全ての力を……
顎に手を当てたリーファはひとしきりうんうんと頭を捻るとおもむろに口を開いた。
「……この部屋に暫く滞在しましょうか?」
「なに、この部屋に?」
「ええ。アルマリオスさん、部屋の扉は丸一日経つと締まるんですよね?」
「うん」
「だったら、毎日、締まる前に外に出て、開けるを繰り返せばいいじゃないですか」
「リーファ、たぶん邪神は勇者にこの場所を示すと思うけど、それは僕の予測であって絶対じゃないよ。それに勇者と鉢合わせする可能性もあるし危険だよ」
確かにアルベルトがここに来るという保証はない。
止まり続けている間に別の場所を攻略されたら、自分の様に生贄にされる娘が出るかもしれない。
他の方法、生贄を捧げなくてもいい方法……そもそも生贄が必要なのは扉があるからだ。
「うーん……あの扉壊せないですかねぇ」
扉は金属製で分厚く硬く、生半な攻撃ではビクともしそうに無かった。
だが、扉自体は壊せずとも、仕掛けを壊すなりなんなりして開けっ放しに出来れば。
「扉の破壊ねぇ……」
「……アルマリオス、俺達、盗賊が鍵穴の無い扉を開ける時は蝶番を爆弾なんかで破壊するんだが……あの扉の蝶番を壊せないか?」
「蝶番か……確かに扉本体よりは構造的に弱そうだね……第四形態で聖剣に息吹と魔法の力を乗せれば可能性はあるかも……」
「えッ、また第四形態ですかッ!? あれやると動けなくなるんですけど……」
「そこは調整するし、力を取り戻したからリーファの負担も軽くなる筈さ」
だから多分大丈夫だよ。アルマリオスはそう言ってアハハと笑った。
■◇■◇■◇■
かつて魔王アグニスが作ったという巨大な扉。
何か特殊な金属で出来ているらしいそれをリーファはコンコンと拳で叩く。
「めちゃくちゃ硬そうです」
「蝶番の部分はどうだ?」
扉自体は強固でも可動部分はどうしても弱くなる。
見れば蝶番は上と下、二か所に設置され扉を支えている様だ。
計四か所あるそのどれかが破壊出来れば、扉の開閉を阻害する事が出来るかもしれない。
「流石に蝶番の部分は扉自体よりは脆そうですね」
「……リーファ、聖剣で斬り付けてみてくれ」
「了解です。アルマリオスさん、第二形態を……クッ、かゆっ! あっ、でも今までより痒みが少ない!!」
「フフッ、僕は常に研究を重ねているからね……いつかきっと痒みの無い変身を君に送るよ」
「……お願いします」
なんだろうか、嬉しいんだけど痒みの無い変身って……普通、竜と融合するとかもっとカッコいい感じじゃないんだろうか……
。
「もっと沢山、僕の魂を取り返せばきっとカッコ良くなるよ」
「ホントかなぁ……はぁ……それじゃ斬ってみますね……フッ!!」
リーファは守護竜から回収した聖剣を構え、ギルド訓練所の教官、シュウゾ・パインヒルに教えられた打ち下ろしを扉の蝶番に叩き込む。
「ググッ!?」
蝶番に傷をつける事は出来たが、リーファの手首に強烈な痛みが走る。
その事でリーファは剣を取り落とし痛めた右手首を左手で摩った。
「大丈夫か、リーファ!?」
「ふぇぇぇ……やっぱりめちゃくちゃ硬いですぅ……」
「うーん……聖剣には刃こぼれは無いが、使う人間が先に壊れちまいそうだな。ほらよ」
クライブはリーファが取り落とした聖剣を確認し彼女に差し出す。
「あ。ありがとうございます……うーん、第二形態じゃ壊せそうにないですね」
受け取った聖剣の刃に目を落とし、リーファは一旦、剣を鞘に納める。
「でも傷は入ったね……リーファ、やっぱり第四形態を試してみよう。息吹、魔力、竜の筋力。その三つを聖剣に乗せればきっと……」
「まだやるのか? リーファの手首がいっちまうかもしれないぜ?」
「いいんですクライブさん……やらないと誰かが生贄にされちゃいますから」
騙されて殺される。あんな思いは誰にもして欲しくない。
表情からリーファの気持ちが伝わったのか、クライブはそれ以上何も言わなかった。
「……それでアルマリオスさん、ブレスの力や魔力ってどうやって攻撃に乗せるんですか?」
「それはね……説明しづらいな。直接僕の思考、やり方を流し込んだ方が早そうだ」
直接思考を流し込むッ!? えっ、何それ、ヤバい臭いしかしないんですけどッ!?
「ちょ、ちょっと待って下さいッ!!」
「おいアルマリオス、何する気だッ!?」
「大丈夫、大丈夫、痛いのは最初だけだから……」
「い、痛いって何です……グアアアアアッ!? あ、頭の中に見た事の無い人がぁぁッ、何であの人、半裸に腰蓑だけでダンスをッ!? ……見えるッ、見えちゃいけない物がッ見えちゃうぅッ!!」
「アルマリオス、リーファに何をしたッ!?」
突然、悲鳴を上げ頭を抱えて両膝を突いたリーファの横にしゃがみ、クライブはその背中を摩ってやりながら声を荒げる。
「あっ、ゴメン。ちょっと別の記憶が混じっちゃった……」
「別の記憶って大丈夫なのかよッ!?」
「力の使い方は言葉じゃ伝えにくいんだ。感覚的な物だからね……君も盗賊なら分かるでしょ」
確かに罠の解除、鍵開けなんかは反復練習によって身にについた指先の感覚に頼る所が大きい。
それを言葉にして伝えても、伝えられた者がすぐに習得できる技術では無いだろう……。
「しかし、この苦しみ様は……」
「うぅ……靴……とんがった靴を履いた人が……凄く速いステップを……」
「あ、ゴメン、また別の記憶が……ちょっと集中するね……」
「……ググ……拳に……力を……感情の昂ぶりと……うぅ……魔力操作……」
リーファは頭を抱えたまま、しばらくブツブツと呟いていたが、やがてゆらりと立ち上がり虚ろな目で巨大な蝶番に視線を送った。
そのままゆっくりと腰の聖剣を引き抜き振りかぶる。
「お、おい……」
「感情を高めると同時に……魔力を腕に……」
「第四形態」
振りかぶったリーファの両腕が人サイズの竜の物へと変化する。
いつもは変化がもたらす痒みに反応するリーファだが、その時は表情一つ変える事は無かった。
「クライブ、下がった方がいい」
「お、おう……」
リーファに何が起きたのか、いつもと違う彼女に注視していたクライブは、アルマリオスの言葉で我に帰り、慌ててリーファから距離を取った。
「全ての力を……同時に放ち……全ての力を……同時に制御する……フッ!」
余りにも静かに、淡々とリーファは口にした事を実行した。
竜の膂力を体内に湧き上がった息吹の力が後押し、爆発拡散しそうになるその力を魔力が押さえ込み一点に集中させる。
「なッ!?」
クライブにはその時、一瞬世界が寸断された様に感じられた。
トサリッ、そんな音を立ててリーファが床にしゃがみ込む。
その向こうでは上下の蝶番を断ち切られた大扉がゆっくりと手前に倒れ初めていた。
「やべぇっ!!」
クライブは慌ててリーファに駆け寄り、彼女を担ぐと倒れる扉が起こすだろう余波から逃れる為、ボス部屋へと駆け戻った。
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