夜逃げした不死鳥
コルカス山に辿り着いたリーファは不死鳥が住むという山頂、休火山のカルデラへ舞い降りた。
ゴツゴツとした岩が転がるカルデラの底、泉の女神が住んでいた物と似た神殿が建っている。
「あそこだな……不死鳥か……羽根の一本でも貰えりゃ、話の種になりそうだぜ」
「神の鳥……どんな鳥さんなんでしょう」
クライブはニヤリと笑い、レナは不安と期待で両手を握り締めていた。
「たぶん、普段は人の姿で暮らしてると思うよ。ほら鳥のままだと手が使えないから、家事とか出来ないし」
「……アルマリオスさん、たとえそうだったとしても、そういう事言わないで貰えますか……なんというか一気に現実に引き戻されるので」
そりゃあ、鳥のままじゃ家事だってしにくいだろうけど、伝説の神の鳥が鼻歌まじりに掃除や洗濯なんかしている場面は余り想像したくない。
リーファ的には不死鳥の様な神獣には神々しく気高くいて欲しかった。
リーファがそんな事を考えている間に一行は神殿の入り口前に辿り着く。
「おーい、エラリオンッ!! 僕だよ、竜王アルマリオスだよッ!!」
アルマリオスが神殿の扉に向かって呼び掛けるが、暫く待っても扉は開く気配は無い。
「留守か?」
「うーん、来る途中に言ったけど、地上の神には縄張りがあるし、住む場所もその属性に見合った土地じゃ無いと駄目なんだ」
「中に入ってみましょうか?」
そう言ってリーファが神殿の扉に触れようとすると、扉の表面に炎が上がった。
「熱っ!?」
「わっ、大丈夫、お姉ちゃん!?」
「あ、触る前だったので平気です」
「物騒な扉だぜ……ん? その炎、字になってないか?」
「あ、ホントですね……なになに……わざわざお越し頂きご苦労様でございます。ここに住んでいた不死鳥は連日の襲撃に嫌気が差し、天に還る事に致しました。お越しいただいた皆様におきましては大変ご迷惑をお掛けしますが、このままお帰り頂き、不老不死等、夢を見ず堅実な人生を歩む事をお勧めいたします。不死鳥エラリオン拝」
暫しの無言の後、クライブが口を開く。
「こりゃアレか、狙われ過ぎて夜逃げしたって事でいいのか?」
「だろうねぇ……天に還るって言ってるけど、不死鳥は死ぬ事がないから……」
「あのー、じゃあ装備の浄化は?」
「うーん、仕方ない。面倒だけどガーネットにお願いしようか」
「……レナ、不死鳥見たかったです」
レナの言葉にリーファもうんうんと頷きを返した。
「私も見たかったです……でもまぁ、仕方がありませんね……」
「そうだ。どうせここまで来たんだからよ、旅商人が話してた名医ってのに会いに行かねぇか? もしかしたら何でも治せるその腕で装備の呪いも解いてくれるかもだしよ」
「名医ですかぁ、でもお高いって言ってましたよね?」
「あまりに法外な金額だったら、止めりゃあいいし、大墳墓で結構潤ったから金に余裕はあんだろ?」
「ですけど……あんまり無駄遣いは……」
リーファは渋ったが、クライブはその医者が不死鳥を使役しているという自説をまだ捨てておらず、確認の意味でも医者に会いたい様だった。
「……クライブさんには色々、付き合って貰ってますしね。確かこの山の中腹のお屋敷に住んでるんでしたね」
「ああ、来る時に確認したが確かにデカい屋敷が建ってたぜ」
「うーん、僕は寄り道はしたくないんだけど……」
「えぇ~、レナ、不死鳥さんが見れないなら、代わりに大きなお家見てみたいです」
レナは眉を寄せてアルマリオスを潤んだ瞳で見た。
「……はぁ……分かったよ。でも終わったらすぐにガーネットの所に向かうからね」
「泉の女神だな。そっちもどんな奴か楽しみだぜ」
「ですですッ!」
笑みを見せたレナを見て、リーファも釣られて思わず笑顔になった。
■◇■◇■◇■
コルカス山の中腹に立てられたまるで貴族の別荘の様な屋敷の玄関ホールで、リーファ達は執事らしき初老の老人に用向きを尋ねられた。
「えっと、手に入れた鎧の呪いを解いて欲しいんですが……」
「鎧? どのようなお話を聞いて尋ねて来られたのか存じませんが、旦那様は医者であって聖職者ではございませんが……?」
老人はリーファの言葉に困惑しふさふさした白髪眉をへの字にした。
「そりゃ分かってんだが、ここに住むお医者先生はどんな病気も治せる名医なんだろ? だったら装備の病、呪いだって浄化できるんじゃねぇかと思ってよぉ」
「確かに旦那様は魔法医ではありますから、人に掛けられた呪術も治療した事はございます。しかし……」
「頼むぜ。ダメ元で良いからさ」
「……畏まりました。一応聞いてまいります……所で治療には高額な代価が必要な事はご存知ですか?」
「ああ、ダンジョンで稼いできたから、支払いにはそれを当てるつもりだ」
「なら結構……ではあちらにお掛けになってお待ちください」
老人は玄関ホールに置かれたソファーをリーファ達に進め、屋敷の奥へと姿を消した。
老人が去るとレナが我慢出来なくなったのか、ホールに並べられた調度品へと駆け寄り、珍しそうに眺め始める。
リーファはそんなレナの後に続き、彼女が調度品に傷を付けたりしないように一緒に回り始めた。
「さて、どんな奴が出て来るのやら」
「魔法医って言ってたね。僕も魔法は得意だけど呪術関係はそれほど詳しくないからなぁ」
「呪術って魔法の一種じゃねぇのか?」
「そうなんだけど……呪術っていうのは、瞬間的な物じゃなくて、呪印を使った永続性がある物の事を言うんだ。その呪印を重ね合わせて効果を生み出すんだけど……」
アルマリオスの話を要約するなら、彼が普段使っている魔法は自身の魔力を変換し炎や癒しの力を生み出す、その場その場で使う事を想定した即興性の高い力の事だ。
逆に呪術は呪印に魔力を込めた呪具を作り出し、それを介して力を生み出す物。
魔法がその場でコマンドを入力する物で、呪術はあらかじめプログラムを組んでおくと言えば分かりやすいだろうか。
アルマリオスも迷宮の自室に置かれた便利道具等、呪術と精霊魔法を応用して作ってはいたが、聖剣に掛けられた呪いの様に徐々に精神を蝕む様な高度な物はお手上げだった。
「かいつまんで言うと、呪術ってのは何か物を使って掛ける魔法って事だな?」
「まぁ、その認識でおおむねあってるよ」
そんな風にクライブ達が呪術について話していると、先ほどの老人が玄関ホールへと戻って来た。
「お待たせいたしました。旦那様がお会いになるそうです」
「お、ありがてぇ」
「ではご案内いたします」
「リーファ、レナ、行くぞ」
「あ、はいッ! レナさん、行きましょう」
「はーいッ!」
クライブの声でリーファとレナは彼の下に駆け戻った。
それを確認した老人はこちらですと一行を屋敷の奥へと導いた。
赤い絨毯が敷かれた廊下を進み、やがてリーファ達は重厚な二枚扉の部屋の前へと案内される。
老人はその重厚な扉の前で部屋の中に呼び掛ける。
「お客様をお連れしました」
「デュフフ、ご苦労だった、入って貰ってくれ」
部屋の中から返った返事は予想外に若い男性の物だった。
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