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心の闇と初恋

「あの竜人間(ドラゴニュート)もどきがサンドワームを斬った?」


 サンドワームを一人で打倒し砂上船に戻ったアルベルトは、ゴダック達の言葉に眉を顰めた。


「おう、まさに一刀両断ってやつだ」

「僕でも数十回斬撃を浴びせてようやく倒したサンドワームを一撃で……」

「気にする事はありませんよ、彼女は我々のサポートを受けて出来た隙に攻撃を決めただけ、一人立ち回った貴方とは違います」


 司祭ニーダンスの言葉で、アルベルトは嫉妬による苛立ちを少し緩和させた。

 どういう訳か最近、自分よりも強い者の存在に苛立ちを感じる。

 人々の期待に応えようとする自負から来るものだろうか……。


 そんな事を考えため息を一つ吐きアルベルトは首を振った。


「そういえば、竜人間(ドラゴニュート)もどきは貴方の見る夢が邪神の見せる罠だとも言っていましたねぇ」

「予知夢が邪神の罠?」

「ああ、そんな事言ってたわね」

「その聖剣には呪いが掛かっているとも言っていました。邪神が魔王を使ってとも……」


 ニーダンスの言葉に首を捻りつつ、確かあの竜人間(ドラゴニュート)もどきは初めて会った時、聖剣では無く魔剣だとも言っていたなとアルベルトは思い出す。

 だがそれをすぐに打ち消した。


「馬鹿馬鹿しい、賊の言葉を真に受けてどうする。僕はこの聖剣ロクニオスを使ってサンドワームを一人で倒した。そんな強力な武器を、なんでわざわざ敵である僕に邪神が用意するのさ」

「確かにそうだけど……呪いというのが気になるわねぇ」


 黒髪の魔女ベルサは、気だるげな視線をアルベルトの腰に佩いた聖剣に向ける。


「……なら、本当に呪いが掛かっているのか、ベルサ、君が徹底的に調べてくれ」


 アルベルトは少しムッとした様子で腰の剣をベルサに押し付ける。


「分かったわ……」


挿絵(By みてみん)


「ねぇ、アルベルト。奴隷はどうするの?」

「レナか……」


 サフィの言葉でアルベルトは腰のマジックポーチから小さな水晶球を取り出した。

 隷属の首輪には行動を縛る他、逃げ出した奴隷が何処にいるか示す魔法が刻まれている。

 水晶球が示した首輪の位置は東北東、距離は五十キロ程だ。


「……」


 賊はその身を飛竜に変えて逃げたという。

 このまま追っても砂上船では近づけば逃げられて、鼬ごっこになる可能性が高い。


「彼女はもういい。街に戻って新しい奴隷を買おう」

「放置していいのですか?」

「ああ、それよりも次の武具は絶対に手に入れたい」

「邪神の件は?」

「武具が強力な事はロクニオスの力を見れば確実だ。賊の言葉に惑わされて今回の様に入手不能になる事は避けたい」


 糸目の司祭ニーダンスはアルベルトの言葉を聞いて一理あると頷きを返した。


「確かに貴重な武具を入手出来ないのは痛手ですしね……ただし、使うかどうかはベルサの調査の結果が出てからにしましょう」

「……聖剣が使えないのは痛いが……」

「魔王が仕える邪神ヴェル―ドは策謀を好み狡猾だと聞きます。賊の言葉が正しいのか、賊がその邪神の手先なのか、呪いの有無で判明するでしょう……ベルサ、調査を急いで下さい」

「はぁ……了解よ……」


 ベルサは受け取った聖剣を両手で抱え、ため息交じりの苦笑を浮かべた。



■◇■◇■◇■



 アルベルト達がレナの奪還を放棄し街に戻る事を決めた頃、リーファ達はユーゲント砂漠のオアシスでレナの隷属の首輪の解除に当たっていた。

 オアシスに湧く泉のそば、クライブが起こした焚火の明かりに照らされ、草むらに腰を下ろしたレナとリーファが向かい合っている。

 レナの首輪に腕を伸ばし両手を翳したリーファの膝の上で、アルマリオスが何やら両手を複雑に動かしていた。


「……アルマリオスさん、まだですか? 私、第四形態の技を使って両腕が死ぬほどだるいんですけど」

「そのまま、もう少し翳しといてくれる、隷属魔法の解除は金庫を開けるのと同じぐらいの集中が必要なんだ」


 リーファは聴診器を当てダイヤル式の金庫を開けるアルマリオスを想像しながら、レナの首輪に翳した両手を支える腕に力を籠める。

 その両手からは魔力操作の為の青白い光が放たれている。


「……よし、三つ目解除……」


 リーファの膝の上で目を瞑り両手を動かしているアルマリオスを見て、レナは眉根を寄せていた。

 アルベルトが魔王になると聞いて、言う事を聞く事を決めたが本当にそれで良かったのだろうか……。

 ゴダック達の言葉によれば彼らは賊で、アルベルトから聖剣を盗もうとしたらしい。

 ただ、それは聖剣は魔王が用意した魔剣で、使う程に心に魔を宿すそうだが……。


「…………これで最後だ……」


 アルマリオスがそう言うのと同時に首輪に刻まれた紋様が光り、ポトリと首輪はレナの膝に転がり落ちた。


「あ……」


 外れた首輪を見たレナは完全にアルベルトとの繋がりが消えた様に感じ、なんだか無性に悲しくなり涙が溢れる。


「えっ!? ど、どうしたんですかッ!? アルマリオスさん、もしかして何かミスをッ!?」

「そんな筈ないッ!! 僕の仕事は完璧だったッ!!」


 慌てる二人の前でレナはポロポロと涙をこぼす。


「はぁ……二人とも女心が分かってねぇなぁ」

「ムッ、クライブさん、アルマリオスさんはともかく、女の私に女心が分からないってどういう事ですかッ!?」

「その首輪はそいつにとっちゃあ勇者との繋がりだったんだぜ。言ってみれば指輪みたいなもんさ。それが無くなっちまったんだぜ。悲しくもなるだろう」


 心を言い当てられたレナは驚き、思わず焚火に枯れ枝をくべるクライブに視線を送った。


「なんで……なんで分かるんですか?」

「へへ、これでもそれなりに恋愛はしてきたからよぉ……」

「……恋愛……この気持ちが恋なんですか……」

「お前、アルベルトの事を考えると気持ちが落ち着かなくなるだろ?」

「はいッ! アルベルト様が気になって、私を見て欲しくて、でも見られると嬉しいけど恥ずかしくて……」

「完全に惚れてるな」


 そんな話をするレナとクライブを見ながら、リーファとアルマリオスは微妙な表情を浮かべていた。


「自分を生贄にしようとした相手に恋……」

「アルベルトが美形で絵になるのは確かですけど……」


 実際にナイフを胸に突き立てられ生贄に捧げられたリーファには、アルベルトを恋愛対象として見る事はもう出来なかった。

 レナはそうなる前にリーファ達に攫われた事で、アルベルトに対する気持ちが残ってしまったようだ。

 それが良い事なのかどうなのか、リーファにはよく分からなかった。

お読み頂きありがとうございます。

面白かったらでいいので、ブクマ、評価等いただけると嬉しいです。

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