魔竜星破斬
砂上船の前方に現れたサンドワームは砂の海を泳ぎ、砂煙を巻き上げながら砂中を進んでいるとは思えない速度でこちらに向かって来る。
その巨大な芋虫を聖王冠のメンバー、戦士のゴダック、盗賊のサフィ、魔女のベルサ、司祭のニーダンス、そして彼らの傍に舞い降りたリーファと砂上船から駆け付けたクライブとアルマリオスが出迎える。
サンドワームは六人と一匹の存在に気付いたのか、鎌首をもたげ牙の並んだ丸い口をリーファ達に向けた。
「動き回られると斬撃を避けられてしまいます。何とか動きを止めて欲しいです」
リーファがゴダックに声を掛けると、チラリと彼女を見たゴダックはサンドワームに向き直り口を開いた。
「目的はコイツの足を止める事だ!! 適度にいたぶって動きを鈍らせるッ!! 俺が引き付けるッ!! 三人はいつも通りサポートに回ってくれ!!」
「了解ッ!! 飲まれないでよッ!!」
「そうそう、あなたがいなくなると、私達が狙われちゃうから」
「新しい壁役の育成は大変ですしねぇ」
「ちったあ労えよッ!!」
聖王冠の面々は軽口をたたき合いながら、サフィは気配を消して大きく迂回し魔物の背後へと回り込み、ベルサとニーダンスはゴダックの斜め後方にそれぞれ分かれて後退、ベルサは筋力増強を、ニーダンスは守りの加護の詠唱をそれぞれに始めていた。
「俺も牽制に回る……リーファ、無理はするなよ」
「はい、クライブさんも」
「おうッ!」
ゴダックの巨体の後ろに駆け込み剣を抜いたリーファに、クライブは頷きを返しサフィとは逆側へと走り去った。
「おらデカ物ッ、テメェの相手は俺だッ!!」
「ヴォオオオオッ!!」
ゴダックの挑発を受けてサンドワームは咆哮を上げ、口から吐き出した砂嵐をゴダックへと浴びせかけた。
「グッ……」
大楯を構え砂嵐を受け止めたゴダックにベルサとニーダンスの魔法が飛ぶ。
ゴダックの体が光を帯び、歪んでいた顔に不敵な笑みが浮かんだ。
「ウオオオオッ!!」
雄叫びと共にゴダックの掲げた大楯が輝き、彼の前に大楯よりも遥かに巨大なオーラの壁を作り出す。
オーラシールド。その名の通り体内の気を放出し、攻撃を弾くオーラの盾を作り出す重戦士スキルだ。
ゴダックはそのオーラの盾を、魔法により強化された肉体を使いシールドバッシュの要領で砂嵐に叩きつけた。
放たれた一撃により砂嵐は押し返され、ゴダックとサンドワームの中心で爆発、それに呼応してベルサとニーダンスから炎の玉と不可視の衝撃が撃ち出される。
「ヴォオオオオオオ!!!!」
二人が言っていた様にサンドワームが巨大である為、有効打とは言えないようだが、それでも芋虫の表皮は焼け焦げ裂け、穿たれた傷から僅かに体液が漏れ出ていた。
「凄い……流石、Sランク、サンドワームと互角に渡り合ってる……」
「ハッ、賊に褒められてもなッ! それよりまだ斬れないのかッ!? グッ!!」
「ヴァアアアア!!!!」
「すみません。もう少し動きが鈍れば、確実に仕留められそうなんですが……」
リーファの言葉が示す様に、サンドワームは痛みによる怒りにより、もたげた首を激しく振り回しゴダックの展開したオーラの盾に頭を叩きつけている。
第四形態での攻撃は連発出来ない。確実に当てる為にはまだ弱らせる必要がありそうだ。
足を止め攻撃に耐えるゴダックに、サンドワームは大きく頭を振り上げる。
そんなサンドワームの背後に回ったサフィが、高く伸びた体に駆け上り、ダガーを突き立て虫の背中を滑り降りながら斬り裂いた。
「ヴォオオオオッ!!」
「クッ、大きすぎて対して効いてないわッ!!」
サフィのダガーは表皮に傷を刻んだが、ベルサ達と同じく有効打とはなり得なかった。
「これならどうだッ!!」
サフィと同様、サンドワームの死角に回り込んでいたクライブが、背中に走った痛みで悶えた巨体にすり抜けながら聖剣を叩き付ける。
竜の鱗さえ切り裂く聖剣の力は凄まじく、サンドワームの分厚い皮膚を貫き、斬りつけた脇腹からは内臓が流れ出した。
「ヴォオオ……」
流石にこれは堪えたのか、サンドワームの声は力を失っていた。
やがてその攻撃も精彩を欠いていく。
「フッ!! ハッ!!」
サンドワームが弱り始めた事を見て取ったリーファは、攻撃に合わせ気合の声を上げ耐えるゴダックに声を掛けた。
「ゴダックさん、次の攻撃でサンドワームの頭を跳ね上げて下さい」
「ホッ!! ようやくかッ! 次だな、行くぜ……ドラアアアッ!!」
ゴダックは再度シールドバッシュを放ち、サンドワームの振り下ろした頭をオーラの盾でカウンター気味に跳ね上げた。
まるでアッパーカットを受けた様にサンドワームの首が伸び天を向く。
その首を追ってリーファは飛翔、聖剣を振りかぶり、アルマリオスに伝えその両手と翼を完全に竜に変えた。
「全ての力を、同時に……」
吸血鬼を両断した時の感覚を思い出し、同時に浮かんできた吸血鬼のアレを振り払いつつ、息吹、竜の力、魔力の三つ、いや、羽ばたきも加えれば四つを同時に制御し一点に集める。
「……フ―――ッ。魔竜、星破斬ッ!!!!」
リーファは移動中に考えていた技の名前を叫びながら急降下、完全竜化した翼の羽ばたきを加え、全ての力を伸び切ったサンドワームに叩きつけた。
聖剣の放つ輝きが砂漠の夜と巨大な魔物を切り裂き大地に突き刺さる。
着地の衝撃で猛烈な砂煙が舞い上がり、ゴダック達の視界を一瞬でゼロにした。
「グオッ!! クソッ!! 何て威力だッ!?」
「やだッ、髪が砂まみれになっちゃうッ!?」
「ベルサさんッ、風魔法で砂を吹き飛ばして下さいッ!!」
「そんな事したら余計に砂が舞うじゃないッ!!」
そこかしこから聖王冠達の声が聞こえる中、砂漠に吹く風が砂煙を押し流していく。
視界が晴れた先には伸びた首と動体を真っ二つにされ大地に横たわるサンドワームの姿があった。
「……あの竜人、マジでサンドワームを一撃でやりやがった……」
思わずつぶやいたゴダックの耳に背後から少女の悲鳴が聞こえる。
「放して下さいッ!! レナはアルベルト様の奴隷なんですッ!!」
声に振り返れば、賊の一人、黒髪の盗賊が獣人の少女を小脇に抱え砂上船の船員たちに刃を翳していた。
「クソッ!! あの野郎、途中で戦闘から離脱してやがったなッ!? サフィッ、先行して奴を押さえろッ!!」
「分かったわッ!!」
「ベルサッ、ニーダンス!! 俺達も行くぞッ!!」
「はぁ、忙しいわねぇ」
「鍵を奪われると調達が面倒ですッ!! 急ぎましょう!!」
聖王冠の面々は砂漠を砂上船に向かって懸命に駆けた。
その上を白い飛竜が駆け抜ける。
「助太刀の報酬としてあの子は貰っていきますッ!! アルベルトの夢は邪神の罠ですッ!! これ以上、夢に従わないで下さいッ!!」
何処からか現れた白い飛竜はゴダック達に向けてそう叫ぶと、盗賊と獣人を攫い東の空へと飛び去った。
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