共闘
守護竜の扉を斬った何者かの存在はアルベルトの心に焦燥感を湧き上がらせた。
自分は勇者として人々の期待を集めている、それは一重に自分が一番魔王討伐に一番近いからだ。
「僕が一番上手く魔族と……魔物と戦えるんだ……」
そんな彼の焦りは、魔剣ロクニオスが精神を蝕み始めた事が多分に影響していたのだが、聖王冠のメンバーもアルベルト自身も気付いてはいなかった。
日々、接する者の微妙な変化。それは近くにいればいるほど気付かない物なのかもしれない。
ともかくとして、強さを得る事への焦りを感じていたアルベルトは魔剣ロクニオスを抜き放ち、迫りくるサンドワームへと刃を構えた。
■◇■◇■◇■
「すげぇ、あいつ、一人でサンドワームと戦う気だぜ」
「サンドワームを一人で対処……勇者の力を上方修正しないとなぁ」
ユーゲント砂漠上空、砂上船の痕跡を追って西に向かって飛んでいたリーファ達は、日の落ちる前には砂上船を捕捉していた。
後は隙を見て奴隷の少女を確保するだけだったのだが、砂上船はサンドワームに襲われ、一人、砂上船から降りたアルベルトが対処するのを見る事になった。
「そんな事言ってる場合じゃないです! アルベルトが船から離れた今がチャンスです!!」
「……あいつのいない間に奴隷を攫うのか?」
「はい、ただ、聖王冠の他のメンバーも強いので、何か気を反らす必要が……」
そう言って第三形態のリーファが砂上船に目を向けると、取り舵を切り南に向かい進んでいた砂上船の前方にも砂埃が上がった。
「やべぇ、サンドワームがもう一体……どうするリーファ?」
「降りますッ!!」
「おっ、おいッ!?」
リーファは砂漠に急降下し、クライブ達を下ろすと第二形態にその身を変え、背中に翼を生やした。
「クライブさん、聖剣を!」
「お、おう……」
リーファは服を着るのももどかしいのか、クライブが預けたポーチから取り出した聖剣を受け取ると、そのまま翼をはためかせ砂上船へと飛んだ。
「おいリーファ、何するつもりだよッ!?」
「……リーファは助けるつもりだ」
「助ける? サンドワーム襲撃の混乱に乗じて獣人を攫うんじゃないのか?」
「違う……僕も戦ったから分かるけど、聖王冠は勇者アルベルトを補佐する形で成り立ってる、攻撃の要の彼が抜けた今、聖王冠の攻撃力は三分の二……いや半分以下ぐらいまで落ちている筈だよ」
アルマリオスは理性を失い戦ったアルベルト達との戦闘を思い出しながら、聖王冠についての考察を語った。
巨漢戦士のコダック、彼は攻撃では無く防御に長けた重装戦士だった。
敵を挑発し攻撃を集中させ、他のメンバーへの被弾を減らす。
盗賊のサフィは戦闘においては遊撃手、戦場を駆け回りながら隙を突いて攻撃し、敵の混乱を誘う。
魔法組の二人、ベルサとニーダンスはパーティの補助と回復をメインとしていた。
そんな彼らの支援を受けて、アルベルトが必殺の一撃を繰り出す。
つまり、アルベルトの抜けた聖王冠は決め手に欠けるパーティとなるのだ。
アルマリオスの説明を聞いたクライブは頷きながら口を開く。
「なるほど、リーファはアルベルトの代わりを務めようってわけか……」
あのお人好しめ……相手はお前を生贄にしようとした連中だぞ……。
クライブは苦笑を浮かべると足を止めた砂上船に向かって走り始める。
「クライブッ、君が行った所でッ!?」
「うるせぇッ、そんな事は分かってんだよッ!! だとしても仲間をほっとけねぇだろッ!!」
仲間か……。
千年間、迷宮の最深部に捕らわれていたアルマリオスは、友人や仲間と呼べる存在とのやり取りを久しく経験していなかった。
だからだろう。クライブの言葉は乾いた砂に水がしみ込む様に、彼の心に浸透していった。
「たしかに何も出来ないかもだけど、放ってはおけないよね」
この仮初の肉体は会話以外に何も出来ないが、それでも傍にいれば出来る事もあるだろう。
そんな事を考えながらアルマリオスはクライブを追って翼をパタパタと羽ばたかせた。
■◇■◇■◇■
「チッ、待ち伏せしてやがったッ!! ベルサ、魔法で吹き飛ばせ!!」
「ふぅ……ゴダック、私がそういう強力な魔法の習得は後回しにしてるの知ってるでしょう?」
「クッ、んじゃ、ニーダンスッ、神の奇跡で!!」
「神の奇跡は回復と補助が基本です。巨大なサンドワームに通じる奇跡は、命と引き換えに願う神の顕現ぐらいしか……」
「ゴダック、正面切って戦うしか無さそうだよ……」
サフィがダガーの柄に手を置き顔を歪めると、ゴダックも愛用のバトルアックスの柄に触れた。
「仕方ねぇ、やるしかねぇか」
「あの、皆さん、私にも出来る事は無いでしょうか!?」
獣人奴隷、レナの言葉に聖王冠の面々は気まずげな笑みを浮かべた。
「あんたの出来る事は、船倉に隠れて死なない様にする事だけよ」
「でも……」
「よいのです。貴女にはこの先、迷宮での役目があります。それまではじっとしていて下さい」
サフィに苦笑を返され、ニーダンスにやんわりと諫められたレナは「はい」と小さく呟き視線を床に向けた。
そんなやり取りをしていた聖王冠の前に、全身に白い鱗を生やした女が舞い降りる。
「なっ、お前はッ!?」
「曲った角に白い鱗ッ!! アルベルトの聖剣を盗もうとした賊だなッ!?」
砂上船の甲板で鱗を生やした女、リーファと聖王冠は睨み合う。
「あのサンドワームは私が仕留めます。皆さんはそのサポートをお願いします」
「あッ? 何で賊のあんたに指図されなきゃなんないのよッ!?」
「確かに私はアルベルトから剣を盗もうとしました。ただあれは剣に呪いが掛かっていたからです」
「呪いですって……しかしロクニオスは代々の勇者が手にした由緒正しい聖剣の筈……」
「それは邪神が魔王を使って仕掛けた……」
「ヴォオオオオオオッ!!!!」
リーファが聖剣について真実を語ろうとした瞬間、砂上船にいた者達をサンドワームの咆哮が包み込んだ。
「とにかく今は協力をッ!!」
「協力ってあなたに何が出来るのよッ!?」
「サンドワームを斬れます」
「お前みたいな小娘にうちの大将と同じ事が?」
「そいつの言ってる事はホントだぜッ」
首を捻るゴダックに、いつの間にか砂上船の手すりにもたれ掛かっていた黒革の鎧を着た青年が笑みを浮かべ言う。
その肩には小さな白い竜が乗っていた。
「クライブさん……アルマリオスさん……」
リーファは来てくれたのだと思わず二人の名を呟き、小さく微笑む。
「賊の片割れか……」
「ねぇ、本当にアレを斬れるの?」
「ええ、ですから皆さんにはサンドワームの足止めをお願いします」
「……嘘だったら呪いをかけちゃうから」
魔女のベルサはそう言うと小さく呪文を唱え、砂上船の手すりからフワリと舞い降りた。
「ベルサ、ホントに賊に協力するのッ!?」
「じゃないと仕留められそうにないもの」
「チッ、ホントにやれるんでしょうねッ!?」
「はい、信じて下さい」
サフィは真っすぐに自分を見る異形の少女の瞳に、自分達が犠牲にした少女を思い出し視線を逸らせた。
「……しくじったら許さないわよ」
吐き捨てる様に言ってサフィもベルサの後を追い、砂上船から飛び降りる。
「……サフィまで……仕方ありませんね」
「共闘するしかねぇか……」
ニーダンスとゴダックも縄梯子を使い砂上船を下りた。
クライブとアルマリオスも二人を追って砂上船から飛び降りる。
最後に残ったリーファに獣人の少女は困惑しながら声を掛けた。
「あの……あなたは一体?」
「私はリーファルド・アルマリオス。唯の駆け出し冒険者です」
リーファはレナの問い掛けにそれだけ言うと翼を広げ、砂の海を泳ぐ大怪虫に向かう聖王冠の面々を追って、熱を失い冷え切った砂漠の空を飛んだ。
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