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英雄は強さを求める

 マッチョで露出狂な吸血鬼を倒したリーファ達は、アルベルトを追って大墳墓の入り口を目指していた。

 幸いと言っていいのか、アルベルト達が帰路の敵を倒してくれていたお陰で、それほど戦闘をせずに入り口まで辿り着く事が出来た。


 聖王冠(ホーリークラウン)もどうせならあの吸血鬼も倒しておいてくれればよかったのに。いや、それだと第四形態で放つあの技を使えないままだったかもしれない……結果としては良かった。

 リーファはそう思おうとしたが、技の事を考えると吸血鬼の局部がチラつくという状態になっており、割り切れない感情が溢れてくるのだった。


「……聖王冠(ホーリークラウン)の連中は引き上げたみたいだぜ。砂に橇の後が残ってるからそれ程、時間は経っちゃいないようだが……ってリーファ聞いてんのか?」

「ハゥッ!! すみません、またあの吸血鬼の事を思い出してしまって……」

「あいつ、色々濃かったからなぁ……」

「リーファは変わった人と縁があるのかもね……さて、それじゃあ勇者達を追おうか」

「変わった人と縁……私は素敵な人達との縁が欲しいです」


 ため息を吐きつつ、大墳墓の穴から出たリーファはクライブ達に向こうを向いて貰い、鎧と服を脱いで第三形態、竜形態へとその身を変えた。

 そう言えば、この竜形態と第四形態は違うのだろうか。どちらも竜だと思うのだが……。


「そっちの形態は飛ぶ事に特化してるんだよ。だから体も楽でしょ?」


 なるほど、第三形態は飛行特化、第四形態は戦闘特化って感じか……第四形態って今の所、部分変化だけど、全身を竜の体に変化させる事も出来るんだろうか?


「出来るけど、今の状態じゃすぐに動けなくなるよ」


 ……いい加減、アルマリオスさんが心を読むのにも慣れてきましたけど……。


「まぁ、いいです。ではお二人とも乗って下さい」

「ふぅ……獣人奴隷を確保したら次こそは鎧の呪いの解除だな」

「だね」

「奴隷の子を何とか出来たなら、私も異論ありません」


 ただ、獣人の子を解放したとしても、アルベルト達は別の少女を用意するだろうから、結局、先回りして扉を破壊するしか無さそうだ。


"まぁ、あの子を確保出来れば多少の時間稼ぎにはなる筈さ"


 ですよね……。


 アルマリオスに心の中で返事を返しながら、リーファは砂漠に残った砂上船の橇の後を追い西の空へと翼をはためかせた。



■◇■◇■◇■



 昼間は五十度を超える暑さのユーゲント砂漠も、日が落ちれば氷点下まで気温が落ちる。

 湿度が低く空気中に熱を蓄えられない砂漠は、日が落ちれば急速に熱を失っていくのだ。


「ふぅ……昼間もキツイが夜は夜で堪えるな」


 巨漢戦士のゴダックが甲板で羽織ったマントの前を両手で掴み閉め合わせる。


「もう少し走ったらオアシスですから、今日はそこで休みましょう!!」


 砂上船の舵輪を握る船長が震えるコダックに声を掛ける。


「おう、よろしく頼まぁ!!」


 今は順風で甲板には船長の他、数名の船員がいるだけだ。

 砂上船は基本、海の船と同様、木造で火が使えるのは厨房だけで、暖を取る方法は毛布にくるまるぐらいしか無く、船室もそれ程快適な訳ではない。


 ただそれでも吹きっ晒しの甲板よりはかなりマシなのだが……。

 そんな甲板にゴダックがいるのは砂漠の魔物を警戒しての事だ。

 代表的なのはサンドワーム、砂中を移動する巨大な芋虫で砂上船でも一飲みにしてしまう。

 この広大な砂漠で移動手段を失えば、如何にSランクのパーティであっても早晩干乾びてしまう事は確実だろう。


「……しかし、お宝を分捕った奴らはどうやって大墳墓まで行ったんだ……」


 墳墓には自分達以外の砂上船の痕跡は無かった。

 自分達が着く前に去ったのかもしれないが、それにしては守護竜の死体は新し過ぎる様に感じる。

 どちらにしても、このまま予知夢の武具を横取りされる事態になれば、戦力の低下は否めないだろう。


「ゴダック、何をボンヤリしてるんだい?」

「アルベルトか……いや、お宝を横取りした奴らはどんな奴かと思ってな」


挿絵(By みてみん)


「……あの扉の蝶番、君も見ただろう?」

「ああ」

「あれは魔法で破壊された物じゃない」

「斬られてたな……」

「うん……」


 頷いたアルベルトの横顔は悔しさで歪んでいた。

 ゴダックは彼の気持ちが分からなくもなかった。

 魔王討伐の筆頭候補として勇者と呼ばれているアルベルト。そのアルベルトであってもあの扉に傷をつける事は出来なかった。

 聖剣を手に入れた今ならと思ったが、アルベルト自身が無理だと感じているようだ。


「……もしかしたら魔王の手下が武具を奪ったのかもしれない」

「魔族の幹部が大陸内部に? 無い話じゃねぇが、今までの魔族はそんな搦め手は使ってこなかったろ?」


 力が全ての魔族はあまり策謀を好まず、攻撃の際はその殆どが力押しだ。

 魔族の国のある大陸北部からの各地への攻撃も、その肉体と魔力を背景にした正面突破が殆どだ。

 中には陰謀を巡らせる者もいるが……。


「……何か見落としてる……」

「やったのはやっぱ聖剣を盗もうとした賊じゃねぇのか?」

「彼らか……彼らには盗賊の方も竜人間(ドラゴニュート)もどきにもそんな力は感じなかったけど……」

「……ともかくだ。次の夢を見たらなるだけ急ぐとしようぜ」

「そうだな……」


 白い息を吐きながら聖王冠の前衛二人が話していると、右舷側の砂の海に砂煙が上がった。


「あの砂煙……サンドワームだッ!!」


 船長の叫びを聞いて聖王冠のメンバー、そして獣人のレナが船倉から駆け出してくる。


「あれがサンドワーム……」


 レナはサンドワームの巨体を見て、船の手すりに手を掛け呆然と目を見開いた。


「アルベルト、コダック。どうするね?」


 魔女、ベルサの問い掛けにコダックが即座に答える。


「俺の斧にエンチャントを掛けてくれ」


 そう言うとコダックはマントを翻し、背中のバトルアックスを構え身構えた。

 そのコダックの前にアルベルトはスッと左腕を伸ばす。


「なんだ、アルベルト?」

「あれは僕に任せて欲しい」

「何言ってるのよ、アルベルトッ!? サンドワームはドラゴンと同じぐらい危険な……」


 盗賊のサフィが声を荒げるが、アルベルトは静かに首を振り口を開く。


「僕はもっと強くなりたい。あの扉を斬った奴よりもずっと強く……その為にはより多くの魔物を狩らなきゃならないんだ」

「アルベルト……」

「……じゃあ、筋力増強(ストレングス)でも掛けようかねぇ?」

「いや、ベルサ、今回は自分の力だけで倒したいんだ」

「そうかい……」

「……ではせめて至高神の加護を……全ての神の長である偉大なる至高神ゼファルよ、神の子たるこの者に守りの加護を……」


 至高神の司祭、ニーダンスの祈りでアルベルトの体に金色の光が宿る。


「……ニーダンス」

「ご武運を、我が勇者よ」

「……ありがとう……船長ッ!! あいつは僕が引き受けるッ!! 君は皆を連れてこのまま退避をッ!!」

「えっ!? いいんですかいッ!?」

「ああ、オアシスの場所は分かってるッ!! それに事が終わればベルサが迎えに来てくれる!!」

「フフッ、夜の砂漠のデートねぇ」

「あっ、抜け駆けする気かベルサッ!?」


 そんな二人のやり取りに苦笑を浮かべ、アルベルトは右舷の手すりに手を掛ける。

 そのアルベルトの籠手に覆われた右手に小さな手がそっと乗せられた。


「あの……必ず戻って来て下さい……」

「……僕は勇者だよ。あの程度の魔物に遅れを取っていては魔王なんて倒せないさ」

「そ、そうですよねッ!!」


 目を輝かせたレナからそっと目を反らし、アルベルトは砂上船の手すりから砂の海へと身を躍らせた。

お読み頂きありがとうございます。

面白かったらでいいので、ブクマ、評価等いただけると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] アルベルトはアルベルトで使命感を持って戦ってるんですよね…… [一言] 吸血鬼……いつかきっと、また元気な姿を見せてくれると信じています……
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