故郷の味
「ふへっ!?」
ビクリと体を震わせ我に返ったリーファは視界に飛び込んで来た見知らぬ天井に、ガバリとソファーから身を起こした。
私、たしかアルマリオスさんに腰蓑ダンスを見せられて、腰蓑が段々と近づいてきてそれから……。
「起きたんだね」
意識を失う直前の記憶を思い出し、頭を振るリーファに小さな白い竜がパタパタと羽根を羽ばたかせ近づく。
「あ。アルマリオスさん……あの私は一体……」
「……君の脳に無理やり力の使い方を流し込んだ……それで君は朦朧とした状態のまま、息吹、魔力、第四形態の竜の力を同時に使って聖剣で蝶番を破壊したんだ」
「あ、扉壊せたんですねッ! 良かったッ!」
笑みを浮かべるリーファにアルマリオスは少し言い難そうに言葉を紡ぐ。
「リーファ……済まない、君の脳に無理やり知識を流し込んだのはやり過ぎだったよ……」
いつになく神妙なアルマリオスに、リーファは驚き目を丸くした。
「ど、どうしたんですか、アルマリオスさん、いつもは反省とかとは一番縁遠い所にいるのに……あっ、何か変な物を食べたとかッ!? 駄目ですよお腹が空いたからってその辺に落ちてる物を食べちゃ」
「……君ねぇ…………クライブに言われたんだよ。駆け出しなんだから無理させるなって」
「クライブさんが……それでクライブさんは?」
「君が正気を取り戻す間にお風呂に入って来るってさ」
「お風呂……そうだ、じゃあ今の内にご飯の用意をしましょう。第四形態になった所為かお腹が空いちゃって……」
そう言って押さえたリーファのお腹がクゥと可愛く鳴る。
「食事だったら、扉の向こう、一番目の扉が台所と食料庫だよ」
「食料庫……フフッ、なら私が腕を振るってご馳走を作りますかねぇ」
「……君、料理なんて出来るの?」
「馬鹿にしてもらっちゃあ困ります。故郷じゃ炎のリーファと呼ばれて、皆、ヒーヒー泣きながら私の料理を食べてくれたんですから」
炎は料理に火は付き物だから分かるが、泣きながら? 美味しくて泣いたという事だろうか?
「あのリーファ、あんまり凝った料理は止めて、焼くとか煮るとか簡単な物を……」
「駄目です。ただでさえ道中は干し肉とパンとか、栄養が偏った食事だったんですから、食べれる時にはバランスのいい物を取らないと……」
リーファは部屋の奥の扉を開けて廊下を進み一番目の扉、台所の扉を引き開けた。
台所には正面に大理石の調理台に流し、その横には魔力コンロだろう物が二つ並んでいた。
左手にはリーファの背丈を超える大きさの扉の付いた箱型の何かが四つ並び、右手には食器の並んだ棚が置かれている。
「左手の箱が食材を入れて置く箱だよ。時間魔法と冷気魔法が常時発動してるから、飲み物はいつでも冷えた物が飲めるよ」
「……アルマリオスさん、これ一つ持ち帰っていいですか?」
「いいけど……魔力供給タイプだから、ここから動かすとただの箱だよ」
「グッ……本当にままならないものですね……ふぅ……まぁいいです。では早速食材の吟味を……」
リーファは保存箱を開け、中にあった様々な食材を物色していき、調理台に並べると手際よく下処理を始めた。
「おっ、ここもレバーを動かすだけで水が……ほんと便利ですねぇ」
流しに設置された蛇口に関心しつつ、野菜を洗いキャベツは千切りに、トマトはくし切りに、コカトリスの肉は一口大にしてスパイスを混ぜた粉にまぶしていく。
それを見たアルマリオスは少し安心していた。
どうなる事かと心配したけど、食べられない物にはならなそうだ。
リーファは調理台の下を確認すると大きな鉄鍋を取り出し、それにオークの油を入れてコカトリスの肉を揚げ始めた。
どうやらメニューはフライドコカトリスの様だ。
アルマリオスは、揚げ物は後始末が面倒だからあんまりしなかったんだよねぇと、閉じ込められていた頃をしみじみと思い出していた。
小さな白竜が感慨にふけっている間にも、リーファは着々と肉を揚げていき、大皿に洗って千切ったレタス、千切りキャベツ、そしてトマトを並べ、油を切った肉を並べていく。
「わぁ、美味しそうじゃないか、ちょっと味見……」
「駄目ですッ! それはまだ完成していませんッ!」
つまみ食いをしようとしたアルマリオスの手をパシッと叩き、リーファは大皿に山盛りのフライドコカトリスを盛りつけた。
「いてっ! ……ちょっとぐらいいいじゃないか」
「駄目です。仕上げがあるんですよ」
「なんだい仕上げって……」
「これですッ!!」
そう言うとリーファは腰のポーチから赤い液体の入った小瓶を取り出した。
「……なんだいそれ?」
「フフフッ、これは私の故郷では定番のソースです……」
「……美味しいのかい、ソレ?」
「ええ、最高に刺激的で我が家ではこれが無いと始まりません」
「刺激的ねぇ……」
リーファの心からは美味しいそうという気持ちしか伝わってこないが、何となく不安を感じるアルマリオスを他所に、リーファはフライドコカトリスにドロッとした赤い液体を回しかける。
「完成しました。特製、炎のフライドコカトリス、ですッ!!」
「なんかいい匂いがするな」
匂いに釣られたのだろう、風呂上りのクライブが台所のドアを開け顔を覗かせる。
「あ、クライブさん、丁度いい所に。ご飯を作ったので食べましょう!」
「正気に戻ったんだな……それで飯? お前が作ったのか?」
「はいッ!」
「へぇ、意外と家庭的なんだな」
「えへへ、見直しました?」
嬉しそうに笑うリーファを見て、どうやら情報を無理矢理流し込まれた後遺症は無さそうだとクライブも笑みを浮かべた。
「ああ、見直した。それより早く食おうぜ。色々あって腹ペコだ」
「ですね。じゃあ私は大皿を部屋に運ぶので、クライブさんは取り皿と食器を運んで下さい」
「了解だ」
クライブとアルマリオスはその後、リーファが作った炎のフライドコカトリス(超激辛)を食べ、辛さに悶え苦悶の涙を流したのだった。
※料理はソースの掛かっていない所をクライブ達が、ソースの掛かった所はリーファが美味しく頂きました。
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