名医と不死鳥
レナの首輪に施されていた隷属魔法を解いたリーファ達は、安全を期す為、次の目的地である不死鳥がいるというユーゲント砂漠の北にあるコルカス山へと向かって飛び、その途中で見つけたオアシスで野営する事にした。
そのオアシスには旅商人のキャラバン隊が滞在しており、大墳墓で見つけた宝や武具を鑑定する事も出来た。
鑑定の結果、大墳墓で手に入れた宝飾品には魔法への耐性を高める物の他、体力を回復する物等も混じっていた。
それらはリーファだと変身の際に壊してしまう可能性がある為。クライブとレナが装備する事となった。
「しかし、徒歩でこの砂漠を超えようとは、冒険者ってのは酔狂な人種だな」
オアシスに何者かが滞在している事は焚火によって遠目からも確認出来た。
そこでクライブは離れた場所にリーファに降りて貰い、竜人の姿に戻ったリーファ、そして元奴隷のレナを連れオアシスに向かう事にしたのだ。
「大墳墓を探索してたんだが、出て来たら砂上船がいなくなっててな……オアシスをいくつか経由してここまで来たんだ」
「そうかい……そりゃ難儀したな」
「ああ、だからあんたに会えてマジで助かったぜ」
「いやいや、こっちもいい商売が出来たから、そこはお互い様だ」
旅商人はそう言ってガハハと笑った。
彼にはリーファ達には必要の無い物を買い取ってもらい、代わりに食料や油等、消耗品を売って貰った。
その際に着た切り雀だったレナの新しい服や靴もリーファ達は購入していた。
現在はキャラバン隊の食事に混ぜて貰い、焚火を囲んでご馳走になっている所だ。
「あの、こんな上等な服や靴は……それに魔法具まで……」
「何言ってるんですか。私達と旅をするなら、丈夫な服に靴は必須です。あと魔法具はお守り代わりに着けておいてください」
「そうそう、レナは一般人なんだから」
「……はい」
アルマリオスに一般人と言われたレナは少し寂しそうに俯いた。
それに気付いたリーファはレナの頭を撫でながら、優しく囁き掛ける。
「……気にする事ないですよ。私もこんな風にならなければ、レナさんと同じでしたから……」
アルマリオスさんの魂と融合しなければ自分も駆け出しのままだったでしょうし。
「……でもでも、一緒に旅をするなら何か役に立ちたいです」
首輪が外れた後、リーファはレナに家まで送ると提案した。しかし彼女はアルベルトの身を案じ、旅への同行を申し出た。
更にどうも自分を奴隷商に売り渡した両親とは会いたくないらしく、そういった経緯もあり、獣人の少女、レナはリーファ達の旅の仲間の一人となったのだ。
「役に立ちたい……そうですねぇ……レナさんは何が出来ますか?」
「えっと……あっ! 狩りは得意ですッ!」
「狩り……それじゃあ、後で弓と矢を商人さんから買うとしましょう」
「ありがとうですッ! 一杯獲物を狩りますッ!!」
ギュッと両手を握り締めたレナを見て、リーファは妹がいたらこんな感じかなと再度、レナの頭を撫でた。
そんなリーファ達の横に座ったクライブに、斜向かいに座ったキャラバン隊を仕切る旅商人の男が尋ねる。
「それであんた達はこれから何処へ向かうんだ?」
「北のコルカス山だ」
「コルカス山……あんたらみんな健康に見えるが……?」
「ん、健康? どういう事だ?」
「コルカス山に向かうって事は、中腹の屋敷に住む、神の手を持つって医者が目当てじゃないのか?」
「神の手を持つお医者様……そんな人がいるんですか?」
旅商人はリーファの問い掛けにああと微妙な笑みを浮かべた。
「どんな難病もたちどころに治してくれる凄腕の医者らしいぜ」
「へぇ、そんな名医がコルカス山にねぇ」
クライブの呟きを聞いた旅商人は苦笑を浮かべる。
「ハハッ、名医は名医なんだが、どうも治療費がバカ高いらしくてな。治療を受けられるのは金持ちだけみたいだぜ」
「えぇ……お医者様ってもっとこう、人格者というか、優しいイメージがあったんですけど……」
「ですよねぇ……」
「医者にも金儲けに熱心な奴はいるよ」
そう言って肩を竦める旅商人をリーファの肩に乗ったアルマリオスは円らな瞳で見つめていた。
■◇■◇■◇■
翌朝、キャラバン隊のテントの一角を借りて一夜を明かしたリーファ達は商人達と別れ、砂漠の北、コルカス山を目指し空の旅を続けた。
「アルマリオスさん、コルカス山に不死鳥はいるんですよね?」
「いると思う。地上に住む神には縄張りがあるから、おいそれと住処は変えられない。だから多分……」
「俺はどんな病も治せる医者ってのが気になるぜ……不死鳥と医者……もしかしてその医者、不死鳥をどうにかして手駒にしたんじゃあ……」
クライブはそう言うと前に座るレナにチラリと目を向ける。
「不死鳥を隷属させたって言いたいの?」
「ああ、隷属の首輪には奴隷にいう事を聞かせられる力もあっただろ。そんな風に魔法で縛れば不死鳥が持つっていう、癒しや浄化の力も使いたい放題だろ」
「うーん、曲がりなりにも神の鳥に隷属魔法が通じるとは思えないんだけどねぇ」
首を捻るアルマリオスにレナが視線を向けた。
「あの、不死鳥って何ですか?」
「レナは不死鳥の事、知らない?」
「はい、聞いた事ないです」
「不死鳥っていうのは死んでも炎と共に蘇るって力を持つ、伝説の鳥だよ。その血肉を食べれば不老不死になるって噂があって、昔から人族の王侯貴族や豪商なんかは手に入れようとしてたみたい」
「不老不死……ずっと若いまま生きられるって事ですか?」
レナの問い掛けにアルマリオスはうん、その通りと小さな頭で頷きを返した。
「その噂も眉唾だがなぁ。大体、そんな風にずっと生きてる奴に会った事ねぇし」
「あくまで噂だからねぇ、でも不死鳥が癒しと浄化の力を持ってるのは確かだよ」
「癒しと浄化……アルベルト様の心も不死鳥の力があれば宿った魔を祓えるんでしょうか?」
「恐らくね。ただあの勇者が僕たちの話に耳を貸すとは思えないんだよねぇ……」
「今、考えると魔剣を取り替えようしたのは悪手だったかもですね……最初から正直に話していれば……」
正直に話しても受け入れられなかったかもしれない。
だが、コッソリ取り替えようとした事でアルベルトや聖王冠のメンバーに、賊という認識を植え付けてしまった事は確かだ。
そうなる前なら別の方法もあったかもしれなかったのだが……。
「まぁ、やっちまった事は仕方ねぇ。ともかく不死鳥の所へ行って装備の呪いを解くとしようぜ」
「だねだね」
「……そうですね」
クライブの言う通り、悔やんでも行いは今更変えられない。
今はとにかくアルベルト達に先んじて、迷宮を攻略し邪神の武具を集めよう。
リーファはそう気持ちを切り替えて、目的地であるコルカス山へと気持ちを馳せた。
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