね」
『フンッ、堕ちて何が悪い!! ボクをこんな風にしたのは全部人間の行いが原因だッ!!』
アルマリオスと話している間も不死鳥は巨大化を続けた。
更に人間に対するその怒りは噴き出す炎の勢いを強め、書斎は一瞬で炎に包まれる。
「やべぇ、リーファッ、レナッ、とにかく脱出するぞッ!!」
「わ、分かりましたッ!! レナさん、扉へッ!!」
「あ、熱いようッ!!」
慌てて書斎から逃げ出したリーファ達に、騒ぎを聞きつけ駆け付けた老執事が声を上げた。
「こっ、これは一体ッ!?」
「いいから逃げろッ!! 他の連中にも屋敷から出る様に言えッ!!」
「はッ、はいッ!!」
扉から噴き出す黒い炎を見た老執事は慌てて踵を返し、非難する様に使用人達に指示を出しながら廊下を駆け去った。
それを見送ったクライブは窓を開き、レナを抱えて飛び出す。
「わっ、ク、クライブさんッ、レナは自分で走れますッ!!」
「黙ってろッ、舌噛むぞッ!!」
リーファもクライブに続き窓から飛び出し芝生の広がる庭へと駆け出した。
その後ろでは屋敷を破壊し燃やしながら、屋敷の屋根と変わらぬ大きさになった黒い炎の鳥が、ゆっくりと庭に降り立っていた。
鳥が歩いた地面は一歩ごとに産み落とされる炎の飛沫によって黒く焼け焦げ、その背後では書斎から出た火が屋敷に燃え広がりつつあった。
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